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2018-12-27

羽生善治九段で学ぶ将棋棋士の段位・肩書き

去る12月20日・21日に行われた第31竜王戦番勝負第7局は広瀬章人八段の勝利に終わり、

4勝3敗で広瀬八段が羽生善治竜王から竜王」のタイトルを奪取しました。

これに伴い無冠となった羽生善治氏の肩書きが「九段」となることが連盟から発表されました。

なんで肩書きでこんなに騒ぎになっているのか?と訝っている方や、

そもそも仕組みが分からんという方のために、将棋棋士の段位・肩書きの付け方について解説していこうと思います

オタクなので門外漢の素朴な疑問に早口長文で答えてしまう)

肩書きの付け方・基礎編

以前も増田で書いたような気がするのですが、将棋棋士の段位は四段からスタートし、複数ある条件のいずれかを満たすと昇段します。

例えば四段の棋士場合

のうちいずれか1つを達成すれば晴れて五段に昇段です。

多くの棋士はこういった昇段規定に従って四段~九段の段位を肩書きとして名乗ります。なお、原則として降段はありません。

例:都成竜馬五段(2018/「順位戦C級1組昇級」により四段→五段昇段)

肩書きの付け方①

先程「多くの棋士」と書きましたが、例外があります。全ての棋士たちの中から勝ち上がり頂点に立ったタイトルホルダーたちです。

将棋界には数ある棋戦(大会)の中でも特に権威ある8つのタイトル戦があり、「8大タイトル」と称されています

これらのタイトルを勝ち取ったわずかな棋士けが段位ではなくタイトル戦の称号を名乗ることが許されるのです。かっこいい!

ただし、タイトル戦の称号肩書きとして名乗っている間(タイトルを保持している間)も昇段規定適用され続けるため、タイトルホルダーも内部的には段位があります

従って、今回の羽生九段のようにタイトルを全て失った場合、内部的に保持している段位を名乗ることになるわけですね。

例:佐藤天彦名人(「名人」保持者かつ九段
例:斎藤慎太郎王座(「王座」保持者かつ七段)

肩書きの付け方②

さて、数ある棋戦の中で上記の8大タイトルを制した者だけが特別称号を名乗るということはお分かりいただけたと思います

更にその上で8大タイトル間にも序列があり、それによって肩書きが変わることがあります

8大タイトルの細かい序列スポンサーとの契約金で決まるとされているため、契約内容によって序列は変動しますが、

基本的に「竜王」と「名人」が特に格上であり、肩書きとしても他タイトルより優先されます

以下が現時点の8大タイトル序列順)とその保持者・段位一覧です。

現在将棋界は8大タイトルを何人もの強豪棋士が分け合う戦国時代とされています

今期は豊島将之八段が王位棋聖の二冠を手にし「豊島将之二冠」と称されるようになりました。

このように、複数タイトル保持者の肩書きタイトル保持数(漢数字)+「冠」とするのが通例です。

例:羽生善治三冠2006王位王座王将を保持)
例:豊島将之二冠(2018/王位棋聖を保持)

しかし、複数タイトル保持者が「竜王」「名人」のいずれかを併せ持つ場合は「竜王」「名人」の肩書が優先されます

例:渡辺明竜王2015/竜王棋王を保持)

では「竜王」「名人」を併せ持った場合は?

一応は竜王が格上とされているので「竜王名人」と称されますが、名人戦を主催する新聞社の紙面では「名人竜王」になるとかならないとか…(大人の事情

例:森内俊之竜王名人2013/竜王名人を保持)

肩書きの付け方③:特殊事例

以上が棋士肩書きの付け方になりますが、ごく一部イレギュラーパターンがあります

「前竜王」/「前名人

将棋界の最高峰タイトルである竜王」と「名人」は、タイトル保持者が失冠してから1年間「前竜王」「前名人」を名乗る資格が発生します。

もつ最近まで知らなかったんですが、これらは準タイトル保持者として扱われ、通常の段位持ちに比べシード権など待遇も変わるそうです。

例:中原誠名人(1993)
例:羽生善治竜王(1990)

↑初タイトル竜王を失った後に名乗るも、その4ヵ月後に棋王を獲得し、以後27年間タイトル保持を続けたので超レア肩書き

永世称号

永世称号とは、8大タイトルのうち叡王を除く7つのタイトル戦において、連続または通算規定の回数以上タイトルを獲得した棋士に与えられる特別称号です。すげー難度高い実績解除みたいなもんですね。羽生九段は現行棋戦の永世称号をただ一人コンプしてます永世七冠)。

これらの永世称号原則引退後に名乗ることができますが、連盟に認められれば現役から名乗ることができます

例:中原誠永世十段(1994)
例:米長邦雄永世棋聖(1998)

【ここまでのまとめ】

将棋棋士肩書き(段位)は四段~九段だよ

・8大タイトルを獲るとそのタイトル称号肩書きになるよ

・8大タイトル複数獲った時は8大タイトル間の序列肩書きが決まるよ

・前竜王、前名人永世称号など例外あるよ

羽生善治氏のケース(2018)

さて、前置きが長くなりましたが本題です。

今期竜王戦で敗れて無冠となった羽生善治氏の肩書きには以下の選択肢があります

①「九段

②「前竜王

永世称号の襲位

九段

これが最も自然もので、実際羽生氏本人もこの現段位を肩書きとして名乗る意向とのこと。

羽生氏が九段に昇段したのは1994年ことなので、九段昇段から実に四半世紀を経て初めて名乗ることになるわけですね。

さすが将棋星人はスケールが違うぜ。

②前竜王

Twitterとか見てると「『前』などという未練がましい肩書きを望むのはバカ政治屋経営者だけ!羽生さんともあろう方が選ぶわけがない!」みたいな人がぼちぼちいたので、その手に持ってる板でググればいいのになぁって思いました。

既に述べていますが、羽生九段はかつて初タイトル竜王を失った後、次のタイトルである棋王を獲得するまでの4ヵ月間ほど「前竜王」を名乗っています

従ってこのレア肩書きが再度生まれるかどうかは(一部の)将棋ファン的にはそこそこ注目どころだったんですよ!!(そうか?)

そもそも「前竜王」の肩書きはさほどネガティブものではなく、以前はそれなりに使われていました。初代竜王島朗九段、現連盟会長佐藤康光九段竜王失冠後の1年間「前竜王」を名乗っています

(まあ敗北が前提の称号なのであんまりカッコがよろしくないというのは分かります

しかし、近年は資格のある棋士でも「前竜王」を名乗ることはなくなりました。

一説によると、1998年度に竜王名人を失い「前竜王・前名人」を名乗る資格を得た谷川浩司九段が双方を辞退し、通常の「九段表記選択したことが影響を与えているのではないかと言われています

さすが光速流は度量が違うぜ。

永世称号の襲位

原則引退後に名乗るものなので最も可能性は低かったものの、最も浪漫溢れる選択肢でした。以下、羽生九段の持つ永世称号一覧です。

称号棋戦永世称号獲得条件羽生九段の戦績
永世竜王竜王戦5連覇 or 通算7期通算7期(2連覇)
十九世名人名人通算5期通算9期(3連覇2回)
永世王位王位戦5連覇 or 通算10通算18期(9連覇)
名誉王座王座5連覇 or 通算10通算24期(19連覇)
永世棋王棋王戦5連覇通算13期(12連覇)
永世王将王将戦通算10通算12期(6連覇)
永世棋聖棋聖戦通算5期通算16期(10連覇)
永世七冠ぜんぶぜんぶとるぜんぶとった

さあ好きなのを選べ!!!

(おまけ)

名誉NHK杯選手権者」←羽生九段しか持ってない激レア称号NHK杯通算10回優勝)

国民栄誉賞」←すごい

将棋星人」←すごい?

羽生善治といえばやはり言わずと知れたレジェンドであり、無冠に後退してもなおこれほどまでに豊富肩書き候補を持つという点が、人々の厨二心もとい興味関心をかき立てて話題となっているのではないでしょうか。

だってみんなかっこいい称号とか考えるの好きでしょ?

さて、今日のところは以上です。

最後に、

広瀬章人竜王、8期ぶりのタイトル獲得おめでとうございます

羽生善治九段、七番勝負お疲れ様でした!

インターネットの片隅から両者の今後のご活躍を祈念しております

あ、はてなの皆さんには良くも悪くも本年はお世話になりました。よいお年をお迎えください。

FAQ

Q. 九段+実績加味して「十段」でいいじゃん?

実を言うと「十段」という肩書きはかつて実在しました。昔、将棋棋士の最高段位は八段だったんです。

そこにタイトル戦として「九段戦」が設立され、その勝者が称号九段」を名乗ったのですが、その後「段位としての九段」も定められ、両者が並立する時期が続きました。

その後「九段戦」は「十段戦」になり、称号十段」が生まれ、その「十段戦」が発展解消という形で最高峰棋戦「竜王戦」が生まれたのです。

こういった経緯があるため、羽生九段がすぐに「十段」を名乗れるかというと、連盟内部のみならずかつての「十段戦」主催者(読売新聞社)など関係各所との調整が必要になるので難しいかもしれません。

将来的に新たな段位として定められる可能性は無きにしも非ずといったところか。でも響きがかっこいいね!

Q. 「羽生七段」と「羽生八段」は幻に…

これは肩書きの付け方①でも述べましたが、

棋士タイトルを保持して称号を名乗っていても昇段規定適用されているので、タイトル保持中も規定を満たせば昇段します。

従って「六段から七段八段をすっ飛ばし九段へ」という認識であれば誤りです。

「七段・八段だった時期はあるが、名乗る機会がなかった」というのがより正確です。

あくまで「既に持っている九段を名乗る」のであって「無冠になったか九段昇段」ではないので。

羽生善治・昇段履歴

昇段日段位適用規定
1985年12月18日(15歳)四段13勝4敗:史上3人目の「中学生棋士
1988年4月1日17歳五段 順位戦C級1組昇級
1989年10月1日(19歳)六段竜王挑戦
1990年10月1日(20歳七段前年の竜王位獲得による昇段
1993年4月1日(22歳)八段順位戦A級昇級
1994年4月1日23歳)九段タイトル3期獲得

23九段ってのもなかなかとんでもねえですが、実は今の最年少九段昇段記録保持者は渡辺明棋王(当時21歳)です。まあ昇段規定改定も多少影響してますが。

Q. わざわざ大々的に発表しなくても…

単純に注目度が高い案件だったので話題作りもあるでしょうけど、

一発どーんと発表しておけば今後の報道における敬称表記も混乱しないのでまあよいのでは。

Q. 羽生さんほどの偉大な棋士に今更肩書きなど必要だろうか?

まあ一般的にはそれでいいんですけど、実際の棋戦運営にあたっては肩書きがそのまま棋士序列になるのでひとまずは何か決めないといかんのですよ。

例えば今回の三択①「九段」、➁「前竜王」、➂永世称号襲位の場合

序列は上から➂➁①となります。この序列に従って対局時の上座下座を決めたり、上手下手(うわて・したて)を決めたりするわけですね。

これに加えて、前竜王永世称号襲位者は一部棋戦でシード権が与えられたりもするので、連盟的には「今更肩書きなんて必要ない」というわけにはいかないんですね。

Q. 連盟発表の「羽生善治呼び捨て)」で草

連盟の内部事情はあまり分かりませんが、インターネット上では見出しネタバレを避けた説が囁かれていますね…

いやそれにしても「当連盟所属棋士羽生善治」とか単に「棋士羽生善治」とかいろいろ書きようあったでしょとは思った。

そういえば以前「団体職員」という肩書きTVクイズ番組に出演した十八世名人(当時八段)がいてぇ…一体何内俊之なんだ…

Q. 羽生さん弱くなってしまったん?

今期の彼の調子を鑑みれば今回の竜王戦、敗れはしたもの好調広瀬八段相手に最終局まで持ち込んだのはある意味驚きだなというのがいちファンとしての個人的感想です。ただ、全盛期と比べるとさすがに衰えは否めませんが、まだまだ強豪の一角であることは間違いないです。

参考に12/26時点のレーティング上位10名置いておきますね。

最年少は16歳(藤井

最年長は48歳(羽生

平均年齢は29.2歳

順位氏名年齢レート今年度増減前年同月比
1広瀬章人竜王31192793153今期絶好調で唯一の1900台と1位をキー
2渡辺明棋王34187410479昨年の不調から完全に復活
3豊島将之二冠(王位棋聖281872-7-8二冠を獲得し戦国時代を一歩抜け出すか
4永瀬拓矢七段26185211そろそろ初タイトルが欲しいところ
5藤井聡太七段16185155115みほんとに高校生?周回プレイしてない?
6羽生善治九段481837-1014将棋つよつよおじさん@無冠
7佐藤天彦名人3018345124名人3期目だがそろそろ複数タイトルも…
8千田翔太六段2418255539今期8割超の高勝率
9斎藤慎太郎王座2518182612今期は初タイトルを獲得し飛躍の年に
10稲葉陽八段301793-48-20一昨年の名人挑戦者も今期は苦戦
 
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