どこにも書けないのでここに吐き出す
ただの自分語りで内容はフィクション、読んだら不快になるであろうと思われる事を先に言っておく。
モテない。
俺はモテなかった。
小さい頃から見た目もブサイクでぶくぶくと太っていて、顔立ちの綺麗な親にも「ブサイクだね笑」だなんて笑われながら育った。
幸いにも見た目が理由でいじめられたり、というような事はなかったが明るいブサイクという感じで俺は女性と縁が無いまま横幅を含めてすくすくと育った。
TVやネットで見るような恋愛の煽りを、自分には関係無い、と思いながら
ネットで呪詛を吐き出し、アニメーションのかわいい少女達へと精液を消費するいわゆる典型的なブサイク・キモ・オタク だった。
兄貴は俺と対照的に女をとっかえひっかえしており、俺のコンプレックスは加速していった。
することが無かったので、見た目に恵まれなかったので、加速したコンプレックスで努力した。
楽しそうに振舞う恋愛強者を尻目に、勉強し、本を読み、ネットに浸った。
おかげで周囲の環境や家系に対してはそこそこの学業成績を出せるようになり、年齢に似合わないコンプレックスによって醸造された屈折した視点と切り口を得ることが出来た。
気づくと16歳になった。
ネットに入り浸ることで4つ年上の女性とネットで出会い、恋愛感情が芽生えた。
会えば嫌われる。なので、またコンプレックスを加速させることにした。
見た目に対して努力しだした。ぶくぶくと太っていた体重を20kg近く削り、見た目に気を使って最高の状態でその人に会えるようにした。
そうして、俺は彼女と初めて会った。
といっても、別に見た目を重視していたわけではないのでどうでも良かったのだが。
年上でありながらも俺より子供のようないわゆるメンヘラに近かった。
そうして初めて彼女ができた。が、出会い方や彼女の見た目もあり恥ずかしくて友達や親には黙ったままそのままダラダラと5年間付き合った。
これを逃せば俺にチャンスは無い。そんなことを信じながらだらだらとゆるい幸せに浸かり続けた。
最初は好きだった気がするが、今思えばもう半年もすれば感情は無かったのではないかと感じるようになった。
何度も別れ話を切り出され、そのたびに口上手く丸め込みだらだらと付き合っていた。
もう興味は無かったが彼女がいない自分が怖くて、まともに対応しないままラインや電話も取り合っていなかった。
5年がたち、俺は大学生になり彼女は26になった。相手はもう結婚を考える年齢だ。
このまま流されて結婚してしまうのだろうか、とかそんなことを思いながら限界を迎え、ついに別れた。
初めての失恋にはショックだった。月日は長かったらしい。
別れてからの数ヶ月で今までに無い勢いで成長した。
勉強に向き合った。女がいない自分に価値が無い気がして怖かった。
昔から嫌だった。初対面の人間に「彼女いるの?」と聞かれるのが。なんでそんなプライベートなことを大して仲良くもないお前にこぼさなきゃならないんだと思いながら
「いないよ」と嘘を吐いた。思えばあの時からもう片鱗はみえていた。
昔から心理学の本を読むのが好きだった。人が見える自分は素晴らしく、理解できる自分に価値がある気がした。
モテる心理学!ブラック心理学!なんても俗なものから専門書まで暇なときにちょくちょく読んでいた。
意味不明な視点と考え方から、根拠はないが人よりも人の気持ちに昔から敏感だったように思う。
言葉の節々や小さな仕草から相手が何を考えているのかわかるような気がした。
同時に、恋愛も脳内物質の機械仕掛けに過ぎない気がしていた。抱擁で分泌されるホルモン。オーガズムで分泌されるホルモン。
機械仕掛けに脳は刷り込まれていく。愛の正体はホルモン。だから、相手の脳内にそれをたくさん分泌させてやれば相手に自分を刷り込ませられる。
別れて3ヶ月。新しく一つ年上の彼女が出来た。
モテ無いと感じていたが、18くらいから見た目に大きな変化が現れていた。
顔立ちは濃くはっきりとしていて、振る舞い方も随分と覚えた。昔より会う人間にモテそうといわれる事が多かった。
あ、俺ブサイクじゃなかったんだ。うすうす気づいていた。
そうか、はっきりと女を望んでいなかっただけで実は思ったより自分に魅力はあったらしい。
そっか俺実はモテるんだなって気づいた。けど、男は見た目の問題ではない。
モテるという言葉は嘘である。どれだけ見た目に優れていようとも男は見た目ではない。女に向かっていかなかれば意味はない。
新しく出来た彼女はかわいかった。相変わらずメンヘラの気質だったが、人前で手をつなぐことも友達に紹介することも恥ずかしくなかった。
見た目は大きな要素ではないと思っていたが、単に俺のプライドが高かっただけらしい。
村上龍がエッセイでこんなような事を言っていた。「美しい女が自分の前で裸になり、好きにしていいと言われる事、それこそ男としての承認だ」と。
今ならわかる、そのとおりだ。俺は美しい女に愛される自分を通して自分に価値を見ていた。
自分なしでは生きていけない相手が、必要とされる俺が好きだったのだ。
そうして付き合って一ヶ月。
普段は目立たなかった俺だが、あるきっかけで広く人目につく機会を得た。
端的に言えば、出会いが増えた。
人目に晒されることで周囲に女性が増えた。
気づけば、一人の俺より若い女から熱烈なアプローチを受ける事になった。
まんざらでもなかった。こんな俺でも必要とされている。
気づいた時には付き合い、隣で女は寝ていた。
「こんなしょうもない人間の癖になに腕枕なんてしちゃってんだよ」って、ツッコミを入れながら
悪友の影響で好きでもなく辞められない煙草を吹かして独りで笑っていた。
ラブホテルの照明が、小学生の時の図工の時間に書いた目玉にとてもよく似ていた。
俺の中では、本当につい最近まで小学生だったのに、何かっこつけて腕枕なんかしちゃって、煙草なんてゴミみたいな物に日常を煙に巻いてんだ、と思った。
女がいなかった数ヶ月は本当に成長できた。今まで不可能だと思ってたことに挑戦し、努力し、成し遂げられた。
生まれたからには仕方なく生きる、俺の全盛期はいつだった。そんな事を口にするのは俺は昔から絶対に嫌だった。
昨日より成長してなければ意味が無い。そんな事を思っていて、常に不安だった
不安だからこそ成長できたように思う。常に不安で仕方なく、それを誤魔化すために努力した。
しかし、女が出来てからは違う。生きているだけに無条件に承認されたしまう。
違う、と思った。
生きている事は価値かもしれないが、俺は嫌だったそんな事は。
ふと昔見た映画を思い出した。主人公が夢の為に付き合っていた女を振るのだ。
確かにそうだ、本当に成し遂げたいことがあれば女は枷になることが多い。
二股をかけてみて、何も楽しくは無かった。
二人から求められている事は、不安を取り去り、罪悪感を生み、俺の成長を止めた。
後ろめたく、首筋をつめたい手に掴まれている感覚が抜けなかった。
どちらかを選ぶのはムリだ。だって、多分。二人とも好きじゃない。
初めて付き合ってた彼女が付き合う前に年上の30台の男との事をよく語っていた。
俺はそれがたまらなく嫌で、高校生の俺がそいつに勝つには圧倒的に時間も何もかもが足りてなかった。
生きていれば経験値は溜まる。男は年を経る事に確かに価値が増すように感じる。
だから、若い女が年上の男に夢をみるのはムリも無い。彼らは安定している。
しかし、そんな事で成長できるとは思えない。年上の人生レベルの高い人間といれば、楽々人生は進むだろう。
高い戦闘力で色んなことを蹴散らしてくれる。しかし、気づけば残るのは若さしか価値の無い女だ。
それならまだいいが、数年もすれば年老いたただの人間になる。そうすれば、何も出来ない人間になってしまう。
男が「何も知らない女」に夢を見るのと対象的に、
女は「何でも知ってる男」に夢を見るのかもしれない。
でも行き着くところは同じ。
男は「何も知らない女は寛容で、何でも知ってる女は狭量だ」と思ってる。
女は逆で、「何でも知ってる男は寛容で、何も知らない男は狭量だ」と思ってる。
成し遂げたい事は何かを考えた。
そう思ったとき、双方が枷だった。二人から貰ったペアリングが、手錠であり、足枷であるように感じた。
もう嫌だった。自分に価値を無条件に認められることが、しょうもない人間なのに生きているだけで肯定されるなんて意味不明だ。
このままゆるい幸せがだらだらと続いたところで、どこかできっと悪い種が目を出してもう色んなことがおしまいになる。
そう思った深夜2時。川を渡す橋の手すりに立った。
演じる事でそれがいつかホンモノになると信じているからだ。
しょうもない。こんな物に囚われている。もう嫌だ。自分の事は自分で決める。
そう信じて、ドラマの主人公のように指輪を投げ捨ててそのまま飛び降りて川に身を投げた。
枷は取れた。壊した。
そのまま、二人を捨てた。
もういいやと思った。
世の中にはそんなことよりも楽しいことが死ぬほど転がっている。
その枷に囚われてそれを拾えない事のほうがよほど不幸だと俺は思った。
俺は、こうして今もモテないままでいる。
そうして心もブサイクなままだ。
でも、それでいい。
だらだらと無条件に愛されるくらいなら、モテないブサイクでいるほうが余程幸福だ。
今、俺を縛るものは何もない。
ただ、時折感じるやるせなさについては、飲み込むまでまだまだ時間がかかりそうだ。