誤字ではない。
居眠り「した」のではなく「されて」受験に落ちた人がいる。この理不尽さを誰かに吐き出したく、殴り書きさせて頂く。
身分はぼかして書くが、とある国立大学の大学院における選考会議の様子を把握できる者だとだけ言っておこう。
言うまでもなく選考過程を漏らすのは御法度である為フェイクも多々入れるが、多めに見てほしい。
詳細を記す前に、まず大学院の選考方法を説明する。といっても甚だ単純で、基準は基本的に「教授が忙しい間を縫って面倒みてやってもいい論文が書ける学生と判断したか」の一点に尽きる。こう書くと随分いい加減に思えるかもしれないが、基本的に研究というのはプロ同士であっても「こんなの研究と認めたらこの分野崩壊するわ!」とか平気で批評しあう世界なので、ましてやペーペーの学生の研究に価値があるかなど真剣に議論しても満場一致の答えなどでない。よって、直接面倒を見て博士論文指導をする教授に一任されるのである。無論、ある程度外国語技能や専門分野の知識のチェックはされるが、レベルの高い大学ほど論文が全てという傾向は強い。何か国語話せようが知識が凄かろうがあまり関係なく、教授に「この研究は自分、ひいては業界の役に立つ」と思わせるのが肝要である。当然、コネによる入学や担当教授の暴走を防ぐ為に「副査」と呼ばれる、一緒に論文をチェックする人もいるが、副査は指摘すべき点がない場合はまあ無難な点数を出す。担当教授(主査)と違って、専門分野ではないから評価が難しいし専門家が採るといってる者を落とす理由がないからだ。よっぽどのことがない限り、主査が入れる気があるかどうかで可否が決まる。
特に、この大学は絶対博士号をとらせる大学(学生向けのキャッチコピーではない。国がそういう事業の一環として認定し、補助金も多く出している)である。博士課程というのは卒業すれば博士号がでるわけではなく、むしろ在学中にとれない人の方が多く、所謂「満期退学」になりその後何年も経ってから博士号をとるのがスタンダードなのは有名な話だが、この大学は殆どの生徒にとらせるべく指導するというわけだ。これが何を意味するか。めんどくさいのだ。博士号とらせなきゃいけないからといって、基準が緩くなったりはしない。日本ではなかなか貰えない博士号を、確実に取らせなければ怠慢と言われるのである。当然、教授の負担は大きく、できれば採りたくないとさえ考える人も多い。そのうえ、この大学は方々から国にスカウトされてきた研究者が教授になっており、それぞれ現役で研究に励んでいる。というか、研究所に大学がくっついているという状態なので、教授はそれぞれ優秀故に「自分は研究者」という意識が強く、彼らにとって学生の指導は副業である。職人と丁稚奉公みたいな関係、というと分かりやすいかもしれない。本来自分の研究だけでお金を貰える人が、そんなにできるなら学生も見てよといわれるわけである。当然給料はいいし研究費もたんまり貰えるが、まあやりたくない。大学側も研究でも成果を出してほしいので、毎年わずかな生徒しか入れず、教授たちはそれぞれ数年に一人担当すればいい方だ。つまり、採ったら最後責任が重いし採らなくてもそんなに怒られない。故に、プライドが高く研究意欲のある教授がと重い腰をあげた時点で合格というわけだ。だいたいこんな風にして合否は決まる。
長くなってすまない。本題に入ろう。
居眠りしていたのは主査(実際に面倒を見る予定の人)ではなく、副査(担当しないが論文チェックはする人)だった。
長々と書いた通り、この大学で学生を採るというのはめんどくさい。しかし、おとされた学生は幸運にも主査に合格点を出された。何人かいる副査も無難な合格点、人によっては少し高めの合格点をつけたりもして、問題なく入れるはずだった。しかし、一人の副査が、法外に低い点数をつけたのである。理由は定かではない。何故なら、点数を発表した会議でその教授は爆睡しいたからである。
これがもし、何がおかしいという顔で鎮座していたならあるいは、合格を出した主査の姿勢を問い直す必要もあったかもしれない。
自分が採るわけでもない生徒にとんでもない低い点数をつけた、まではもしかしたら研究へのこだわりであったかもしれない。いくら自分が面倒を見なくても、こんな学生を入れては国立研究機関の名が廃る、とかそういう信念のもとの行動だったのかもしれない。主査の教授のメンツに泥を塗ったと嫌われても、他の教授に非常識な奴と白い目を向けられても、研究のレベルの低い生徒を入れるわけにはいかない。ありえない行為に騒然となる会議室で、それでも己の信念に基づいて何が合格に足らないのかを雄弁に語ろう。そういう覚悟と純粋さ故の頑固さがこのような事態を招いたのかもしれない。もしそうだったなら、研究所内での自分の立場など顧みない、人間関係など研究においては関係ない、そういう研究者としての誇りある人物だといえるのではないだろうか・
しかし、そんな一抹の擁護の可能性を吹き飛ばす爆睡。一般企業なら上司から爆弾を落とされるレベルの、爆睡。ヤバいと思った隣の席の教授に、つついても声をかけても、起きないと確信される、爆睡。一切の説明責任を拒否する、爆睡。
採る予定だった学生を予想外に落とされ愕然とする主査、ドン引きする他の教授、眠り続ける副査。
あまりにあまりな顛末に、良心的な教授の間では「あれは狸寝入りだったのではないか」説まで出始めた。「本当は私情で落としたので、何故こんな点数をつけたのかと追及されるのを逃れる為に、あんなことをしたのではないか」「学生の論文の出来に嫉妬し、しかし無理に難癖をつけるのはプライドが許さず、苦肉の策だったのではないか」「本当は気が小さい人で、主査のメンツを潰すのがしのびなかったのではないか」という憶測が飛び交ったが、定かではない。個人的には、そんな深い事情はなく、なんか気に入らなかったからじゃないかと思う。学生も
気の毒だが、寝てた人の点数でも考慮せざるを得ないのが、寝てた人を怒れないのが、寝てた人でも教授になれちゃうのが、国立研究所である。一例だけで申し訳ないが、国費をかけて研究者を増やそう!という研究所でこういうことが起こり得るのが今の研究者の現実の一端である。
税金が投入されている上にキモくて金のないおっさんの貧困問題について真面目に考えていただけない人達がどうなろうとどうでもいいと思います