2018-06-16

動物病院台所事情

最初から開業意識すること

動物のお医者さんで食べていくのは厳しい。

人生お金じゃない、と大学生社会人一年目の時は思っても、現実直視すれば9割の人は考えを変える。

もしあなた動物のお医者さんを志すならば、動物病院経営する必要がある。

動物病院世界終身雇用制度ほとんどないと言っていいからだ。

人の病院はと違い、数人でやってる個人事業主だ。

人の病院で例えれば、民家を改装した町医者みたいなものだ。

数年は動物病院薄給で働き、その後開業するというのが動物病院ビジネス常識だ。

動物病院も飽和状態で、新規開業が難しくなってきた昨今だと、生涯勤め人獣医でいいという人も増えてきて、その流れをうけてかなり長く雇うところも出てきている。

ただし、動物病院であっても飽和状態で潰れるくらいのご時世で、高給が得られるとは期待しないほうがいい。

サラリーマンのように給料が上がり続けるというわけじゃなく、(今じゃサラリーマン年功序列でもないが)、サラリーマンよりも昇給は打ち止め時期は早い。

次章で書くが、とにかくも、サラリーマンと変わらぬ賃金のまま、開業資金の数千万を、20代30代のうちに用意しなければいけない。

「家が貧乏から国立しか、それも奨学金も使って」

という人は、諦めたほうがいい。

開業には初期投資がかなりかかる

開業出来たところで、動物病院経営は難しい。

まず考えてほしい。

小児科病院が儲からないというが、その理屈がそのまま当てはまる。

人語が通じないので、処置をするために機嫌をとったり力づく取り押さえる必要があり、薬も中途半端な量で開封するからロスも大きい。

それを、人間診療報酬の半分、よくて7掛けくらいでやらないといけない。

そのうえ、内科外科皮膚科泌尿器科も全部やるわけで、器具を揃える初期投資がかかり、薬を買いそろえても使用期限切れで捨てねばならない。

初期投資の話が出たが、もちろん馬鹿にならない。

ラーメン屋開業なんかとは額が違う。

初期投資に数千万かかる。

まず土地

動物しか病気動物電車バスで運ぶというのはかなり難しいので、駐車場がないとかなり不利だ。

必然的に、そこそこの広さがいる。

かといって、あまり田舎でもまずい。

建物特殊性がある。

普通テナントや民家からだと、それなりの改造が必要だ。

例えばレントゲンを使う以上、鉛を打ち付けなければいけない。

経営にのせるコツ

もし、動物病院が(人間の)病院よりも有利な点があるとしたら、一度顧客になれば定期的にお金を落としてくれるということだろう。

毎年の予防接種フィラリアの予防薬、爪切り、低塩食や低脂肪食の缶詰etc...

人間の老人医療と似てる。

ルーチンにのせられるということは、ミスも起きにくくなり、需要予測がつくということは廃棄ロスもなくなるということだ。

1000頭が毎年2万ずつ落としてくれれば2000万、毎年5万落としてくれれば5000万、右から左に薬を流すだけで売り上げが確保できる。

決して、悪いことじゃない。世の中の商売ほとんどは商品右から左に流すだけでお金を稼ぐ。

ヒトの医療も含めてだが、病院が難しいのは全てがイレギュラー仕事からだ。

起こりえるイレギュラーの全てを想定して、器具消耗品も常に用意するのは不可能だ。

器具消耗品なんてむしろ安い。

一番は、人材だ。

あらゆる知識経験を詰め込むことが現実的に可能か?24時間のうち何時間働かせることが出来るか?

とにもかくにも、ルーチンにのせ、ありきたりの仕事比率を増やすことが経営の鍵だ。

通常の診療はこの定期収入を得るための撒き餌にすぎない。

大掛かりな手術をしたところで、あそこの獣医は高い、高いのに治らない、そう言われるだけだ。

一生に数回行わない手術のためのトレーニング、機材のメンテナンス費、そのための器具、それにかかる全ての費用の数パーセントしか回収できない。

避妊去勢キモ

さて、どうやって顧客を得るかだが、まずは避妊去勢いかにこなすかと言っていい。

避妊手術、去勢手術の数で損益が決まる。

もちろん、避妊手術、去勢手術は最もありきたりな手術で、ミスも少なく値段設定自体でそれを収入源にすることも出来る。

ただ、それよりなにより、顧客の囲い込みという点で優秀だ。

こういってはなんだが、ほとんどの人はペットは買いたいがペットお金を使いたくない。

中には、ペットを溺愛し、ペットに服を買ったり玩具を買ったりすることに生きがいを見出す人もいるが、最初からそんな人はいない。

ペットお金を使いたくはないといっても、動物病院に世話にならなくちゃいけない最初の関門が、避妊去勢だ。

狂犬病予防接種なんかは、都心部を除いて集合接種なんかもしてもらえるが、避妊手術去勢手術ばかりは、動物病院専売特許だ。

一度顧客になってくれれば、次の年からはよっぽどがないかぎり予防接種も全て同じ動物病院だ。

から避妊手術去勢手術は値引き競争、原価ギリギリだ。

あとは、接客

とにかく印象良く。

最善を尽くしたけれどダメだった、という演技でもいいから、死んだら泣くくらいの情熱をみせておけ。

本当にプロなら、前述のあらゆる事態を想定してあらゆる投資(器具機材)を行っておくのが名医なのだろうが、設備はないが動物思いというのが客にウケるし、経営にもプラスだ。

治すことよりも、動物に寄り添うことが大事だ。

器具機材は最低限プラスアルファでいい。

知識のあるなしも、獣医同士での優劣はあっても、少なくとも客以上なら大丈夫だ。

いや、俺は動物を救いたい!高度医療をしたい!というならば

困った相談ではあるが、一番は動物病院10件くらい持つことだろう。

1件の病院で5年に1件の病気であっても、10件も経営していれば年に2件はその病気出会うことになる。

診療数を増やすことにより、よく出会病気になれば、系列病院のどこかに、そのために薬を、器具を、人材を用意することが出来る。

そんなことが出来る病院は稀なので、実際は皮膚病に強い病院整形外科に強い病院という風にすみ分けている場合が多い。

割りに合わない高度医療を各病院ちょっとずつ負担して、困ったとき助け合い

仲良くやるには、自滅しない投資額を見極めるには、バランス感覚必要だ。

追記

公務員獣医になりたいなら別だ。

愛媛県獣医学部新設でも話題になったが、たしか公衆衛生分野での獣医は足りない。

公衆衛生分野というのは、ざっくり言えば食肉検査員(コンベア流れる肉を監視してる仕事)と狂犬病予防員(野良犬捕獲の陣頭指揮)が獣医師じゃないといけないとされるものだ。

もしも、どうしても公務員獣医になりたいという人がいれば、別のエントリーを書く。

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