2016-07-31

シン・ゴジラ』のテーマ考察

本作も庵野作品らしく、元ネタからテーマを考えると分かりやすい。以下、元ネタと目される作品事件との比較から本作のテーマを考える。

※なお、細かい元ネタについては↓を参照。

■『シン・ゴジラ』の元ネタまとめ

http://anond.hatelabo.jp/20160731121447

1. 岡本喜八日本のいちばん長い日から考える

シン・ゴジラ』は『日本のいちばん長い日から多大な影響を受けている。激しいカット割りは岡本喜八作品の特徴そのものであるし、日本が重大な危機に直面した際に、どう対応するのかということを題材としている点でも同一である

しかし、そこで描かれるテーマは異なる。『日本のいちばん長い日』はポツダム宣言受諾を目前に、原爆を2発落とされておきながら、なお利権争いを続ける官僚政治家の醜悪さが描かれる。そこでは官僚政治家一丸となって事態対処するという姿勢は見られず、最終的な解決天皇が”ただ独りで”下した「御聖断」によってつけられる。

他方、『シン・ゴジラ』では、責任逃れのために策謀を凝らす政治家官僚が現れたりはするものの、官僚政治家科学者(+ドイツ中国米軍)が”一丸となって”ゴジラ問題対処する。そこには、どんな重大な危機でも、みんなが一丸となって理性を行使すれば必ず解決できる、というポジティブメッセージがある。

2. 庵野秀明新世紀エヴァンゲリオン』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版から考える

シン・ゴジラ』のストーリー展開は『エヴァヱヴァ』におけるラミエル戦とそっくりである。すなわち、『エヴァヱヴァ』においては使徒ラミエルを倒すために全国の発電所および送電車が動員され、日本国一丸となって協力する姿が描かれる。『シン・ゴジラ』においてはゴジラを倒すために全国のプラントおよび化学工場が動員される。

しかし、両者はその後のストーリー展開が異なる。

エヴァヱヴァ』においては、こうした戦いを通じて主人公シンジ君が生きる意味を見出す過程が描かれる。父に捨てられた経験から生きる意味を見失っていたシンジ君は、エヴァに乗って世界を救うことが自分の使命である自覚していくのだ。

しかし、シンジ君はその後、使徒レリエルとの戦いの過程で、自分が乗っているエヴァがとんでもない化け物であることに気付きはじめ、続くバルディエル戦で親友トウジに重傷を負わせる(漫画版では殺害)に至って、生きる意味を完全に見失う。

そこで描かれるのは「みんなで協力して事態対処したところでそれらは全く無意味である」というかなりニヒリスティック結論である

他方、『シン・ゴジラ』においてはこうしたひねくれたストーリー展開はないため、「みんなが一丸となって協力すれば危機を乗り切れる」というポジティブ結論になっている。

3. 本多猪四郎ゴジラから考える

シン・ゴジラ』においては初代ゴジラリスペクトすることが明言され、ゴジラデザインストーリーに初代ゴジラの影響があることがしばしばインタビューなどで語られている。

ゴジラ』のテーマの1つは、当時問題となっていた第五福竜丸事件を背景とする、反核兵器思想であるゴジラ水爆実験の影響で出現し、東京ゴジラがまき散らした放射線は罪のない児童にまで及んだという描写からこれがうかがえる。

他方、『シン・ゴジラ』でも核及び原子力問題テーマとされている。ゴジラは海中に投棄された核廃棄物を喰らったことで東京に出現し、原子力エネルギーによって動いている。

しかし、『シン・ゴジラ』ではこの問題に対する姿勢はもう少し複雑なものとなっている。

まず、①原子力で動くゴジラ破壊力はすさまじく、東京は一瞬で火の海にされてしまう。他方、②ゴジラがまき散らす放射線による被害は小さいとされ、③ゴジラエネルギー源の研究を進めれば現行の原子力発電よりもより安全クリーンエネルギー調達することができることも示唆される。作中ではこのゴジラの2面性を評して「ゴジラは神の化身にして、人類福音をもたらすもの」とも言われる。

しかし他方で、④国連安保理による核兵器投下はきわめて否定的に描かれる。

ここには、「核兵器使用には断固として反対するが、原子力活用については現実的に考えなくてはならない」というメッセージがうかがえる。

4. 結論

以上の検討から、『シン・ゴジラ』のテーマは、「どんな重大な危機でも、みんなが一丸となって理性を行使すれば必ず解決できる」ということと、「核兵器使用には断固として反対するが、原子力活用については現実的に考えなくてはならない」という点にある。

なんというか、大人結論である

5. その他気付いたが確証のないメモ妄想

◇「私は好きにした。君らも好きにしろ。」は岡本喜八監督から庵野監督へのメッセージ(牧吾郎写真岡本喜八監督写真採用したのはこのせい)。「この国で好きを通すのは難しい」はこれに対する庵野監督の回答。現代における作品作りの難しさを言っている。

これを踏まえてラストの「そろそろ好きにしたらどうでしょうか」を聞くと趣深い。すなわち、『シン・ゴジラ』は、色々な制約(予算オールファン批判)で自分の好きに映画を作れない監督が、それでも俺は好きな映画を作るんだ!という映画である。結局、TV版の『新世紀エヴァンゲリオン』のラストと同様、フェリーニの『8 1/2』と同じ結論になる。

ラスト血液凝固剤を流し込むシーンは、一見バカバカしいと思ってしまうが、福島第一原発コンクリートを流し込むという形で実際にやったこと。

ラストゴジラは死には至らず、凍結されるにとどまるが、これは同じく凍結状態にある福島第一原発を模している。今後も対処を続けないと、とんでもないことになるよ、という暗喩か。

ヱヴァQとシン・ゴジラテーマは重なる部分あり。

(1) 孤独な男(シンジ・牧吾郎)が、強大な力(13号機・ゴジラ)を手にして事件を引き起こす。

(2) 危機対応するのが現実主義的な集団ゴジラ討滅のために核の使用も辞さな人類エヴァ殲滅のために初号機を主機として使用するヴィレである

すなわち、両者ともに、危機に対する現実主義的な対応を描いている。トーンの明暗を分けたのは、視点孤独な男(シンジ)サイドに置くか、現実主義的な集団日本政府)に置くか、の違い。

◇牧吾郎反原発博士だったのではないか

妻を放射線で亡くしたことで反原発思想になった結果、日本の学界を追放されてアメリカへ。

国民生活や命よりカネを優先して原発開発を続ける日本報復するために、核エネルギーで動くゴジラを出現させた。

その結果、①多数の東京都民疎開により生活拠点を奪われ、②いつ復活して再び惨禍をもたらすか分からない凍結ゴジラが都のど真ん中に鎮座してしまった。

(上の仮定が正しいとすれば)まさに牧吾郎の狙い通り(cf.広瀬隆東京原発を!』)になったことになる。

記事への反応 -
  • 「■『シン・ゴジラ』の元ネタまとめ」の補足記事です。 http://anond.hatelabo.jp/20160731121447 「これも元ネタではないか」という指摘の中に、要検証のものがいくつかあったのでここにまと...

    • 筆者は半分くらいしか観てないので間違いとかあったら指摘してください。 ◇関連性大 ・庵野秀明『エヴァ(旧世紀版&新劇場版)』 : 同じBGMを使用している。ヤシオリ作戦の内...

      • 庵野秀明『シン・ゴジラ』を観た。 本作も庵野作品らしく、元ネタからテーマを考えると分かりやすい。以下、元ネタと目される作品・事件との比較から本作のテーマを考える。 ※細...

      • 『宇宙大戦争』のマーチは『怪獣大戦争』にも使われたので、 『怪獣大戦争』の方を意識して使ったんじゃないかなあと思います。

        • ぐぐったらそれっぽいですね。加筆しておきます。ありがとうございました。

          • http://anond.hatelabo.jp/20160801122701 劇中のヤシオリ作戦で使われた「宇宙大戦争」のマーチ(宇宙大戦争M32、通称「宇宙大戦争マーチ」)と「怪獣大戦争」で使われたマーチ(怪獣大戦争M1及...

            • 全部ひとくくりで「自衛隊マーチ」って呼んでたけど実はイカンかった系? そんなに細かい違いがあるのかね。

            • 百聞は一見に如かずですので、こちらをどうぞ。 ・宇宙大戦争M32(URLの1曲目)通称「宇宙大戦争マーチ」 https://www.youtube.com/watch?v=Evy9UIzuUq0 ・怪獣大戦争M1(URLの1曲目)通称「怪獣大戦...

          • 元増田です。全然気が付きませんでした。ありがとうございます。あとで加筆修正しておきます。

      • パトレイバーに似た場面としては ・「名前がつく」ってことはそれだけで意味がある ってあたりのシーンも指摘したい。

        • ご指摘ありがとうございます。パトレイバーは観たことがないのですが、よかったら問題のセリフがどこの台詞か(TV版か劇場版か)教えていただければ幸いです。

          • 遅くなりました。 指摘の件ですがゆうきまさみの漫画版です。お盆休みに実家に戻って確認しました。 第17話「グリフォン<その1>」(私の持ってるワイド版だと8巻p.145およびp.149) ...

            • 名前を重要視する作品なんてごろごろ転がってるが本当にそれパトレイバーを元ネタとしていいのか?

            • ご丁寧にありがとうございます。台詞がぴたりと一致するなどの事情がないことから、ちょっと元ネタというにはもう少し検証が必要だなと思いました。 ほかに元ネタかどうかよくわか...

      • 原発にコンクリートを流しこんだんではなくて、ハイパーレスキューの屈折放水車や、コンクリートポンプ車を使って放水冷却をしていた時の事を言っていたのでは無いでしょうか? 「...

      • 原発にコンクリートを流しこんだんではなくて、ハイパーレスキューの屈折放水車や、コンクリートポンプ車を使って放水冷却をしていた時の事を言っていたのでは無いでしょうか? 「...

      • 好きな作品に影響を与えた元ネタを辿っていく方が、好きな作品にどんな影響を与えたか(逆に言うとその元ネタは何がすごいのか)も意識できて楽しいよ。 抽象的に後世の作品に影響...

      • やはり『宣戦布告』(小説:麻生幾、映画:石侍露堂監督)は外せないと思う。 日本を襲う想定外の自体に政府や官僚、自衛隊が右往左往する様を描き、 国防体制の不備を取り上げたこ...

        • ちょっと真偽不明のものが多いのでここにまとめておく ◇石侍露堂『宣戦布告』(原作:麻生幾) *日本を襲う想定外の自体に政府や官僚、自衛隊が右往左往する様を描き、国防体制...

      • なんでキャラの名前が奥さんのマンガって話いれてあげないの

        • 最初解釈に影響を与えるものに絞ろうかと思っていたので外していたのですが、考えが変わって入れることにしました。ありがとうございます。

      • 村上龍の作品が入ってないのは何故

        • 村上龍の作品で元ネタと思しきものって何かありますか?自分は『コインロッカーベイビーズ』しか読んだことがないので、もしよかったら教えていただければ幸いです。

      • http://anond.hatelabo.jp/20160731121447 ヤシオリ作戦が経口投与なのはゴジラVSビオランテで抗核バクテリア弾を撃った表題の台詞の主、自衛隊の権藤吾郎一佐のオマージュだと思います。 核物質...

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