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2018-07-01

今年外科には誰も入局者がいなかった

嘘のような本当の話だ。

俺は呼吸器外科を専門にしていて今年で医者19年目になる。

昨日の人気エントリーに入っていた研修医2年目の子の話https://anond.hatelabo.jp/20180630150652を読んで俺も書こうと思った。これは俺個人意見から外科先生みんながそう思っているわけじゃない。だから批判するなら俺だけにしてほしい。

俺のころはまず初期臨床研修制度ってものがなかった。2年間いろんな科をローテーションするってやつがなかった。だから当時俺たちは卒後すぐに診療科を決めなくちゃいけなかった。俺は家が病院ってわけでもなかったから、何科に行くのも自由だった。だからこそ悩んだよ。だってまだ俺その時25才だぜ?25才で一生やってく仕事なんてそんな簡単に決められねーよ。学生時代に2週間ぽっち診療科グルグル見たってさ、たった2週間だぞ、そんなんで決められねーよ。

でさ、悩んだ挙句俺は呼吸器外科に入ったよ。入った理由はさ、バスケ部の先輩にグイグイ引っ張られてっていうただそれだけ。2個上の可愛がってくれた先輩が「外科はおもしれーぞ。俺んとこ来いよ」って飲み会の席で肩に手を回してきて「外科はいいぞ、毎日楽しい」って言うもんだから酒の力もあって俺は入局宣言した。でも別にこれは今でいうパワハラなんかじゃなかった。嫌ですって断ったらきっとすぐ解放してくれたろうし、何よりその外科を語る先輩がすごく楽しげだったんだよ。

入局してからはさ、毎日しかったよ。でも楽しかった。最初のころは丁稚奉公みたいな感じで上の先生アシスタントとしてちょこちょこ術野を動き回ってた。外科系は体育会系の熱いやつらが多くていっぱい叱られたよ。でも仕事が終わった後医局でたまに開かれる飲み会はいつもベロンベロンになっていた。みんな外科が好きで、いつもこの前ああ切った、あの時もっとああすればってのを酔っぱらいながら話すんだ。うちのとこは教授ガンガン術野に入った。雲の上の存在だと思ってた教授だったけど術野で隣にいると不思議距離が近いように感じたよ。教授大事にしている日本酒をこっそり講師先生が出してきて飲んだのもいい思い出だ。

外科のいいところは昨日出来なかったことが努力次第でできるようになるところだ。最初は教えられた外科結びを先輩に遅せぇなぁとからかわれながらやっていた。でもやればやるだけ少しずつ速くなる。今ではすっかり俺も教える側でからかう側だ。

術式もどんどん新しくなっていく。より侵襲が少なく、より速くに進化していくんだ。今は開胸よりも今は胸腔鏡手術が主要になってきた。胸腔鏡手術…VATSっていうのは胸に2,3cmくらいの穴あけてそこから細長い鉗子やカメラを突っ込んで、画面見ながら手術するんだよ。すげぇよな、胸開かなくていいんだぜ?俺も初めてやった時、すげぇな、本当に面白れぇなって思った。群馬大の腹腔鏡手術の件は医局でも結構話題になった。やっぱり腹腔鏡とか胸腔鏡ってのはすごく難しい。一朝一夕でどうにかなるもんじゃない。俺のいる大学病院は週3回、大体一日2件手術があるけど、自分が入る手術はその半分くらいだ。それだけの手術じゃ上手くなりようがないか時間外にトレーニングルームに籠って練習する。でも努力した分今日やったことが明日もっと速く、正確に、できるようになる。だから俺は結構好きだし他のやつらも結構好きなんじゃないかと思う。

たださ、若いやつらはどうなんだろうな。外科系は肉体的にキツいってのは本当だからさ。俺の所属する呼吸器外科はまだ手術時間は短い方だと思う。大体3~4時間だ。胸膜癒着とかあれば6時間かになることもあるけれどそんなのはしたことじゃないさ。心臓血管外科脳神経外科なんて1日術野に籠りっぱなしだ。中には椅子がなくて座らずにサポートする先生もいる。昼食休憩や交代はあるところはある、ないところはない。だから外科先生基本的に痩せているよ、食う暇がないから。

実習生研修医はそれを見て外科に入りたいって思うのか、心配だった。俺のころとは随分違って彼ら彼女らは吟味する時間が十分に与えられている。外科を選ばなくていい理由なんか山ほどあるんだ。眼科耳鼻科皮膚科泌尿器科のようなマイナー科の誘い文句は「内科系の管理外科系の手術もうちの科は出来ますよ」だ。内科業務の合間にちょっとした手術もなんてまさにいいとこどりで魅力的な話だと俺も思う。眼科白内障の手術なんて30分ごとに患者交代で1日10件もやれる。

次に俺たちは思っている以上に開業が難しいってことだ。体力が落ちてきたら町医者開業って未来がない。いくらVATSが出来るようになっても医局や大病院を出てしまえばそんな手術できない、器具設備もオペ看もないからな。その点内科マイナー科は忙しい業務が辛くなれば辞めて開業して悠然と働けるじゃないか。賢いというか自分の将来を見据えている学生研修医ほど外科を選ばない時代がきているのだと思う。

俺の奥さんは専業主婦で家のことは全部やってくれている。俺はひたすら手術に打ち込んでて家事育児をそこまで手伝ってあげられなかった。それでもうちの奥さんは優しくて毎日アイロンの効いたシャツを渡してくれるし、息子は息子で部活のことをそこそこ話してくれる。家族に恵まれたと思う。本当に感謝しているよ。だから、もし俺がもう少し忙しくなかったら家族もっとしてあげられることがあったんじゃないか、と考えることがないわけじゃない。

成績順で上から決まってくアメリカと違って日本医師自分希望する診療科に就くことが出来る。だから一回「辛い、キツイ」って印象がついた科は敬遠される。敬遠された科は残された人の業務が増えますます「辛い、キツイ」の印象が強くなる。このまま外科に入局する研修医がいなかったら、外科世界はどんどん高齢化していく。農業伝統工業のように継承していく若者がいなかったらきっと衰退していく。内科が行う内視鏡カテーテルで診断はつきました、ただ切って治す人はいませんの時代が来るのかもしれないな。

「これ、いくらだと思う?」

術野に入る学生にはこうしてVATSの自動縫合器を見せるようにしている。一緒に入るオペ看や助手にはまたその話かって目で見られるけれど、この機械カートリッジだけでなく本体すら使い捨てで数万円~数十万だと言うと彼らは驚いた顔をする。その顔を見るのが好きだ。そうだ。俺たちはここで、最新式の機械で最新式の術式で最高の医療を届けているんだよ。こんな些細な会話が彼らの胸のどこかに刺さって、外科に興味を持ってくれたらいいと思う。俺も教授や先輩から教えられた技術経験もお前に教える、何よりさ

外科はおもしれーぞ。俺んとこ来いよ

 
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