ウミウ「この日記は、その辺にいる適当な大学生が『けものフレンズ』に出てくるウミウの口調を借りて愚痴る日記だう」
ウミウ「一応、ウミウはデザイナーとかいう職業も副業でやってるう」
ウミウ「てことで、まあその辺のことを踏まえながら読んで欲しいう」
ウミウ「……」
ウミウ「…………」
ウミウ「……そうだう、生きるのがつらいってことう」
ウミウ「ウミウがこうなったのは、たぶん高校卒業間際の冬のことだったと思うう」
ウミウ「母はアルコールとニコチンに溺れ、父は神経過敏で物音一つにも激怒し、モノに八つ当たりしてたう」
ウミウ「それを力で押さえつけてしまってはご飯も食べさせてもらえなくなるう。住む場所もなくなるう」
ウミウ「そんな中、ウミウの唯一の救いだった高校というモノが卒業を間近にしたのだう」
ウミウ「ウミウの高校は良かったう。絵を描ける人がいたう。文章を書ける人がいたう。音楽を作れる人がいたう。いろんな学問で全国トップレベルの人がいたう。いろんな趣味を極めてる人がいたう」
ウミウ「彼らはみんな、ウミウにいろんな刺激を与えてくれたう」
ウミウ「ウミウは、そんな日常が大好きだったう。そんな日常があったから、人生に生きる意味があると思っていたう」
ウミウ「でも、高校3年生も終わりに差し掛かりつつあった頃、だんだんと授業も減り、周囲はみんな受験モードへと切り替わっていって」
ウミウ「一番落ち着けるはずの我が家が一番落ち着けない、というのは案外つらいものう」
ウミウ「毎晩、家のベランダから空を見上げて、コーヒーを飲みながら死後の世界について考えていたう」
ウミウ「宗教や科学がウミウを救ってくれるのか、考えたこともあったう」
ウミウ「ウミウの浅薄な知識片手に、ウミウはいろんな文献を漁って、いろんな人に話を聞いたう」
ウミウ「どうしてこの世界は生まれたのか? どうしてウミウは生まれたのか? どうしてウミウはこんな境遇にあるのか?」
ウミウ「当然受験には失敗したう。だって勉強なんて全くしてなかったう」
ウミウ「そうやって悶々としてるとき、ウミウは『けものフレンズ』というアニメに出会ったう」
ウミウ「こんなクソッタレな世界のどこかにも、ジャパリパークみたいな世界がある」
ウミウ「それから、ウミウはいろいろと頑張ったう。この世界には何か答えがあるはずだ、そう思って」
ウミウ「生の意味を知るために生物系の大学を目指したう。将来どうやって生きるか考えて、一番自分に合ってると思ったデザイナーのまねごとを始めたう」
ウミウ「あと、少しだけけものフレンズの二次創作をやったりもしたうね」
ウミウ「勉強と仕事の両立は、案外大変だったう。けど、つらくはなかったう」
ウミウ「何かに打ち込める、何かを目標にできる、人から必要とされる」
ウミウ「どうにか第一志望の大学には受かって、ウミウは期待に胸を膨らませたう」
ウミウ「大学ではどんなすごい人がいるんだろう? どんな風に自分は成長できるんだろう? どんなことが学べるんだろう?」
ウミウ「そう思っていたう」
ウミウ「誰一人、『ついていきたい』と思える人がいなかったんだう」
ウミウ「もちろん、人間として素晴らしい人はたくさんいるう。とっても精力的に活動している同級生、研究やサークル活動に没頭して成果を出している先輩たち、世界的に有名な教授陣」
ウミウ「だけど、ウミウが求めていたのはそういう人たちじゃなかったんだう」
ウミウ「ウミウは、圧倒的な実力で凡人を殴るような天才、世界や生命や意識や……そういうふわっとしたものたちを大真面目に考えて頭を狂わせるような奇才」
ウミウ「そういう人を、求めていたんだう」
ウミウ「大学というのは日本における最高学府だう。そんな素晴らしい機関の中にだったら、きっとそういう人もいるんだ、答えを貰えるんだ、いや貰えなくても論じ合えるんだ……と思っていたのに」
ウミウ「せっかく浪人期間中頑張って勉強して入った大学がこんなんだったんだと」
ウミウ「自分が全力で頑張っていれば、きっといつか答えは見つかるって」
ウミウ「そう思ったんだう」
ウミウ「頑張っていれば、いつか何かが起こるだろうって」
ウミウ「ウミウは今までの仕事のほかに、いくつかバイトをかけもちしたう。サークルは4つ入って、ほぼ毎日大学に寝泊まりするような状態になったう。同人活動ももっと本格的に始めていって、夏コミにも出たう。講義も真面目に受けて、まあまあいい感じの成績を取ることも出来たう」
ウミウ「最初は血の流れが悪いだけかな?と思ったう。だけど痺れはなかなか取れなくて、ウミウは病院に行ったう」
ウミウ「ウミウは、神経系の病気と頸椎ヘルニアを患っていたんだう」
ウミウ「このまま頑張ってたら、いつか半身不随になるぞって、お医者さんに言われたう」
ウミウ「結局、バイトはほとんど全部やめたし、サークルは1つを残して全部やめたう。しかも、ちょうどその頃は大学の夏休み期間中で、講義もなかったう」
ウミウ「てことで、ウミウはヒマになったう。そしたら、そこに生まれたのはただの虚無だったう」
ウミウ「また、何も拠り所がなくなった……そう思ったう」
ウミウ「ウミウは、けものフレンズの同人活動をやっていて、その中で1つ出来た、少し大きめのグループがあって」
ウミウ「そこはすごいんだう。たくさんのクリエイターがいて、たくさんの賢い人がいて」
ウミウ「ウミウは心機一転、そこで頑張ろうって思ったう。もちろんもうムチャは出来ないから、出来る範囲で、だう」
ウミウ「ウミウは……まあがんばった、んだと思うう。一応、なんとなーくリーダーっぽい感じのポジションに収まったりもしたう」
ウミウ「『フレンズにはどんな死生観があると思う?』って。『何か、そういうものを訴えかけた創作物が作れないかな?』って」
ウミウ「さあ、どんな答えが返ってくるんだろう、どんな議論が出来るんだろう……ウミウは楽しみに思ったう」
ウミウ「だけど、返ってきた答えはみんな、『けものフレンズはそういうのじゃない』『求められているものは違う』『グロとか暗い展開とか無理』みたいな答えばっかりだったう」
ウミウ「ウミウは……ウミウは、いったいどうすればいいんだう」
ウミウ「『けものフレンズはそうじゃない』? けものフレンズはそんな浅薄なコンテンツじゃないと思うう。少なくとも、そこを議論しなきゃ深みのあるモノなんて出来ないと思うう」
ウミウ「『求められているものは違う』? ユーザーのニーズ分析なんて仕事で腐るほどやってるう。二次創作って、そういうニッチなところを攻められるものなんじゃないんだう?」
ウミウ「『グロとか暗い展開とか無理』……。まあ、死生観を語らせる上で、フレンズの1人や2人死ぬのは仕方ないだろうし、暗い展開になるのは致し方ないう」
ウミウ「普段お前たちが食べている食べ物は動物の死体だう。お前たちが着ている服も動物の死体だう。お前たちが生きている環境には、動物の死がごまんとあるう」
ウミウ「けど、動物は何も語らないう。ただ静かに生まれ、静かに死んでいくのみだう」
ウミウ「それが、言葉を発し、意識を持って動き回るようになった。それがあの世界の意味であり、意義であって」
ウミウ「当然、フレンズたちもそこは疑問に思ってしかるべきだと思うんだう」
ウミウ「……ウミウは、どこに行けばいいんだう。ウミウは、どこを拠り所にすればいいんだう?」
ウミウ「ウミウは、今月か来月くらいでそのグループを抜けることにしたう。ウミウがそこにいることへ、意義を見出せなくなったんだう」
ウミウ「ウミウは本格的にひとりぼっちだう。何もすがるものはなく、何も生きる意味はなく」
ウミウ「たぶん、少し前だったら『ジャパリパークに行きたい』って切に願いながら、きっとどこかにある桃源郷を夢見て首を吊っていたんだと思うう」
ウミウ「だけど、それすら出来ないほどウミウは世界に絶望したんだう」
ウミウ「最近ウミウは、ジャパリパークが動物から人間に対する壮大な仕返しにしか思えなくなってきたんだう」
ウミウ「動物は、きっとジャパリパークを通して、そういったものを際立たせて。人を絶望させているんだう」
ウミウ「もちろん、それは正当なことだう。人は今まで、どれだけの動物を苦しめてきたんだう?」
ウミウ「ウミウには、もう何もない……いや、少なくとも心はからっぽだう」
ウミウ「きっと、ウミウは恵まれてるんだう。こうやって、生きる意味について考えられるほどには」
ウミウ「ふと空を見上げたら、お月様がこっちを見て嗤ってるう」
ウミウ「悔しいほどに、綺麗だう」