2014-03-15

努力の才能

成果を生むのが努力であるとすれば、努力を生むのは才能だ。

何もしない人間は、努力した人間にかなわないし、努力する凡人は努力する天才にはかなわない。

努力しない天才はいない。

好きになるための努力、というものはこの世界存在しない。

から、才能とは、『何かを好きになれる特性』の事を言う。

どのような教育課程も、ライフハックも、”好き”からくる情熱にかなうことは決してない。

いくらあなたコタツに足を突っ込んで頭に冷えピタを貼って、お母さんが作ってくれた土鍋うどんをすすりながら、睡眠時間平均4時間受験勉強を頑張ったとしても、

天才はそれをやすやす越えていく。

その人が天才かどうかを確かめるには、「勉強、どれくらい頑張った?」って聞いてみるといい。

死ぬ気で每日9時間がんばったとか、通学途中も歩いてる時も単語カードを手放さなかったとか、そういうのは凡夫である

勉強特に頑張ってないよ」

これこそが本物だ。

そして本物は、合格発表自分の番号が載っているのをみて、あなたが涙をこらえているその時に、『数学セミナー』を立ち読みしている。

実際にそういう奴はいた。

俺は聞いてみた。何やってんだよw

「いや面白いだってw 読む?今月のは初心者にもわかりやすいよ」

彼らは決して立ち止まることはない。

苦労が伴う努力は、自分との戦い、という側面を持つ。

脳の中で、「頑張る自分」と「休みたい自分」の二陣営に分かれて、激しい合戦が行われる。

天才は違う。あるのは「面白い対象」だけだ。



ここに努力の才能が全くない人間がいる。俺の彼女だ。

大学入学したときに知り合った俺の彼女は、「社会人には英語必要大学時代完璧マスターするんだ!」と息巻いていた。

まずはTOEIC600点を目指す、と俺に宣言した。

そして彼女は每日1時間、土日も休むことな英語勉強した。

彼女の部屋には、壁中に英単語を書いた付箋が貼り付けてあった。その中心に、習字で「Just Do It !!!!」と書かれていた(自分で書いたという。英語なのに割と達筆w)

だが、不思議なことに、どのような問題集を解いても、60%しか正答しなかった。

やり直すと、その時は解けるらしい。でも、後になって同じ問題を解き直すと、やっぱり60%しか解けないんだ。彼女は笑って言う。

彼女大学在籍時に、可能な限りTOEIC試験を受けた。

スコアはすべて450、±20の範囲に収まった。

俺達が所属していたテニスサークルは、”仲間で楽しく、わいわいやろう”がモットーの、いわゆるゆるふわリア充サークルだった。

そんななかで彼女は1人、ガチだった。

「せっかくテニスをはじめるんだから、とことんまでやる!」と飲み会の時に宣言し、見事に浮いていた彼女

毎朝7時にコートに立ち、壁打ちをする。運動神経ナッシングの俺は、眠い目をこすりながら、たまに彼女に付き合ってラリーをした(全くどうでもいいが、俺はサークルウキウキウハウハズッコンバッコンなバラ色リア充ライフ指向していた。ある意味でそれは叶ったが、もちろん誰にも言ってない)。

しかし、4年の時に彼女は、1年生の練習相手になっていた。

いじめられていたわけではない。

彼女試合しても、全く続かなかったからだ。

每日の朝練も虚しく、彼女は誰よりも弱かった。コンパに明け暮れていたリア充どもより弱かった。俺にさえ及ばなかった。

ゆっくり打てばラリーは続くが、少しでも強く打ち返すと、もう駄目だった。

体は追いついても、ボールは返ってこない。

「あっ」という短い悲鳴が響く。何度も。何度も。

やがてみんな、嫌になった。

無意識か、意識的にか、空気を感じ取った彼女は、自分からそのポジションをかってでた。

一年生たちと練習し、球拾いをする。

レギュラー組のこぼれ球を追いかけて、気が合う一年生に笑いかけている、そんな光景が俺の記憶に焼き付いている。

卒業した彼女は、就職した。

文系大学に通ってたくせに、

何を間違ったのか、就職先はWebプログラミングエキスパートが集う、ベンチャー企業だった。

(なぜ受かったか。たぶん、小柄でハムスターみたいな人懐っこさが人事にうけたんだと思っている)

まず、書店参考書を買いあさった。PHP入門書は、初心者向けの薄いものを買うように、俺が指示した。

そしてOJTを受けている間、睡眠時間を削ってプログラミング勉強した。

俺はフリーだったから、彼女の横で、付きっきりで彼女プログラムを書くのを見守った。

だが勉強は、捗らなかった。

何というか、打つのが遅い。重い。

PHPの文法は覚えている。プログラミングが遅いというわけではない。

そもそもタイピングが遅い。タッチタイプはできているのに。

うまく説明しづらいが、変数入力するたび、関数を書くたび、いちいち引っかかる。

コメントを書くのにも一瞬のタイムロスがある。

何かする度に、つまづくのがイライラした。

やがて、俺も忙しくなり、彼女ちょっと喧嘩してたのもあって、しばらく疎遠になっていた。

ようやく会えたのが、去年の冬。

新宿三丁目ルノワールで待ち合わせた。

赤いマフラーをまとった彼女の目には、くまができていた。

髪の毛が微妙にはねている。学生時代に貫徹で一限直前まで遊んで、シャワーも浴びずに一限に突っ込んだ時のようだった。

だがあの時のような気楽さを感じない。

目がうつろだ。

声がかすれている。

問いただすと、原因は激務だった。

激務につぐ激務。会社の営業が、破格の条件の仕事に巡りあったらしく、会社はかなり無理をしてそれを受けてしまったようだ。

エキスパート連中でさえ、火の車の中らしかった。

「でも、みんな『やりがいがある』って言ってるよ。目が燃えてるもん」

彼女はそう言った。そんな中でも彼女は相変わらずのようだ。

彼女労働時間は15時間をゆうに越えていた。

満員電車での通勤は眠れない。結局、睡眠時間は平均4時間を割っていた。

ルノワールの店員が、水を持ってきた。

彼女は手慣れた動作でコートのポケットから薬を出して、その水で流し込んだ。

問い詰めても詳しくは教えてくれなかったが、それで体の震えが止まるらしい。

俺は思った。限界だ。

「お前、向いてないんだよ。そう思わないのか」

つかさず彼女は反論する。

「何でそんなこと言うの? 向いているとか向いてないとか、別にどうだっていいし。努力して前に進むんじゃん。それが人間でしょ。」

「お前さ、そんな頑張っても、結局、給料大したこと無いんだろ?得られるもん何も無いじゃん。っていうか勉強とか、こんな状況でもまだやってんの?」

「当然でしょ。確かにリターンは少ないかもしれないけどさ…」

でもやらなくちゃ。諦めちゃだめだし。彼女はうわ言のようにそう呟いて、

「それに、部長が言うんだよ。『お客さんの笑顔を見るために、一緒に頑張ろう』って。だから私も頑張るよ…。私バカだけど、それでも足引っ張らないように、必死でやらなくちゃ」

俺を見据えてそう言った。口元だけで作った笑顔は、人間の表情に見えなかった。

俺は彼女をその場で強く抱きしめて、言った。

いいんだよ。お前はさ。バカのままで。

胸の中で、彼女が泣く。

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