2020-02-20

怪文書でも書かなきゃ落ち着かない

2/5,政治主導の旗の下,憂国の志士達からなる対策会議は,14日間の隔離と称する行動制限を開始した。動かしやすく命知らずな災害救助隊を派遣し,慣れ親しんだトリアージで緊急性の高い患者を救助し,それ以外の乗員乗客も2/19に開放する。輝かしい戦果が予定されたのである

2/11とある感染症専門家が,仲間とともに現地に入った。彼らは「空気感染エロゾル感染経路を想定し、PAPRを持ち込」む,常識的に万全の準備をした。

しかし,そこは実際には「ベッドマップラインリストもエピカーブも作れない世界」であり,「間接的接触感染概念すら誰も理解してい」なかった。

このような状況で14日間行動制限を課したところで,行動制限開始以降に感染した者についての非感染担保されない。したがって本来は,この時点からでも名ばかりではない隔離を開始し,「14日間」の終点を固定しなければならない。それには船内のリソースでは足りない。十分な空間のある地上の設備を用意したいし,「その際、国籍別の移送隔離現実的選択である。」

しかし,そのような手段を採ることはできなかった。

隔離の新たな始点を設定することは,それまでの隔離と称する行動制限の失敗を世に晒すことになる。外国人無意味身体拘束した点で外交問題となるか。いや,それ以上に,これを主導した愛国者達の名声を貶めるものとなりかねなかった。愛国者の輝かしい軌跡が2/5から始まっている以上,その終点は2/19しかありえない。

彼は「PCRの結果を要求する力が混沌事象律速要素になっていることに驚き、その方針決定プロセスの解明は」彼「の職責ではないものの、少なくとも臨床疫学者の視点ではないと直感し」た。「我が国移送手段提供してでも国際共同オペレーション実施」するというのは,もはや彼の「個人的な夢」に留めるほか無かったのである

2/12,「船での作戦は既に破綻していました。」

彼は,もはや「予防衛生的なニュアンス」が通用しないと悟り,「ミリタリーオペレーション」的な「感染制御」に舵を切ることにした。

じきに,具体的には2/19に,感染者が解放される。否,そもそも本船以外から流入を阻止できているとは思われない。そうであれば,「新型インフルエンザ対策概念」を「何も変える必要はない」。市中感染は不可避であるという前提に立ち,「医療への過剰な期待や欲求」を捨て,感染拡大を抑制ピークを下げる戦略をとるべきなのである。なぁに,「大方の若者にとっては悪性の風邪程度に過ぎない。卵酒を飲み、体量のおばん茶でも飲みながら家で寝ていれば良いのだ。」

目標は定まった。感染の阻止ではなく抑制。2/19に下船する3000人の感染者予備軍において,感染者が一人でも少なくなるようにすべきなのだ

2/13,彼はそこで見てきた光景大衆に伝える役割を任された。しかし,第一に「厚労省の許しがないと全てを話すことはできない」。すなわち,愛国者の面目を潰すような,船内感染が止まっていないことをあからさまに述べてはならず,むしろ対策がうまく行っていると述べなければならない。実際のところ,トリアージそれ自体必要なことでもあった。

彼は「厚生労働省重症リスクの高い高齢者らを優先的に下船させる方針を示したことについて「判断は正しい」と評価した。」

行動制限効果は覿面である新規感染は,それ以前に比べれば大幅に減少している。スタッフにも多少の発症者が出ているが,想定の範疇だ。

2/18,珍入者が,船内での隔離が為されていないことを暴露した。なるほど御説によれば,いまからでも隔離を開始し,今から14日後に下船させよということなのだろう。もう1週間も前に捨てたアイデアである

しかし,感染を防ぐ手立てが不十分な中,現場感染覚悟して頑張ってきた。すなわちスタッフ全員が感染者予備軍である。今からグリーンゾーン形成しようとすればスタッフ全員を入れ替えなければならず,それはまったくもって非現実的である。「現場にいなかった者にはただのカオスに見えたのでしょう」が,船には「多くの意思決定プロセスがあります。」

また,隔離現実的に行えないということは,船全体が培養シャーレと言って良い状態である。「どうやら船の中の感染率は5-6%のレベルにあり、武漢市内に匹敵するレベルにある。もちろん日本国内より遥かに高く、クルーでは更に感染率が高いだろう。」したがって「いかなる理由でも下船を躊躇すれば、全員を危険晒す事になるであろう。全員下船を急がねばならない。」

下船を中止させかねない世論が突発的に生じてはならない。下船者が感染者予備軍であることを明かしてはならない。

2/19,感染者予備軍の下船が始まった。

本来であれば彼らは「自宅で自己検疫(self quarantine)を行うことが必要です。実際には、検温や不要不急の外出自粛、なるべく人に会わずに14日間を過ごすなどです。」

もっとも,自己検疫の推奨は2/5に始まった隔離と称する行動制限無意味であったことを宣伝することに他ならない。つまり,下船者は完全に解放されなければならず,公に自己検疫を勧めるようなことはあってはならないのであった。

恐れることはない。3月上旬頃には既に感染ルート不明患者だらけになるのだから愛国措置が失敗であったことを証明する手立てはない。いや,仮にそれが失敗だと断じられたところで,失敗したのは2/11以降に関与したにもかかわらず正しい手を打てなかった専門家集団である。極初期においてトリアージ船舶自体隔離が正しかった以上,愛国者判断は間違いではない。

さいわい,諸外国自己検疫ではなく自国で検疫を行うようだ。海外への感染拡大を防ぐべく,英語での発信を優先したのは間違いでは無かった。

  • ダイアモンドプリン🍮から降りて、米国に戻った方たちは、 ネブラスカ医療センターの「生物学的封じ込め施設(Biocontainment Unit)」(エボラで入院ができる施設がある病院)で過ごすみた...

    • 病床が足りないのは不安ですよね。医療機関は平時でも過重労働で、そのうえコロナの分が上乗せされるとなると、どうなるのか見当もつきません。

      • 指定感染症になってるから入院したら公費だけど感染力めっちゃ高いからね 他の患者さんに影響を与えないように、原則、感染症指定医療機関の感染症病床に入院しないといけないけど...

    • SARSとか鳥インフルエンザのたびに対応医療機関の少なさが取りあげられるけど、特に地方の病院なんか赤字財政だから特殊/高度な感染症対策をする余力はなさそうだよね 常設は諦めて...

    • まぁ前向きなのはいいよね 人工呼吸器の増産や病床の拡充について十分な検討が進んでいるのは理解しているけど 国民への周知が足りない ↑ 単に今まで何もしてこなかっただけだぞ...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん