清水ともみさんの漫画「私の身に起きたこと~とあるウイグル人女性の証言~」
中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区で不条理な迫害に直面するウイグル人の絶望と悲しみを描く漫画家の清水ともみ氏が27日までに産経新聞のインタビューに応じた。漫画はウイグルの実態を啓発するツールに国内外で使われ、清水氏は在日ウイグル人にとって心の支えといえる。国会は来月1日に中国の人権状況を非難する決議を採択する見通しだが、当初案の「非難決議」から「非難」の2文字が削除されるなど〝骨抜き〟の内容になろうとしている。清水氏は「日本はウイグルの希望の国。恥ずかしくない文章を」と訴える。(奥原慎平)
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決議案をめぐる現場のくわしい調整状況は分かりません。良い形で結果が出ればいいなと思い、見守っていました。
ただ、超党派有志の「日本ウイグル国会議員連盟」などは昨年の年明けから決議を目指していたはず。ミャンマーの軍事クーデターを非難する決議は短い調整期間で昨年6月に採択されている。なぜ対中非難決議はここまで長引いているのでしょうか。
そもそも昨年の通常国会で採択を目指した当初案も中国の国名は盛り込まず、名指しでの中国非難を避けました。どうして、そんな〝ご配慮〟をするのか。日本政府にとって外国は中国や韓国のように声高に無理難題を押し付け、文句をいう国だけなのか。日本を愛し、信頼し、無言で見守る国や地域のことは考えないのか。
岸田文雄首相や林芳正外相にはウイグルが直面する人権侵害行為に強硬な声明を毅然(きぜん)と出してもらいたい。日本政府の要職者が「日本国として断じて許すことはできない」と発すれば、そのメッセージは世界を駆け巡り、家族を収容所に奪われ、同胞の虐殺に嘆き悲しむウイグル人の心の救いになる。
それでも「被害実態の証拠を日本は収集していない」というなら「欧米諸国が『ジェノサイド』(民族大量虐殺)と呼ぶ人権迫害の実態が、本当なら…」と「if」を付ければいい。
日本はウイグルにとって希望の国だそうです。ウイグル自治区では今も中国当局が「日本は悪だ」と抗日宣伝教育をやっているでしょう。でも、出身者によれば、ウイグル人の多くはそれを信用しなかった。中国当局による教育内容にだまされずに、日本人を尊敬してくれている。香港や内モンゴル自治区の出身者も日本に希望を持っている。
なぜか。日本は1904(明治37)年の日露戦争で勝利し、19年のパリ講和会議では世界に先駆けて「人種差別撤廃」を提案し、強く正しい国に違いないというんです。
ウイグル人にはこういう言い伝えもあるそうです。「あの時、日本軍が来てくれていたら、東トルキスタンは独立していた」。先の大戦でアジア諸国を植民地から解放した日本軍がウイグルまで到達すれば、49年の中国人民解放軍によるウイグル侵攻が避けられたという見方です。
でも、日本が尊敬されているのは、先人のおかげなんですね。在日のウイグル人やモンゴル人が「日本なら正しい判断を下すはずだ」と言っている姿をみると、思わず「それは幻です」と言ってしまいそう。
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私がウイグル問題を最初に漫画にしたのは令和元年4月です。中国当局の監視下に置かれているウイグル人を漫画『その國の名を誰も言わない』で描き、ツイッターで公開しました。政治に関心のない人たちにも漫画ならウイグル問題を伝えやすいかと思い、海外メディアや西日本新聞などの記事を参考にしました。
私はイラストやミュージックビデオを作る仕事をしていますが、ジャーナリストらのウイグル問題のリポートを知り、ウイグルの窮状をインターネットなどで調べました。メディアはなかなか報じませんからね(笑)。遠くの人のかわいそうな話で終わりにすべきではない。
『その國の名を誰も言わない』を読んだ在日ウイグル人に誘われ、同年7月に都内での証言集会に参加しました。米議会で証言したこともある米国在住のウイグル人女性、ミフリグルさんはオンラインでこう伝えました。
理由なく拘束され、死んだ方がましだと思うような拷問を受け、引き離された生後間もない息子の亡きがらを渡された-。
2週間たってもミフリグルさんの証言が頭を離れない。本業のかたわら、1日1時間はウイグル問題に取り組もうと決め、ミフリグルさんの証言をもとに漫画『私の身に起きたこと~とあるウイグル人女性の証言~』を作り、ツイッターに投稿しました。作品は海外メディアで報じられ、米国務省の広報ページでも取り上げられました。日本政府も使ってほしいですね笑
中国に対して抗議の声を大きくすることで救える命があると思います。収容所に入れられた人の親族が海外で騒いだら、解放されたケースもありました。逆にいえば、外国とつながりを持たないウイグル人は、収容所から解放され、海外に出られる可能性はないともいえるのです。
中国政府はウイグル人への「ジェノサイド」の批判を「デマだ」といっていますね。「デマ」ならウイグル人は無事なのですから、喜ばしい。ここ数年連絡がとれない行方不明の両親を、子供たちを、今すぐ家族のもとに返してあげてください。
私が漫画を描いているのは、今も弾圧を受けているウイグル人を1人でも救うため。そのためには知ってもらうことが大事だと考えています。
日本をのぞく先進7カ国(G7)はウイグル問題について「ジェノサイド」認定をし、「深刻な人権侵害」と非難する決議を採択している。日本は対中非難決議の採択にここまで時間がかかっている。これ以上何を妥協する必要があるのでしょうか。日本に期待と信頼を抱き続けるウイグル人に対しても、恥ずかしくない文章での決議をお願いします。
■清水ともみ氏 平成9年に講談社の漫画雑誌でデビュー。令和元年4月以降、ウイグル弾圧の証言を取材し「私の身に起きたこと ~とあるウイグル人女性の証言~」など複数の作品をツイッターで発表。作品は最大15カ国語に翻訳され、ワシントン・ポストなど海外メディアや在米大使館のツイッターで紹介される。「私の身に起きたこと」(季節社)「命がけの証言」(ワック)で書籍化された。清水氏のホームページの掲載作品は商用以外の周知・拡散目的ならコピー・転載可能。