2020-01-29

『窮鼠はチーズの夢を見る』と『18禁』『R-15』の法的根拠自主規制

0.まえがき

おそらく表現規制最前線にいる人しか分かってないと思うので&『窮鼠はチーズの夢を見る』の修正話題になっているので。

主に過去に書いたことの再掲

1.『18禁』などの年齢制限は何のため

1-1.販売店にとっての意味

(太字強調は筆者による)

[刑法 第百七十五条]

わいせつ文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。

電気通信送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

[児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律 第7条第6項]

児童ポルノ不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。

まりわいせつ文書・図画や、児童ポルノに関する罪を問われるのは製造者や所持者だけではない。法律上は、販売した者も罪に問われる場合がある。

が、店員にとってみたら『わいせつっぽい物を販売したらある日突然逮捕されるかもしれない』は恐怖である

そのような販売店の恐怖が『それっぽいものは全部売らない』になるのは商業的にも文化的にもマイナスなので、

ビデオ映像関係の年齢表示や、成年向けコミックマークはそのような販売店の声に対し、『自主規制団体が、刑法および児童ポルノ法に違反していないことを確認したと責任を負います』という意味がある。

からこそ、数年に1度程度の割合で『AV女優が実は18歳未満だった』という事件があるが、そのAVを置いていたツタヤ店員が全て逮捕されるわけではないし、

以前薄消しが流行ってビデ倫関係者が逮捕されたことがあるが、問題になったビデ倫作品を扱っていた販売店の関係者は逮捕されていない。

逆に言うと、そういう団体を通していない、いわゆる裏ビデオを分かっていて売ったら店員逮捕される可能性もあるはずだ。

ちなみに刑法175条が保護しているものわいせつな図画を見たくない人の見たくない権利……ではなく、『最低限の性道徳』ということなっている。(この解釈については流石に時代錯誤を指摘する声は複数あるし、筆者もおかしいと思うが前提として現時点ではそうなっている)

1-2.条例上の意味

上で書いたような『わいせつ文書・図画』や『児童ポルノ』は世間で広義で用いられるような意味ではなく、たとえ18歳以上にしか売っていないとしても、売った人は逮捕されるような物の話である

では、一般的に「18歳未満には販売できません」で書店アマゾンで売っている商品はどのような法的根拠で売っているか。それが条例上の理由だ。

[東京都青少年の健全な育成に関する条例]

(表示図書類の販売等の制限)

第九条の二 図書類の発行を業とする者(以下「図書類発行業者」という。)は、図書類の発行、販売若しくは貸付けを業とする者により構成する団体倫理綱領等により自主規制を行うもの(以下「自主規制団体」という。)又は自らが、次の各号に掲げる基準に照らし、それぞれ当該各号に定める内容に該当すると認める図書類に、青少年が閲覧し、又は観覧することが適当でない旨の表示をするように努めなければならない。

まどろっこしいが、要は『一定倫理基準に該当する物は、青少年に閲覧・販売できないように努力せねばならない。(そして、成人に販売する分には問題ない)』ということである

"18禁"などに関する(映像作品ゲームではR-15も一応は存在する)法令上のもっと重要な(もしかしたら唯一の)根拠はこの前後の条文だ。

この条文があるからリアルでもネットでも、18禁などの作品自主規制団体出版元が自らマークを付け、また販売店がそれらを売る際には専用のゾーンを設けなければならない。その区分が雑だという話(特にネットにおいて)はノーコメント

1-3.いわゆる『有害指定』とは何か

2で書いたように、自主規制団体または出版社が自ら成年マークをつけたものは『表示図書類』として扱われる。それとは別に、『指定図書類』というもの条例には存在する。

[東京都青少年の健全な育成に関する条例]

(不健全図書類等の指定)

八条 知事は、次に掲げるもの青少年健全な育成を阻害するものとして指定することができる。(以下略)

(指定図書類の販売等の制限)

第九条 図書類の販売又は貸付けを業とする者及びその代理人使用人その他の従業者並びに営業に関して図書類を頒布する者及びその代理人使用人その他の従業者(以下「図書販売業者等」という。)は、前条第一第一号又は第二号の規定により知事指定した図書類(以下「指定図書類」という。)を青少年販売し、頒布し、又は貸し付けてはならない。

いわゆる『有害指定である。“成年マーク付きのもの有害指定されない”と明記されているわけではないが、条文上『表示図書類』と併記して扱われているので事実上棲み分けている。

そして、有害指定』の対照となるのは、「成年マークをつけなくても大丈夫だろう」と自主規制団体出版社が考えた本の中で、青少年健全育成会議指定された本である。(ちなみにエロ以外でも、犯罪自殺を推奨しているとして指定される場合はある)

さらに言うならば、『表示図書類』は書店アマゾンでも売っている。だが、『指定図書類』は流通が扱わなくなるため、事実上販売できなくなる。公式サイトから通販などは可能なのかもしれないが…。

1-4.世論との妥協

そもそもこのような自主規制団体が生まれたのは1950~60年代に『低俗な本・雑誌が溢れた』ことに対する世論批判とそれを受けての条例(2や3で書いたのは東京都条例だが、同様の条例は全ての都道府県存在する)制定の動きに対してであり、

ビデオゲームが出た後も法規制の動き(もしくは実際の逮捕事件)を受けてから出版団体を参考にして自主規制団体が生まれている。

もっとも、出版映像では少なからず差がある。最大の違いは、出版は成年マークのついていない書籍については一切の表示がないのに対し映像ゲームでは(ほぼ)全ての作品について「審査の結果、年齢区分はこうなりました」という表示があるということだ。

世の中において『私の考えるこれこれの思想道徳に反する本は全て排除せよ』という日本国憲法ガン無視全体主義者は少数だが、

「たとえ低俗出版物であっても、他者権利侵害していないならば全て認められるべきだ」というガチ一元的内在制約説原理主義者もまた少数であり、

低俗な本に対する一定倫理的歯止めをする制度必要だよね」という中庸な人がおそらく最大多数だ。

酒鬼薔薇の本など典型例だ。私の倫理観はあの本が出ることを嫌悪するが、あのような本の出版をどうやって規制するのか、というと非常に難しいよなと思う部分はある)

そういう人たちに対して「いや、一定倫理的歯止めはかけていますよ」というアピールをして、ひいては条例法律上の規制をするような世論に持っていかせないという存在としても自主規制団体は役立っており、

民主主義の世の中においてそのような団体存在意義は一概に否定するものでもない。

2.年齢制限の実際

2-1.基準はどこか

今の日本で、『わいせつな図画』(=刑法175条的なアウト)と『18禁コンテンツ』を区分ける基準は”性器をはっきりと描写しているかである

法律上明記されているわけではないが、事実上そのようになっている。

これに関しても過去には(主に写真集絡みで)争いがあった。具体的には以下のような流れだ。

警察「アンダーヘアが見えたらアウト」→写真家「じゃあパイパンならOKですね」

警察性器が完全に露出していたらアウト。なお、アンダーヘアも性器の一部とする」 →写真家「じゃあパンツはかせます。アレ、少し透けてるような気もしますけど、着てるからセーフですよね」

警察「じゃあアンダーヘアはOKだが性器のものが見えたらアウト」 →写真家ヘアヌードOKですね」 →警察「一応セーフにしておくか」

ということで、現在では成人を撮影した物については性器のものは写さない、もしくはモザイクなどの修正があればセーフということになっている。(児童ポルノは別である

からAVエロ漫画では性器にはモザイクをかけなければならないとなっているし、

逆に性器が写っていないヘアヌード写真集わいせつな図画には該当しない(から書店普通に販売されている。18禁ゾーンの先であることが基本であるとは思うが。)

ちなみにこの点において男性器と女性器は平等であるからAVなどでは女性器だけでなく男性器もモザイクがかけられている。(ちなみに2020年1月現在肛門はセーフのはずである。)

また、保護するものあくまで『最低限の性道徳であるから絵であってもアウトであり、だからこそエロマンガエロゲでもモザイク必要になっているが、十分に抽象化されていればセーフである

初期のドラゴンボール悟空チンコを一応描いているが、それが理由わいせつ図画に該当することは価値観の大転換でも起こらない限りは無い。

一方、『18禁』と『18禁ではないけどエロコンテンツ』の区切りがどこにあるかはよくわからない。

上述したように最終的には東京都指定を免れることができればそれでいいものしかないので結局は東京都と版元の空気読み合いだが、

性器モザイク付きで描写しているか肛門が描かれているか、それを含めて性行為が描かれているかなどが一つの目安だとは思う。

ちなみに上で例に挙げたドラゴンボールではブルマキャラ名)が何度か脱がされているが、股間部には特段、何かを描いてはいなかったはずである

女性股間部に何も描かない”というのはドラゴンボールに限らず、Toloveる青年誌ヤング〇〇掲載作品)などR-18ではない男性向けちょいエロではしばしば採用される手法である

BLやレディコミではその辺どうなっているのかは知らない(筆者が男性であるため)が、謎の光などを描いて男の股間に何も描かなければ、BLでもR-18指定は免れ得るはずだ。

これは無論、”性器リアルに描いているものは全てわいせつ図画であり、刑法175条違反から作成販売自体違法”ということを意味しない。

当たり前の話だが、医学書は実写で性器掲載してもわいせつ図画にはならない。

とまあ、医学書ならば流石に目的ははっきりしているが、”芸術”と”性欲”を厳密に線引きすることは困難だ。

悪徳の栄え事件最高裁判決でも「文学性や芸術性が性的刺激を緩和することはあり得るが、文学性や芸術性がある文書(・図画)が同時にわいせつ性を持つことはあり得る(意訳)」としている。

2-2.『わいせつであるかを巡る具体例

Q1:エロ同人は?

A1:性器無修正で描いたらわいせつ図画になりますが、コミケット準備会警察とほぼ同様の基準に従って修正させています無修正修正が甘いと見本誌を提出したとき販売停止になるはずです。

Q2:普通アダルトビデオは?

A2:性器修正しておく必要があります

Q3:裏ビデオは?

A3:作成販売したら違法です。だからこそ裏なんです。

Q4:無修正性器違法でない国からの、インターネットを介した配信は?

Q4:サーバー所在国の法律で取り締まるのが原則だとは思いますが、正直なところ何ともいえません。

Q5:ろくでなし子さんは?

A5:『でこまん』はセーフで3Dプリンターデータはアウトなんでしたっけ? 増田はでこまんを見たことが無いのではっきりとしたことは言えないのですが、流石にでこまんは最低限の性道徳には触れないという判断だったんでしょうねえ。

Q6:ダビデ像など、古典芸術は?

A6:流石にアレは性欲を刺激しないという扱いなんでしょう。

3.『窮鼠はチーズの夢を見る』問題

作者のブログに今回の決定について書いてある。

増田コミックの方の中身は見たことがないが、現在販売されているものも含めてどうも元々年齢指定は無かったようである

それがR-15実写映画になり、それに伴って若い読者が増えることを想定してコミックの方も性描写修正を強め、バージョンは今後は販売しないという扱いらしい。

男性向けで例えるなら、『ふたりエッチ』がR-15実写化され、それに伴い今以上に修正を強化し、旧修正バージョンは今後は販売しないようなものである

正直、そこまでする必要があるのかと言うならば疑問ではある。

ヤングジャンプやヤングマガジン掲載の性描写ありラブコメ、たとえば『源君物語』や『なんでここに先生が!』がR-15で実写になったとして、集英社講談社はそこまでしないだろう。

青年男性向けで小学館が出しているマンガならば、というと増田は現時点でビッグコミック雑誌定期購読していないのでそのような『性描写あり恋愛もの』が掲載されているのか自体を知らない。

どのみち、タイトルの後ろに『for Ladies』のように付けて旧修正版も併売すれば良いのではないか、と思うが、出版社がどのような理由で今回のような判断をしたのかはわからない。

BL実写化するならもうちょっと原作修正を考えろ』という東京都青少年健全育成審議会からの無言の圧力があり、出版社が忖度したのだろうか?

4.どなたか憲法学者の方はいらっしゃいませんかー(呼びかけ)

Q:「ややこしいから国が基準を定めてはどうか」

A:「それは憲法禁止する検閲に当たるのではないか?」

実際その辺どうなんでしょう、はてな憲法学者の方がいらっしゃったらその辺どのように解釈されるかお願いします。

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