2018-08-24

【本編】ダジャレ10スター貰わないと出られない部屋

ズキズキとした後頭部の痛みで、目が覚めた。

目に入ってきたのは、真っ白な天井と壁の殺風景な部屋。

俺が着ていたのは、入院患者が着るような水色の服だった。

部屋にも服にも見覚えがない…。

あわてて、昨日の記憶を探ってみても、なぜ、ここにいるのか思い出せない。

会社忘年会の帰り、自宅の最寄り駅までは覚えているが、そこから記憶がない。

記憶が飛ぶほど飲んだわけでもないのに…。


連絡もなしに朝帰りとは、妻にどれだけ怒られるか…と心配し、携帯を探したところで、手荷物がないことに気付いた。

昨晩、転んで頭でも打って病院に運ばれたのか?

とりあえず、看護師さんを探そう。

そう思って部屋から出ようとしたが、ドアが開かない。

鍵がかかっている…?

混乱しているうちに、人工音声のアナウンスが室内に響き渡る。

「この部屋からは、ダジャレ10スターを集めないと出られません。

繰り返します。この部屋からは、ダジャレ10スターを集めないと出られません。」

一体、何を言っているんだ…?


時間の混乱の後、俺は、この狂ったアナウンスが、どうやら本気だと悟りはじめた。

部屋でどんなに大声を張り上げても反応はなく、施錠されたドアを開ける方法は見当たらない。

外部に連絡を取る方法もない。

部屋の隅にあったノートパソコンは、かろうじてネットに繋がる。

しかし、アクセスできるのは、はてブ関係のページ(ご丁寧にも、俺のはてブアカウントログイン済みだ。)とブクマされたページだけ。

webメールログインや、ブコメ以外の書き込みなどはできなかった。

設定の裏をかけば、他のページに行ったり、助けを求めたりできるのかもしれないが、ITに疎い俺にはどうしようもない。

俺は、どこかの狂人監禁されたのだ…。


この狂人が理性に目覚める可能性や、警察がこの場所発見する可能性にかけるよりも、スターを集める方が良さそうだ。

そう思い始めたのは、数回の食事(ドアについた郵便受けのような小窓から支給された)と、数え切れないほどの脱出のための悪あがきを終えたあとだった。

他にやることもないし、ここは、狂人論理に従っておこう。

そいつ刑務所にぶち込むのはここを出てからで良い。

こうして、俺は、ダジャレスターを集めることにした。


試しに何日かブコメをしてみると、いくつか分かったことがあった。

第一ブコメで助けを求めようとしても、コメントは反映されない。

俺のブコメは全て、反映までに少し時間がかかっていた。

問題ないコメントけが投稿・反映されるのかもしれない。

第二。ダジャレスターをもらうと、その日の夜に、パソコン上に表示された数字が減る。

最初は、100000と表示されていたから、解放までに獲得すべきスターの数ということだろう。

第三。ネットに繋がるのは、午前9時から午後5時までだけ。

それ以外の時間は、暇を持て余した。

第四。ダジャレ以外でスターをもらっても数字は減らない。

政治関係過激コメントスターを荒稼ぎしようとしたが、その試みは無駄に終わった。

セルフスターダメサブアカ・複アカの利用もダメ

その他、ありとあらゆる抜け道を試してみたが、全て徒労だった。

結局、地道にダジャレブコメしてスターをもらうしかないようだ。

考えないようにしてはいたが、1週間も経つと、10スターという数字の途方もなさに直面せざるを得なくなる。

1日に数十スターというペースでは、10万に達するのはいつになることか…。

数を撃つにしても、限度がある。

やりすぎて、垢バンされれば、それで終わりだ。

妻は、子どもは、一体どうしているだろうか…。

仕事はどうなっただろうか…。

俺の失踪ニュースになっているのだろうか…。

焦りをつのらせた俺は、効率よくスターを集める方法を考え始めた。


監禁されて数ヶ月。

俺は、ダジャレについての思索を深めつつあった。

ネットに繋がらないのは、午後5時から午前9時まで。

時間だけはたっぷりあった。

ダジャレブコメにつくスターの数は、大まかにいって、ダジャレの完成度とブコメの閲覧者数に依存する。

面白くないコメントには、当然、スターはつかない。

どんなにスゴいダジャレでも、数人しか見なければ、多数のスターは望めない。

ブコメにおけるダジャレの完成度は、①困難性、②新規性、③内容関連性で構成される。

①困難性とは、そのダジャレを思い付くのが困難な度合いだ。

基本的には、文字数が長いほど困難性が高い。

濁音・半濁音・促音・長音符を無視せずともダジャレが成り立つ方が、高度でもある。

例えば、「布団がふっとんだ」より、「アルミ缶の上にあるみかん」の方が難しい。

新規性は、既に人口膾炙しているダジャレでないか、の基準である

上記の2つのダジャレは、有名過ぎて新規性ゼロだ。

また、イカ関連のダジャレイカ娘などで使い尽くされているので新規性が低い、といった具合である

③内容関連性とは、そのダジャレが、ブクマ先の内容にどれだけ関連しているか、というものだ。

どんなに困難で新規性のあるダジャレでも、ブクマ先と無関係では、閲覧者に感銘を与えられない。

ダジャレがなくても完全なマジレスとして成り立つような内容が理想的といえるだろう。

スターを集めるには、ダジャレの完成度を上げつつ、ブコメの閲覧者数を増やすことが重要だった。

ダジャレの完成度をあげるに、絶対必要もの。それは、語彙力。

ダメ元で、「ダジャレのために辞書をくれ」とブコメしたら、コメントは反映されなかったが、食事と共に広辞苑差し入れられた。

同様に、Wikipediaや韻検索サイトへのアクセスも認めさせ、語彙力のアップに努めた。

振り返ってみれば、ダジャレのためを装って、脱出のための道具を調達することも出来たのかもしれないが、この頃にはもう、破壊による脱出など頭になくなっていた。

ブコメの閲覧者数をあげるには、ホッテントリに入るページをブクマすること、早期に人気のコメントに入ること、お気に入られ数を増やす重要だ。

ブクマが伸びるページを早い段階で見極めて、ダジャレねじ込む必要がある。

また、お気に入りに入れてもらうには、ダジャレブクマカとしてのブランディング必要だ。

暇を持て余してもマジレスすることはやめて、ダジャレブクマしかしないことに決めた。

そのうち、俺は、尊敬するジェイ氏と並び、ダジャレブクマカとして認知されていった。

ネットができる時間をフルにダジャレのために使えることも重要だ。

夜の時間には、筋トレをして体力作りに励んだ。

ルームランナーダンベルは非常に役立った。

昼の集中のためには、栄養ドリンクスマートドラッグ差し入れさせた。

腰痛対策アーロンチェア重要だ。

もはや俺は、ダジャレのために全てを注いでいた。

やがて、そのときは来た。

獲得したスター10万に達したのだ。

扉が開く重厚な音のみが部屋に響いた。

自由の身になったということだろう。

しかし、そこでふと考える。

くろうして入ったのに、ブラックだった会社

女子にだけ人望 がある 常識のない上司

妻子の世話も面倒くさいし、

室外に行ったら、ブコメの質が維持できない。

至高のダジャレ志向するには、たゆまぬ試行思考必要だ。


俺は、10万1個目のスターを得るべく、ブコメを書き込む作業を再スタートした。

https://anond.hatelabo.jp/20180822170557

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