それでも、アクの強さに見合った魅力があることも確かだと思った漫画。
現在連載中、或いは最近完結した作品のみを対象にピックアップし、核心に迫るようなネタバレも避ける。
人間と蝶の未熟児みたいな謎の生命体を、主人公が不純な動機で飼うことから始まる。
タイトルの『オゲハ』自体、その謎の生命体に主人公が「汚いアゲハ蝶みたいだからオ(汚)ゲハ」と名付けたからである。
謎の生命体の生態や、登場人物たちの事情を全て俯瞰して見れる読者だからこそ分かる、綱渡り状態の危うさが度々提示されるのが見所だ。
だが、意図的とはいえ作品全体に漂う不快感はいかんともし難く、冒涜的ととられる表現も多い。
序盤で描かれる、オゲハ相手にほくそ笑む主人公に眉をひそめる人は多いことだろう。
雰囲気はコメディ調で、主人公は何か重苦しい理由のせいで不登校というわけではない。
そのため不登校という要素から連想される後ろ暗さはなく、重苦しい漫画ではないものの、それ故に主人公の身勝手な言動は同情の余地がない。
主人公の家族は善良なので、その身内たちに一方的に迷惑をかけながら惰眠を貪る主人公は、コメディである前提を考慮しても眉をひそめる人も出てくるのは仕方がない。
そこを許容して、あくまでコメディとして楽しめるなら、どうぞ。
まあ、正直なところ今回紹介した中では、これはかなりマイルドな部類なので万人受けしやすい方だと思う。
1話から大きく注目された漫画だが、あれで作品の方向性を読み違えると肩透かしを食らうかもしれない。
「強力な力を持った主人公を中心に、復讐のために道中の敵と戦いながら活躍するヒーローもの」みたいなものを期待すると裏切られる。
まず、主人公は不死身に近い再生能力に説得力を持たせるため、敵にいいようにやられることが多い。
主人公目線で物語が語られたり展開することは意外にも少なく、サブキャラたちだけのやり取りが圧倒的に多く、群像劇の側面が強い。
1話のカニバリズムや、炎で焼かれ続けるなどのトーチャーポルノ的表現もそうだが、以降も獣姦などの異常性癖、狂言キャラが出張る、ディスコミニケーションの連続など、無批判で受け入れるには厳しい要素がどんどん出てくる。
あと、アクションシーンはお世辞にも上手くない。
それでも、作風や方向性から漂う個性というものは間違いなくあるので、そこに魅力を感じたのならどうぞ。
対人恐怖症の主人公が、想い人の生徒会長に気付かれないよう、かつ傍にいたいがために生徒会室の椅子を改造して、その中に自分が入る。
誰得な椅子の改造方法を詳しく解説したり、主人公の生徒会長に対する情念たっぷりの独白など、「変態」な人間を表現するための描写をかなり念入りに行う。
周りに認知されない存在だからこそ偶然知ってしまう登場人物たちの秘密を、主人公が垣間見てしまうのだ。
事件が起こり、それを隠蔽しようとするとある人物の一連のシーンが、これまた丁寧に描かれていて、妙なところにリアリティを追求している点も見所だ。
プロットのインパクトに負けない、圧倒的な描写や展開が魅力でもあるが、構成されるほとんどの要素がアウトローな上、それをやたらと丁寧に描いているので、そこに拒否感を覚えなければどうぞ。
この漫画の何が面白いかといわれると、正直なところ私はうまく説明できない。
主要人物の多くが独自の価値観を持っており、しかもそれを前面に出して展開される。
もちろん、そんなことをしてまともなコミニケーションなど成立する筈もなく、不可解さや不愉快さは読者にも伝染しやすい。
それは主人公たちの人格も同様で、読者が共感できるような普遍的な是非で物事を判断しないし、動かない。
それでも、一見すると作中ではなぜか成立しているような気がする人間ドラマは何とも奇妙だ。
私が解釈するこの作品のテーマやメッセージは、「社会的な、或いは政治的な観点での『正しい人格』の押し付けを拒否し、確固たる自我の確立を目指すこと」だと思う。
それでも、露悪的な言動をする主人公や、我を通す人間がイニシアチブをとりつづける世界観は、結局のところ側面的には『正しい人格』を別のものに摩り替えただけで、読んでいて気持ちのいいものではない。