入りきらなかった題名
『昔好きだった男の子が見事に「アベガー」になっていて百年の恋も冷めた話』
題名の通り。昔好きだった男の子が、「アベガー」になっていた。それを知ったのは2、3年前の話だけど、今日安倍総理が辞任されるという話を聞いて色々と思い出したので書こうと思う。
政治の話がしたい人には申し訳ないが、ここからしばらくは私の恋話に付き合っていただきたい。ウヨもサヨも、野党も与党も安倍総理も、全く関係がない。
長い前置きで悪いね。でも言っておきたい。私は彼のことを責めているのではない。私は結構自分勝手な人間だったってことを自覚したと同時に、世の中の残酷さを味わったという、ただそれだけの話。
昔、というのは私が中学生の頃のこと。現在の私は社会人1年目。社会の荒波に揉まれながら毎日頑張っている。
これは、私が中学2年生だった頃から23歳を目前に控えた今日までずっと消化しきれなかった、小さな恋の話である。
中学2年生のとき、好きな人ができた。彼の名前は"リュウ"としよう。クラスメイトが時々彼は神木隆之介さんに似ていると言っていたからだ。リュウは賢く、明るく、優しく、運動も得意で、先生にも好かれている、常にカーストのてっぺんに立っているような人だった。対する私は、良く言えば大人しく、悪く言えば地味な眼鏡っ子。勉強はそこそこ、運動は苦手、国語の先生には好かれて体育の先生には嫌われるようなタイプだった。
リュウは私のような人にも優しかった。人見知りの私は初対面の人間の大半が苦手だが、不思議と彼を苦手だと思ったことはなかった。初めて隣の席になったときなんて、もう毎日が夢のようだった。教科書見せて、これどうやって解くの、今日朝練やってたね…少しずつ、少しずつ、私たちは"ただのクラスメイト"から"友達"になっていった。
友達になった私たちは、あっという間に仲良くなった。(私は人見知りだが彼のことが大好きだったから、どうしてもこのチャンスを逃したくなくて必死だったのだ。)ノートの切れ端で手紙を交換して、授業中に目が合えば小さく手を振られて、休み時間はよく2人で頭を突き合わせて数学の問題を解いていた。
私は彼のことがずっと好きだった。今でも覚えている。中学3年生のある日、彼はこう言った。
もちろん答えはイエス。隣の席になったときよりも、もっと夢みたいだった。
で、まぁよくある話だけど、幸せな時間は長くは続かないんだよね。夢みたいに幸せな私が、彼と恋人でいられたのはたったの半年だった。公立中学校の3年生には、受験というものがあるからだ。ありがちな展開で申し訳ないが、私たちは進学を機に別れてしまった。より正確に言えば、私は彼に振られたのだ。
大半の大人から見れば、中学生の恋愛なんて所詮はオママゴト。中学校より高校、高校より大学、大学より社会人になってからの恋愛の方がより真剣で、大事なものだと思っている人も多いんじゃないかな。でも、私にとってあの時の恋は本当に真剣で大切で、今でも忘れられない出来事だった。
話は変わるが、私が初めてスマートフォンを手にしたのは高校に入学したときのことだ。スマートフォンを手に入れた女子高生がすることといえば?
…そう、SNSだ。私はTwitterアカウントを手に入れた。(Instagramを始めたのはもっと後の話だ。)
始めたばかりのTwitterアカウント、それもリア垢でフォローするのは誰?
…そう、リアルの友達だ。私は友人たちを探してフォローしたし、彼女らも私をフォローした。そうやっていつの間にか広まって、私のフォロワー欄には同じ中学校や高校の人たちが並んだ。
その中にリュウがいた。恋人になる前の私とリュウは気の合う友達だったし、趣味も話もよく合った。SNSでも、滅多にリプライなんてしないしされないが、それでも私たちは時々、本当に時々、ネットの世界で顔を合わせるようになった。
まだ私は彼のことが好きだった。あの時だって、「面倒な女」「聞き分けの悪い女」になりたくなくて、別れ話にも納得したフリをしただけだった。必死で忘れようとして、本当に忘れた時もあったけど、やっぱり好きだった。多分ずっと好きなんだと思う。
ストーカーだと思われたくないから、今までの話は誰にも言ったことがないし、行動を起こしたこともない。私は彼にLINEの一件すら送ったことがない。
私の激情もだいぶ落ち着いて、大学生になったある日。リュウのTwitterをたまたま見てしまった。いや、わざわざ彼のアカウントを見に行ってしまったのだ。友達に彼氏ができたって聞いて、私はやっぱり彼のことを思い出してしまったから。
高校生の頃は確かにあったはずの、彼の好きなスポーツや音楽、部活にゲームに本や漫画の話題は全て消えていた。真っ白なタイムライン。タップしてリプライ欄。メディア欄。空っぽ。
どうしたのだろうかと考えながら、またタップ。いいね欄。私はここで2度目の失恋をした。
「安倍晋三は総理大臣としての責任を果たしてさっさと辞職するべき。」「アベはこの問題について一体どう考えているのか。逃げていないで説明しろ!」「アベは国民をバカにしている!」「アベが」「アベが」…。
どうしたというのだろう。何故彼のいいね欄は政治の話…それも所謂「アベガー」ばかり。
リュウは優しい人だった。自分も努力家で、同じく頑張る人を見捨てられない、優しい人だった。
間違っても、誰かを口汚く罵倒するような人ではなかった。
なのに、どうして?
私の恋心ゆえに、記憶の中のリュウがかなり美化されていることは分かっている。(クラスメイトよ、リュウが神木隆之介似というのは流石に言い過ぎだと思う。)
でも、優しくて賢くて、誰かに手を差し伸べることはあっても、誰かを攻撃するような人ではなかったことは紛れもない事実だ。
何がどうしてこうなったんだろう。リュウが私の理想通りにならなかったことに怒ってるんじゃない。絶対に言い返さない、言い返せない人に向かって、安全圏からこそこそ口汚い言葉を使うような人に共感しているなんて、ショックだった。
直して欲しいとは思わない。誰が何を考えていようと自由だからだ。彼は自分が共感した意見にいいねを押して、私は勝手にショックを受けた。ただそれだけの話。
私は懲りずに彼のアカウントを見に行った。凍結されていた。
恋って一体何なんだろう。