2018-11-08

結局の所、博士課程院生文系)の民間企業就職って、そんなにいいも

はじめに

近年、諸要因に伴う労働プールの枯渇と求人倍率の上昇により、博士課程院生キャリアパスとして、日本でもようやく民間就職現実味を帯びつつある。

例えば、この前も数学科?の博士課程修了の方が研究職を諸事情により諦め、民間就職シフトしたことについての総括エントリをまとめ、バズっていた。

http://wakabame.hatenablog.com/entry/2018/11/04/190441

こうした潮流自体はもちろん喜ばしいことであると思う。しかし一方で、一人文社会科学院生であり、かつ一応数年間民間企業で働いていた人間として、民間企業でのキャリアパスが確保されること=バラ色の未来とはとても思えなかったという経験がある。

これは、①本質的博士課程院生日本民間企業で雇う際の歪み(特に非エンジニア職制の場合)と、②いわゆる「役に立たない」ことを研究している院生は、本質的民間企業価値規範にそぐわないメンタリティーを、大学院教育の中で滋養しているという二点に起因していると思う。

というわけで、極めて私的経験かつ、まったくもってエゴイズムの塊のような問題提起をあえてしておきたい。これは、前述したような近年の博士課程院生民間就職を過度に褒めそやす風潮に対し、挫折し結局研究業界に戻ってきてしまった人間として嫌味を言っておきたいという気持ちによる。

コンサル研究職、その似て非なる性質

私は修士終了後、まあいろいろあって博士課程進学と同時に民間企業就職をした。コレ自体、かなりイレギュラーではある。

仕事内容はまあ、詳しく言うと確実に特定されるので防ぐが、政策調査地方自治体計画策定コンサルである官公庁調査案件請負、クソみたいな――時々インターネット炎上するような――分析鉛筆なめなめを行い、官僚様と政治家様の願望にそぐう数値をでっち上げ仕事である

で、これは当然のことながら人文社会科学系の研究者の価値規範と真っ向から相反する。というのも、私たち人文社会科学系の研究者は、扱うデータがどのようなものであれ、そのデータ分析においては仮説を用意したとしても、最初から結論を用意するということはしないかである。ところが、この業界――まあいわゆるシンクタンク業界なんだけど――においては、最初から結論が決まっているので、データ分析はいかに結論でっち上げるかという方向に労力が注がれる。

これはなんでそうなるかというと、この手の仕事コンサルから派生しているかである。すなわち、元々コンサル業界倫理観においては客の求める結論をはじき出すということがある程度正当化されているので(外コンのプレゼン術を名乗る本は多くの場合ただのごまかしである!)、それに基づいて目の前のデータを弄ることに抵抗がないのだ。ただ、そのデータを弄る際に、人文社会科学スキルセットを援用するというだけなのである

で、問題はこのスキルセットが活用できるという理由でもって、人文社会科学系の院生がこの業界を志望し、実際雇われているという現実であるサンプルサイズは極めて少ないが、私の周囲を観察するのならば、このギャップにやられて会社を辞める人間は実に多い。特に「優秀」――ここでの「優秀」とはアカデミアでの評価である――な人間ほどである

事実、私は「優秀」ではないが、こうした現状に辟易して、言い換えるのならばアホなクライアント上司妄想に無理やり付き合うことに疲れて退職してしまった。

批判精神の醸成って、日本企業においては完全なディスアドバンテージなんだよね

なぜこうなるのだろうか。それは、人文社会科学系の教育カリキュラム価値規範が、現代日本企業と致命的にあってないかであると思う。

よく人文社会科学系の先生は、「常識を疑うこと」や、「新しい仮説を立てること」を大学教育の美点として強調する。私ももちろんこれらのことが本質的に良いことであることには同意したい。だが、これが現代日本新卒就職においてよく働くかといえば、まったくもって嘘である。というのも、少なから日本企業においてこれらのスキル必要となるポジションは、多くの場合前頭葉が退化した老人によって占められており、我々若手社員がやりうることは、老人が出した意味不明結論に向けて数字でっち上げることだからである。この作業は、前述した批判精神と真っ向から相反する者である私たちは、今まで培ってきたスキルセットをもってクソの世話をするのだ。

であるからにして、私は現在アカデミア教育は、少なくとも人文社会科学系に限るのならば、民間就職に対し逆作用しか生み出していないと考える。ただ、これはアカデミアが悪いとは必ずしも言えない。繰り返すがこれは高スキル社員を作り出せず、無駄に高コストジェネラリストという名の無能を社内に飼いながらスペシャリスト下請けを買い叩くという、日本企業伝統構造に起因しているかである。鶏が先か卵が先かは言い難いが、そもそも日本企業において、一部理工系エンジニア(計量系の経済社会心理なども含めてもよい)以外は、「無能」――ここでの「無能」とはアカデミックにおける「無能」を意味する――でなくては生きていけないのである

というわけで、現状の日本企業構造をそのままにしていては、博士院生をふくむ多様なキャリアを持つ社員活用なんかできっこないし、実際出来てなかったよ、ということを本エントリは主張するものです。

というわけで

金はないけどアカデミック最高!好きなことを好きにやれる環境って、結局俺たちには大学しか無いの。俺たちには理研産総研産学連携ベンチャーもない。同情するなら金をくれ。役に立たない研究しかしないけどね。

  • 何か感想を書こうと思ったけど、文系なのに理工系エンジニアに入れてもらえてたので、言うことがなくなってしまった とりあえずどんな分野の文系でもR、可能ならPythonを使えるように...

  • 批判的思考力の養成って普通に高校でもさせられたし、アカデミアという狭い世界だけの問題とも思えないなあと

  • 計量ができない経済学徒は存在しない(経済史とかでもRくらい触れる)ので一緒にしないでもらえますか。

  • 文句がある博士は日本から出ていけばいいと思いまーす

  • 自己評価の高いIT技術者みたいな感じだな。 「ぼくちゃんの技術力を評価しない会社が間違っているぅぅぅ!!」(©zyzy) という負のオーラがみなぎっている。 好きなプログラミング...

  • 起業しておれを雇え 営業先で相談された内容について熱力学の第二法則に反してるから無理って言ってから何も相談されなくなった人物ぞ

    • 地球以外の空間からエネルギーを確保するっていう発想に至らない無能を雇ってくれる企業はどこにも有らんで。

  • 左派反体制運動を批判的精神とやら言い替えて正義ぶる輩は学者を名乗るのをやめてくれ。 学者である前に活動家であるとうそぶいて、能力ではなく党派性でポストを得たりしているか...

  • 大学の研究も結論ありきで進めるとこはある。そうでないところもある。 同様に企業もきっと色々だとは思う。しらんけど。

  • オイオイオイ弊社だわこいつ 民間企業は確かに真理ではなく利益を追求しているし,高価なゼネラリストがスペシャリストを買い叩いてるとも思う.

  • オイオイオイ弊社だわこいつ 民間企業は確かに真理ではなく利益を追求しているし,高価なゼネラリストがスペシャリストを買い叩いてるとも思う. 「常識を疑うこと」や「新しい仮...

  • 民間で役立つスキルを大学で教えろ、てのは、論理的思考の訓練とツールの使い方を教えてやってくれ、ということ。 それを自身でも習得していない教員も多いけどね。 教員の思想信条...

  • ピーター・ティール(PayPalの創業者)がルネ・ジラールの門下だったりするんだけど、社会学系って売りにならないもんなの? 大企業は無理だと思うけど、ベンチャー(それなりにトッ...

  • それな〜〜僕はバリバリ人文系の修士からマスコミに就職した者なんだけど 研究の内容とはあんま関係ないことやってるよ。新聞の記事書いてる 記事も、読みやすさのために取捨選択を...

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