id:eerga 僕の頭が悪いせいなのか、どうも論点が違う(すり替わっている)気がする。もともとは電子書籍を同じクオリティで出し続けろっていう主張ではなく、電子書籍で(も)出版しろっていう主張だったのでは?
id:Kil 「紙をやめて電子に置き換えろ」でなく、「紙と電子、自分の好きな方を選べる権利をもっと広く多くくれ。そして読者を対等に扱ってくれ」と言いたいだけなんだけどね。前者を主張する人もいて混ざるから荒れるけど。
id:kagerou_ts 「熱心な読者」向けの商売をしすぎたからこうなったのだ、といいたいのかなと思うど、それならその 「熱心な読者」のほうにむしろ超絶望まれてるっぽい電子書籍に全力フルコミットしてくれてもよくないです?
いまのところ、電子書籍市場の大きさは紙の書籍の市場の1/10以下で、電子書籍の設備投資イニシャルコストを、電子書籍の利益は全くまかなえてないよ。おおげさに言えば、電子書籍部門は、紙の書籍部門の利益を食ってるんだよ。もちろん細部は、出版ジャンルや出版社によってちがいはあるよ。でも、マクロ視点で言えば、そうなんだよ。
電子書籍市場は成長中だし、未来への投資だろ? という言説は、たしかにあるよ。それには一定の説得力が有る。でも、だとするならば「電子書籍専門の出版社を立ち上げて銀行から融資を受けて運営すればいい」んだよ。社内の別部門(紙の書籍部門)の利益をもちいて新事業を始めているってのは、これと構造はほぼ一緒なんだよ。「社内だから(融資相当の)経営資源投入の稟議が、銀行からの融資引き出しよりも、ゆるい」って言うだけのことなんだよ。「ゆるくないと電子書籍の推進が出来ない」ということでもある。
出版社がやる場合、原稿と著作者っていうリソースを共用できてシナジーが得られる(ことになってる)から、緩めの稟議でも推進できる。でも、じゃあ、現状、電子出版部門の利益で「作者の発掘」「企画の立ち上げ、進行」「取材や著者との企画協力」「原稿の進捗管理」「各種素材の入手管理」「紙面デザイン」「広報」「メディアミックスなどのIP管理」ができるのか? そのスタッフの人件費払えるのか? と問えばそれはNoだよ。
読者は無責任に「電子書籍を読む権利をよこせ」とか言うし、単体著者視点では「ボクの本は両方ででてますし、電子書籍と紙の間に対立はありませんよ」とか言うかもしれないけれど、内部の経営リソースの分配という意味合いにおいて、現在は明確に電子書籍と紙の書籍は、対立するものだよ。対立っていうか「少なくとも現時点、電子書籍は紙の書籍の利益やスタッフに寄生している」よ。
当然、利益が拡大しないまま電子書籍を増やすっていうのは、紙の書籍の利益を圧迫するっていう意味で、紙の書籍に悪影響を与えるよ。紙の書籍の利益構造っていうのはもうガチガチに決まっている。印税も%減らすことは出来ないし、印刷も枯れた技術なので旧に値段が下がったりはしない。つまり、利益が圧迫されれば、企画そのものが扇情的になって内容のない本が増えたり、単価が上がったり、出版点数が減ったり、地方への配本が切り捨てられたりするよ。
そもそも、「ある書籍の読者が2万人」いたとして、これにたいして電子書籍を推進して「紙の書籍読者1万5千人+電子書籍の読者5千人」になったとする。単価的にも、利益率的にも、こうなったとしても現在、ちっとも売上増えてないよ。読者が増えないのだとすれば、電子書籍のインフラを作り上げて維持するのは、ただの重荷でしかないっよ。2万人の読者を支えるにあたるコストがただ単純に増大するという、経営視点で見たら愚かな判断だよ。電子書籍は非常に利益率が高いとか(そんなことは現在全くない)、電子書籍版を出すことにより既存読者の外に読者の母数がすごく広がるとか(そんなことは現在全くない)しない限り、「電子書籍化を超加速する」っていうのは、下手をすると利益背任ですらあるかもしれないよ。
もちろん長期的に見れば電子書籍の市場は無視できないよ。電子書籍の配本システム構築のコストも、長い目で見れば(そして理屈で言えば)、1冊あたりの負担率が低くなるはずだよ。だからいま、大手はどこも、利益が早期に回収できそうなコミックとか技術書を切り口にして、少しずつ電子書籍対応を進めているよ。短期的な損失を我慢しつつ、投資しているよ。
でもその状態に対して「紙の書籍と電子書籍のどちらかを選ぶ権利を広くくれ」とか「全部電子書籍で出せないのは無能」とかいうのは、いまこの時点では、ただのモンスターユーザーだと思うよ。
電子書籍への移行がいまのペースなのはなにも手抜きでもないし陰謀が有るからでもなく、既存の出版の多様性やらノウハウを守りながらソフトランディングしようとしているからだよ。
(だから、作家やIPを抱えていない非出版社のほうが、ためらいなく新規事業展開できるわけで、非出版社や新興企業、Amazonなんかのほうが強気に改革できるのはごくごく当たり前なんだよ。そっちを応援したほうが、日本全体の出版業界刷新は早くなると思うよ)
もちろんそれも含めてただの利益追求企業活動なんで、ぶっ壊れちまえ、Amazonに滅ぼされちまえって消費者が判断し、そういう行動をするのはありなんだけど、現在の出版状況が「消費者がどんなにわがままを言ってもぶっ叩いても壊れない、天与の権利」だなんてのは錯覚にすぎないよ。
id:YaSuYuKi 「音楽業界が衰退していく様相を、再生装置の技術的制約から10年以上余裕を持って観察し対応する余裕があったのに、そっくり同じ失敗を繰り返しているのはなぜか」という問には答えられていない
この手の疑問、よくあるんですけど、この国ってバブルの頃から少子化が予言されてきて、年金破綻も十年以上前には予言されてて、それでもろくな対策取れてないよね? 政治批判でも出版社擁護でもなく、なにがいいたいかって言うと「それって疑問に思うほど特別じゃない、この国によくある普通に愚かな光景じゃないですか?」ってこと。出版業界を神聖視しすぎだなって思うのはこういうところで、普通の日本の平均にふさわしく愚かな業界なんだよ。
悠長なことしてるからamazonに負けるんだよ