市民、あなたはコンピューター様について何か誤解をされているようです。
パラノイアは1984年に発売された、冷戦下の赤狩りを皮肉るブラックユーモアに溢れたTRPGです。
舞台となるアルファ・コンプレックスは、サンフランシスコ地下にあるコンピューターの制御するシェルター都市である。小惑星の地球への衝突によりネットワークから孤立した各都市のコンピューターは、断片的な情報から共産主義国家の核攻撃中にあると誤認。結果、すべての都市は共産主義者に制圧され自都市だけが正常に営まれていると結論するに到った。以後数百年に渡ってコンピューターは「共産主義の攻撃」と「汚染」から市民を守護するという妄想を達成すべく、都市の人類が外に出られないように隔離し、独裁的・専制的・全体主義的な支配を行っている(ちなみに、XPの時点ではコンピューター歴214年である)。人類の自由を奪うコンピューターの支配体制は、かつてのアメリカが持っていた妄想的な「悪の共産圏国家」のイメージそのものである。共産主義者の攻撃から守るという名目で共産主義的な社会を作り出すというのは大きな矛盾なのだが、コンピューターはすでに狂ってしまっているのでそのことには気づけていない。
つまり、パラノイアでは市民は狂ったコンピュータ様の支配の下、特に存在しない脅威と戦い、どうでもよいミッションを遂行しつつ、適当な人を反逆者として今日も粛清しているのです。(ZAP! ZAP!)
アルファコンプレックスではこのような状況が長く続いたため、科学技術も衰退しきっています。
車に乗れば走っている間にタイヤが外れ、エレベーターに乗れば落下をし、銃を撃てば暴発します。
プレイヤーはみな疑心暗鬼です。理不尽なミッションを遂行するふりをしながらお互いに監視をしあい、隙あらば反逆者として仲間を処刑しようとします。
なかなか狂っていますね。でもゲームブックはさらに狂っています。
市民はセキュリティクリアランスに従い情報が制限されています。そしてプレイヤーのセキュリティークリアランス 赤(R: レッド)はルールブックを読むことができないのです! プレイヤーはわけもわからないままアルファコンプレックスに放り込まれまることになります。
ひょっとしたら自分で遊ぶよりも他人が右往左往している姿を見る方が面白いかもしれません。素敵なリプレイを紹介しましょう。
作り込まれたネタと表現力が魅力です。冒頭を抜粋してみます。こんなノリが好きならオススメです。ちなみに太字はプレイヤー名です。
みなさんは、いつものように仕事へ出かける前の朝食をいただくため、食堂に集まっています。
食堂は収容人数3000人ぐらいの、カマボコ型の天井をした、とてつもなく広い体育館のような場所を想像して下さい。
その中央を長いベルトコンベアーが貫いており、その上にはポリカーボネートの皿に乗った灰色のペーストが並んでいます。
直に匂いを嗅ぐと涙が止まらなくなる強い刺激臭と、スチールのスプーンすら溶かす強烈な味がしますが、食べてもすぐには死なない程度の安全性は保証されてい ます。
腹を空かせた市民達は、コンベアーに群がり皿を受け取ると、思い思いのテーブルについて食事を始めます。
食べ慣れていない市民などはスプーンをペーストに長く漬けていたため、スプーンを溶かしてしまうなどといった粗相をするものもいましたが、食事はおおむ ね……失礼しました、完璧に幸福に進んでいきます。
STAR-R:いやぁ、コンピューターのくださるお食事はいつ食べても美味しいですね~
Rese-R:当然だね。疑いようもなく、我々は幸福だ。
食堂には、より幸福に食事を楽しめるよう、娯楽としてテレビまで用意されています。
Rese-R:それにしても、いったいどんな番組が流されているのだろう?
ちょうど食事時の人気番組である「電子顕微鏡の世界」というのが放映されています。
この番組は、様々な金属の電子顕微鏡の映像を延々と流し続けるというもので……ちなみに、今日のテーマはベリリウム(原子番号 4 の元素。記号Be 原子量 9.013)です。
Rese-R:いよいよ、明日は「ホウ素」か、いゃあ~、楽しみだなぁ!!
STAR-R:まったくです。こいつぁ目が離せませんね。
(注: 本来の名前表示は「個人名」-「クリアランスイニシャル」-「ホームセクター」-「クローンナンバー」でしたが、読みやすさのため「個人名」-「クリアランスイニシャル」に変更しました)
雰囲気が伝わったでしょうか。