2XXX年、国体の破壊を望む海外勢力の陰謀により日本は天皇制を廃し陛下は庶民となった。
陛下は荒れた。荒んだ陛下は卑しい身分に相応しい趣味を求め、また庶民の娯楽として前々から興味のあったパチンコ屋に足を踏み入れた。
陛下は勝った。1万円が10万円となった。陛下の心は踊った。今までに得たことのない高揚感。高い射幸性。陛下はパチンコにハマった。
パチンコを打っているとき陛下の心は幸福で満たされた。しかし、それは長くは続かなかった。
陛下は多大な借金を抱え、パチンコはおろか日々の生活を送ることもままならなくなったのである。そして陛下の行方を知るものは誰もいなくなった。
こうして海外勢力の野望は達成された...かのように思えたがここは思考実験、3XXX年の科学者によってタイムマシンは完成され、過去に干渉することが可能となった。
天皇制を廃止することを防ぐことは出来なかったがパチンコを規制することに成功した。
こうして一般庶民がパチンコに足を踏み入れることは容易ではなくなり、陛下がパチンコにハマる過去は回避された。
ちなみにパチンコを廃止ではなく規制にとどまったのは政治家たちの次のような主張が国民に支持されたからだ。
「韓国では国民の民度が低いのでパチンコを禁止することになったが、我々日本人は謙虚で世界で一番賢い民族なのでそんなものは不要なのです。
我々は新しい伝統としてパチンコ文化を守ろうではありませんか。韓国には文化はないが、我々には文化がある。」
この政治家にはパチンコ業界から多大な献金が支払われていたが誰も問題にはしなかった。
心が荒むことなど人間だれしも一度はある。そこから転び落ちることなどただの運のツキに過ぎず、
若いころは道を踏み外しやすいものだ。そう陛下は若かった。陛下はまだ学生なのだ。
陛下は思った。「平民の身になったとはいえ、そこから立身出世していけばよいではないか。
学生に相応しく学問を修め、ゆくゆくは海外勢力を打ち払い皇室を再興すればよいではないか」
陛下は新しい道を定め、前向きに生きていくことを決めたが一つ問題があった。
陛下は学費を納めなくてはならなかった。陛下には学費を頼れるものはなく、
また奨学金で自己破産する学生を知っていたのでアルバイトをして自分で稼ぐことに決めた。
陛下は庶民の生き方に触れるべく、日本人の王道バイト、飲食店、それも全国的にチェーン展開されている居酒屋店で働くことに決めた。
陛下の毎日は輝いた。バイト仲間と共に夢を語り合い、労働に勤しむ日々。
「ありがとうをたくさん集めよう。お客様へのおもてなしの心で日本を元気にする。」
この企業理念に陛下の心は熱くなった。営業開始前の朝礼では人一倍大きな声でこの企業理念を叫んだ。
陛下の心は幸福で満たされた。しかし、それは長くは続かなかった。
長時間労働に強制出勤、いつしか学業はおろそかになり、遂には大学を辞めた。
明るく元気に振舞っていた陛下もいつしか目に輝きは失われ、仕事でのミスも増えた。
ミスで発生した費用は全て陛下のバイト代から引かれた。そしてある日を境に居酒屋にも現れなくなった。
こうして海外勢力の野望は達成された...かのように思えたがここは思考実験、以下省略。
ブラック企業の経営者は逮捕され、懲役刑を受けるようになった。教育費は全て無料となり、学生には幾ばくかの生活費も支給されるようになった。
陛下は優秀な成績で大学を卒業し、日本を代表する大手家電メーカーに就職が決まった。
陛下は思った。「観光立国など、所詮海外勢力によるまやかし、真の日本の強みは技術立国にある。観光立国は技術力衰退から国民の目を欺く誠に亡国の道なり」
陛下は働いた。伝統的日本企業の硬直的な組織に苦しみながらも、日本人の心を打つヒット商品を産み出した。それは機能の少ない、使いやすいおしゃれな家電である。
陛下は次は世界市場に打ち勝つ企画を通すため、これをきっかけに出世することを望んだ。
「待っておれ、朝敵〇ップル、サムス〇、日本人の心をたぶらかす不届き者め、討つべし」
しかし、陛下が出世することはなかった。同期が順調に出世する中、若くして功績を挙げた陛下は疎まれ、総務部に移動となり、いつしか陛下は会社に出社しなくなった。
陛下は海外に移住することを決めたのである。こればかりは未来の科学者によっても変えることができなかった。
海外に旅立つ飛行機の中で陛下は思った。「もはや国に縛られる時代ではない、自分の生きる社会は自分の意志で決めていいのである。
伝統ある美しい我が国を離れるのは寂しいが、我が国と同様に大学までの教育費が無料で、ブラック企業経営者は逮捕される国で働こう。
私の子供は意志が強いとも限らないのでギャンブルが規制され、再チャレンジのしやすい、社会保障の手厚い国で生きよう。
そして、なにより女性の社会進出が許された社会で皇室の復活を果たすのである」
ギャンブルで身を壊すのも大学に通えないのもそれらは全て個人の責任でしょうか?
陛下がもし何の後ろ盾のない一般庶民として生きることになった場合、この国は陛下が安心して生きることのできる社会でしょうか?