私はこの日、その場所に向かうために徒歩を選択したこととても後悔していた
流れゆく汗は私の視界を奪い、それを抑えるためにコンビニでポケットティッシュを買ったほどだ
それでも時間には少し早く到着してしまったため、一度ゲームセンターに赴き、「機動戦士ガンダムエクストリームバーサス」をプレイする
……メイン横特射特射後BD格闘CSメイン、そんな単純コンボさえもう当たらないこのゲームを私がいまだにやる意味があるのだろうか、そんなことを考えながらいつもプレイする
せっかくだから追加された特格のアシストも使ったり、もうちょっと下サブのフィンファンネルバリアをうまく扱えればよいのだが、私の脳では、もはや無理だ
この向かっている間にも燦燦と照り付ける太陽がにくましい
ラブホに入り、受付で部屋を用意してもらう
受付のお姉さんが安い部屋と高い部屋のどちらにするかと訊いてくる
200円ほどしか違いがない、それなら別に高いほうを選んでもよいだろう
適当に会計を済ませ、部屋の鍵とレディース用のポイントカードを貰って部屋に向かい、お店へ電話する
このままの恰好でお会いしてもよいだろうか
この二の腕のムチムチ感はいつになったら消えるのだろうか、はたまた消えるようなことはあるのだろうか
部屋にファミマの入店音が鳴る、どうやら女性が到着されたようだ
私は部屋の鍵を外し、扉を開ける
「こんにちは」
その女性は、ひどく驚いた顔をして言う
「え、女性の方ですよね……?」
この最初の反応も、私はもう慣れている
あえて作った、輪るピングドラムの渡瀬眞悧のようなテイストの声で返す
その方が、シビレるだろう?
「あ、なるほど……」と言ったような顔をし、そのままその女性は部屋に入ってくる
そして、他愛のない会話が始まる
私が昔ニューハーフヘルスの嬢だったことも話したし、私の肌がきれいと褒められたり
少なくとも私は能動的にそのような情報を取り入れに行ったりはしないが、他人からそういう情報を取り入れて、自分の中でアッセンブルしていく……
そういったインプットからアウトプットまでの一連の行為が好きだ
「今日、どうなさいます?こんな風にしゃべって終わりにします?」
女性がそう尋ねる
私は正直、こんな風にダベって終わりでもよかった
私は、弱い
「はい」
私はその辺はどうでもよかった
「それにしても本当に綺麗ですね」
この女性、いろいろと褒めてくれる
正直、照れる
「でも、二の腕とかもうプロレスラーみたいになってしまっていて、どうにかしようと、今ダイエットしているんですよ」
そんな話をすると、いろいろとダイエットと美容の知識を授けてくれた
それがしんどいなら、「オートファジー(16時間断食ダイエット)」をすること
アトピー性皮膚炎がひどいなら、小麦のようなグルテン性の食べ物よりも、白米を食べること
どれもすべて、わかっている
わかっているけど、改めて指摘されると、そんなこともできていないんだなぁという気持ちになる
私は、弱い
一緒にお風呂に入る
さすがに二人並んで入るには狭いお風呂だったので、私が下で、女性が上になる
きっと、寒かっただろう、なるべくお湯をかけてあげる
ひとしきり湯舟に浸かったあと、洗体に入る
洗体とは重要だ、その人の性感帯を簡単にチェックすることができるし、使用することになるであろう性器そのものにケガなどがないかをチェックできるためだ
少なくとも私はそう教えられてきたし、彼女もまた、おそらくそれにならって洗体している
一つずつ、その灯りを落とす照明たち
私は行為中、何度も女性に「これして大丈夫ですか?」「痛くないですか?」と確認していた
とうとう、それにその女性が笑い出した
私もそれにつられて笑ってしまったが、そのまま行為を続けていく
女性が達した後、こんなことを言われた
「あなたは優しいから、人以上の気配りをしようとしてしまう、それがあなたのつらさの原因じゃないの?」
そう言われてハッとした
私は表面上でしか優しくないのだと思っていた
だから、私の手のひらは焼けるように熱いのだと
そして、私は、やはり達することができなかった
今に始まったことじゃなくって、男性相手でも女性相手でも、達したことはほとんどない
それについては諦めていた
私は、ハグさえあれば、ほんとうはそれでよかったのだ
終了の電話が鳴る
気の毒なように私を見る女性
でも、私は主目的を達成できたので、もはやそれについてはどうでもよかった
ラブホを一緒に出て、先ほどのダイエットの話の確認と、今晩の鬼退治アニメの特集の話をして、別れた
私はもう一度、この女性の時間を買うことができるだろうか、そんなことを考えながら私は家路についた
私は俗にいうスケベの部類だと思う
主原因は父親にある、と私は思っている
朝起きてリビングに行けばテレビではAVが流れていたし、それを勝手に止めると父親が何を言うかがわからなかったため、そのままにして朝食を摂ることもしばしばだった
だから、父親と同じ巨乳女性に性的趣向を持ったし、しかし一方で、ち〇この大きい、細マッチョな男性にも惹かれた
そんな妹のことを、両親は厚く応援した
私に渡された昼食が、500円玉だけのこともあった
妹が旅行に行くといえば両親はついていき、私がペットとの留守番を行うだけの日もあった
父方の祖父母の元から離れて引っ越しをした後、それらは顕著になった
もしかしたらこのころからかもしれない、私が女性であればと強く思うようになったのは
破綻した夫婦関係も、もしかしたら私が父親とヤれば、なんとかなったかもしれないとさえ思った
私はいつのころからか、他人を抱きしめ、抱きしめ返されないと心が疲れるようになってしまった
今、確信をもって言うとすれば、私は両親からそれをして欲しかったのだと考える
でも、私にはそんな両親はもうどこにもいない
私はこのハグを無償で受けられるようになるまで、きっと月一程度で今回のようなことを繰り返すのだろうと思う
私は、弱い
ハグだけで癒されることもあるよね あなたが求めるハグが得られることを祈ります