いわゆる陰キャの私は恋愛というものに縁がなく彼氏いない歴=年齢。
恋をしたこともなければ憧れや興味もなく、友達も片手で足りるほどの人数。
幼稚園〜中学卒業までは幼なじみとべったりで、彼女と進路が分かれてからは一人の期間を経て、その後は趣味での友人数人とべったり過ごした。そういう学生時代を送ってきた。
とにかくコミュニケーションというものの経験値が圧倒的に足りていないのだ。
常に一人か数人のコミュニティに引きこもり、クラスの輪に溶け込んだり男女混合でワイワイするグループに属した経験がまるでない。
そんな私が23で入った職場は男女の数が半々くらいかつあけすけな感じの方が多い、ハッキリ言えば性的な下ネタなんかがウケるところだった。こう言ってはなんだがギャルやヤンキーのグループのようだ。
もちろんそんな人ばかりではなかったけど、私とは正反対の学生時代を送ってきたであろう人が多かった。
そんな学生時代は避けてきたような人たちが多い職場、けど雰囲気がよいと感じたのだ。
みんな明るくて気さくに声をかけあっていて、人間関係のいいところなんだろうなと思った。
私は馴染もうとした。社会人としてちゃんとやっていかなくちゃと思っていた。
最初の挨拶から根暗丸出しだったし、会話の中で今すごくぎこちないだろうなという自覚もあったけど、自分もみんなと良い関係を築きたかった。
そのためにはみんなと楽しくお話できないと、とあまり得意でない(というかわからない)下ネタも笑顔で聞いた。
けっこう人数の多いところだったけど特徴を覚えて早く顔を覚えたり、挨拶は欠かさず、わからないところは積極的に質問した。早く仕事を覚える、覚えようとするのが一番好印象につながると思った。
それなりに仕事ができるようになり、夜勤がつけられるようになった。
男女問わず、夜勤明けで一緒にラーメンを食べに行ってきたんだ、なんて話もよく聞いた。
ある日の夜勤中、男性の先輩とスイーツの話で盛り上がったのだ。
先輩はなかなかにガタイのいい人だったが酒もタバコも体質的にダメで、スイーツが好きということでよく「ギャップがすごい」とからかわれていた。
その先輩に、今度の夜勤明けに一緒にパンケーキを食べに行かないかと誘われた。ガタイのいい男ひとりでは入りづらいと。
先輩は既婚であったが夫婦ともにシフト勤務でなかなか休みが合いづらく、食べたいパンケーキは期間限定のもの。しかも奥さんは甘いものが苦手らしい。
既婚者ということで私は少し迷ったが、他の既婚の先輩達も男女でラーメンを食べに行っているし、と思って了承した。
今ならわかる。私が悪い。昼間だろうがファミレスだろうが既婚の異性と二人きりで出掛けるのは絶対にダメだ。
しかしこのときの私は周りの環境もあってこれを「職場の人とのコミュケーションの一環」と捉えてしまっていた。
みんながやっている「夜勤明けに食事に繰り出す」というやりとりに混ぜてもらえたことで、自分も職場の一員として認められたんだという気持ちがあった。
陰キャがリア充グループに入れてもらったような錯覚を覚えたのかもしれない。
夜勤明けに先輩と待ち合わせ、先輩の車でショッピングモール内のファミレスを訪れた。(地方なので基本的に移動手段は車だった)
私は幼い頃から車酔いがひどく、車に関しては友達の車でも酔わないか汚さないかと気が気でないので先輩の車なんてすごく緊張した。緊張しすぎて酔わなかった。
自分の分を払おうとすると先輩が奢ってくれたが、私はそういうことは全く慣れていないので嬉しいより申し訳なさや落ち着かなさが勝った。
その後、モールを見て回ろうかと言われ少し歩いたがお互いの趣味も何も知らないし、私に会話を広げる能力がないので全く盛り上がらず、結局車へ戻った。
この時点で業務外で職場の人と会うのは私にはまだ早かったと後悔し始めていた。
しかし先輩はなかなか発進しようとしない。
乗せてもらっている身分で早くいきましょうよ、なんて言えるわけがない私は今日何度目かわからない「ありがとうございました」と口にしたが先輩は何か考えるように「うん、うん」と頷くだけで発進しなかった。
怒っているわけではないが、何か先輩の様子が変なのはさすがに私にもわかった。けどどうしていいのかわからない。
何も言えない私の方を向いて、先輩は
「…キスする?」
と言った。
ごめんなさい、本当にこのときのことは今思い出しても気持ち悪くて仕方ない。
助手席に乗って、一緒に食事までしておいて今更って言われるかもしれないけど、私は本当にそんなつもりなかったしこの瞬間まで思いつきもしなかった。
垢抜けない田舎の芋娘で貧乳なくせに痩せてるわけでもなく、話も面白くない根暗陰キャだ。そういうことは自分に無縁だと思っていた(なんなら今も「恋愛」を自分に関連づけることができない)
このとき初めて自分の判断ミスに気付いたし、なんてことをしたんだと過去の自分をめちゃくちゃにしたかった。
同時に、先輩は自分を仕事仲間と認めてくれたわけじゃなかったんだと思い悲しかった。
混乱しながらも「え?」「それはないです」「無理です」と頑なに拒否すると、先輩は無理強いする人ではなかったようで諦めたように車を発進させた。
もしかしたら私が強く断ったことに少し驚いていたかもしれない。職場での私は基本的にイエスマンだった。
役に立って認められたくて、私にできることであれば基本的に引き受けていた。
後から考えれば、職場までわかってる相手に無理やりそこまでしたら後がヤバいし…と思ったけどそのときはそこまで考えつかなかった。
発進されてから、言われたときすぐに車を降りるべきだったとまた後悔したけどもう遅いし、そもそも自分に落ち度があるし、自分の馬鹿さ加減とか色々とショックで何も言えなくて、ケータイだけは握りしめたまま黙って座っていた。
先輩は「みんなには内緒にして、俺も言わないから」と言っていた。
その後もメッセージでまた食事の誘いがあったけど予定があるとか言って断っているうちに来なくなった。
ロクにコミュニティに属せずに成長してきたせいで、盛大な勘違いと変な承認欲求が生まれてとんでもない間違いを犯すところだった。
ハッキリ拒否することだけは間違えなくて本当によかった。
人と関わってこなかったから人の悪意にも鈍感
なのか、いい雰囲気と思っていた職場の人間関係も本当はいろいろあったことが後に判明したし、私が気付いていなかっただけで周囲の人から見たらいじめられてる?とか嫌味言われてる?ってこともあったらしい。
鈍すぎて自分に呆れるけど気にして病むよりは良かったんだと思うことにしている。
あれから10年近く経って、結婚や出産を経た友達は疎遠になったりしてますます一人に拍車がかかっている。彼氏も相変わらず、いない歴=年齢の記録を更新中だ。
一度一人暮らしを始めたらもう家族との同居すら無理になって、昔から一人が苦なタイプじゃなかったけどこんなになるなんて思わなかった。
思い返すと、役に立たなきゃとか当時の私の自己肯定感とかにもすごく問題がある気がしているけど、今のところ趣味を楽しみつつ元気に気楽に生きている。
増田が男だと思って読み進めてたら急展開にビビった なんだよ先輩ノーマルじゃねえか
女って女だから優遇されているということに鈍感だよね