2022-08-24

バイト日記

 もっと稼ぎたいと思って掛け持ちでバイトをしようかと思い、良さげなバイトを探し当てて面接に行ってきたが、今以上に労働時間収入を増やす税金保険料負担ばかり大きくなって掛け持ちする意味がなくなるという事に、面接担当者の話を聴いているうちに気づいた。掛け持ちするという選択肢求職三日目でなくなった。

 こうなったら、当店のオーナーにおねだりをしてシフトを増やして貰うしかない。だが、人手が足りていない時間帯は早朝と夜勤で、それ以外の時間帯となるとバイト仲間達との競合になってしまうので、迂闊にお願いすると面倒な事になりそう。というか、それがバイトを掛け持ちしようという発想の元だったんだけどな。ぐるりと一周回って元の位置に戻ってきただけやんけ。

 最近人手不足を補う為に、オーナーコンビニ専門派遣社員を雇っている。シフト表は、従業員ごとに別々の色で塗られているのだが、派遣の人は全員同じ色だ。今週のシフト表は3分の1くらいが派遣色で塗られている。人手の足りない時間帯がどんだけ多いかがわかる。そこのどこかに私の食い込める余地はないだろうか……。

 女子フリーターアルバイトさんが遂にガールズバーをメインの労働先にしてしまったので、彼女はもう週に一回しかシフトに入らないレアキャラと化してしまった。彼女目当てで来ていたおじさんお兄さんなお客様達は寂しそうだ。

 女子フリーターアルバイトさんが居れば私のレジには並ばないお客様が、私に話しかけてきた。

今日のお昼くらいに、役場んとこのATMにいたよね?」

 確かに居ました。見られていたなんて、全然気づかなかったぁ……。でも、その時の私は履歴書に貼る写真を撮りに行ったときかその帰りかのどちらかだったので、珍しく昼間っから化粧をしていたから、ヨボヨボの素顔を見られずに済んでラッキーだったと思えばいいのか、それとも、きっちりメイクしていたからこそ、そこに居たのが私だと気づかれたので不運だったと思えばいいのか、よくわからない。

 ところで、履歴書写真を撮るのは四年ぶりくらいだったのだが、最近撮影マシンは性能がいいので、実物の私は目の下にコンシーラーでも隠せないほどの黒々とした隈があるのにもかかわらず、証明写真の私は輝く美肌に写っていて、やたら若々しい。四年前に使い残した履歴書用紙といっしょに四年前の証明写真も保存してあったので、それと今の写真とを較べてみたが、あまり変わっていないように見えるので、ニヤニヤしてしまった。

 ただ、昔と今とで大きく変わったところが一つだけあって、それは姿勢だ。四年前に証明写真を撮る時にはちょっと苦労したのを今でも覚えている。姿勢を真っ直ぐ伸ばしたつもりで撮影機の前に座っても、首が向かって左に傾くのだ。肩の高さも、水平に水平にと意識しても、どうしても左に下がった。多分、それまでの数年を子育てに専念していて運動不足だったから、背筋の筋力がなくなって姿勢を真っ直ぐに保てなかったのだと思う。コンビニバイトを始めてから丸四年と三ヶ月ほどで、自分で気づかないうちに筋力が戻ったのだろう。それなのに最近私自身は「最近運動不足な気がするなー」と自覚していたのが我ながら面白い合法的身体を動かしたいからと、掛け持ちバイト候補ホテルの客室清掃を選んだほどだったのに、実際はコンビニ業務だけでけっこうな運動になっているのだ。

 

 昨日は新人男子高校生アルバイトさんのトレーニングが入っていた。私はオーナーから新人男子高校生さんにカフェマシン掃除の仕方を仰せつかった。新人男子高校生さんは真面目な人で、私の説明を良く聴いて作業をしていた。私と高校生だともはや親子ほどの歳の差がある。これくらい年の差が開いていると、相手キャラにもよるだろうけど、作業の仕方を教えるのに自分自身が若かった昔ほどは困難を感じない。相手が一々感情的に突っかかったり隙あらばマウントを取って来ようとしないからだ。それは、こちらがずっと年上の大人からというだけで相手が私を過剰に畏れたり無条件に信用していたりするからだとも言える。若い新人バイト人達にとっては、ともすれば社会に出て一番最初出会った大人達の中でも最も身近な存在がこの私だったりする。だから私は私のせいで変に大人社会に対して不信感を覚えたりされないように気をつけないとなあと思う。たかコンビニバイトだけどされどコンビニバイトというか。自分若い頃の事を思い出せば、バイトを通して出会った大人人生への希望絶望度合いを深めたり軽減したりする一因であったのは確かだと思うし。

 新人高校生バイトさんが上がった後は新人高専五年生とのシフト新人高専五年生はオーナーサポート無しでシフトに入るのは三回目だそうで、まだ不安はあるといいつつも仕事の流れはほぼ覚えて、まだ不慣れさは残るものちゃん仕事をこなせていた。オーナーがそれでもまだ不安だというので、私はサポートの為に三十分残業

 レジ接客をしていた高専五年生が困った顔で私に質問をしてきた。お客様が支払いにPayPayと現金を併用したいというのだが、どうしたらいいのか? という。PayPay等のバーコード決済とその他の支払い方法は併用出来ないというのは私ども店員には常識なのだが、それをお客様にそのまま伝えるのは悪手だ。なので、私は高専五年生のレジに行って何も知らないかのようにサクッとお客様差し出したバーコードスキャンして、

申し訳ございません。レジディスプレイバーコードを受け付けられませんと出ているので、他のお支払い方法でお願いします」

 と言った。こういう時はとりあえずやってみて、レジダメだと言ったかダメだと申し上げるのに限る。お客様要求を頭から否定すると、逆上される事があるからだ。揉め事になる時はたいてい、お客様は「いや、他の店では出来た!」と言って来るけれど、それは勘違いか嘘であり、お客様本人も自分おかしな事を言っている自覚が大なり小なりあるので、かえって自分こそが正しいと主張しようとする。そうなると、時にはオーナー本部お客様相談窓口などに苦情を入れられるレベルトラブルになる。そんな事を、お客様が帰った後に高専五年生に話した。

 22時を過ぎると来客がほとんどなくなり、喋る暇が少しはあった。高専五年生さんは早く夜勤ベテランAさんみたいに仕事ができるようになりたいというけど、それはすぐには出来ないことだから気にしなくて大丈夫だと私は言った。バイト歴の長い人は皆完璧超人に見えるけど、そうなるまでに何年もかかっていて、それが普通なのだ。(しかし、実はAさんは仕事をさっさと片付けるための悪い裏技を山程知っていて実践しているか仕事が早く見えるのだ、ということは、さすがに言わなかった)

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