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2021-07-01

ツール・ド・フランスについて少し書く

(7/2 再追記しました)

先日からこんなブクマが次々とホッテントリに入って戸惑っています

ツール・ド・フランス、クソ観客のせいで大規模落車 - Togetter

https://b.hatena.ne.jp/entry/s/www.afpbb.com/articles/-/3354342

ツール開幕ステージで大クラッシュ主催者は観客訴える意向 写真7枚 国際ニュースAFPBB News

https://b.hatena.ne.jp/entry/s/www.afpbb.com/articles/-/3353664

ツールの大クラッシュ、原因つくった観客逮捕 写真13枚 国際ニュースAFPBB News

https://b.hatena.ne.jp/entry/s/www.afpbb.com/articles/-/3354342

まり熱心とは言えないけれどNHK BS時代から30年近くツール・ド・フランス(TDF)をテレビ観戦しているいちファンとして、こういうかたちでTDFが俎上にのぼるのはあまりうれしいこととは言えないし、寄せられたコメントを眺めていて感じるところもあったので、少し思ったことを書こうと思います

 

なぜ観客を柵とかロープとかで規制しないの?

もっとも多い疑問がこれでした。無理もないと思います

古代マケドニア歩兵みたいに密集して50km/h以上のスピードで驀進してくる集団を、手を伸ばせば触れる位置一般観客が観戦できるというのは、あらためて考えるとかなり異様な光景ですよね……。

ロードレース距離

なぜ観客を柵とかロープとかで規制しないのか、この疑問へのおそらく一番単純な答えは「距離が長いから無理」だと思います

3週間にわたって行われるTDFの各ステージ走行距離は大半が150km~200kmの間です。3週間合わせて、ではないです。1日にそのくらいの距離を走り、それを3週間続けます。最終的に全行程は3,000kmを超えます

TDFに限らず、一般公道で行われる自転車ロードレースは1レース距離が200km前後あります。たとえば、もうすぐ開催される東京五輪自転車ロードレース調布だか府中だかをスタートして、富士山がゴールです。244kmありますコースの左右両側に規制必要ですからロープを張るとしたらその総延長は488kmになりますね。おそらく安全運営にやかまし日本東京五輪でも、全コースロープ規制などしないと思います(つまり東京五輪は、誰でも・タダで・選手に触れる場所で観戦できます!)。

ガードレールなんかほとんどない

どこに行っても車道歩道がきちんとガードレールで分けられた日本道路事情に慣れているとあまりピンと来ないかもしれませんが、ヨーロッパの道(少なくとも自転車レースコースに使われる道)にはガードレールという無粋な調度がほとんどありません。そもそもTDFは「田舎町を出発し田舎道を通って隣の田舎町に到着するのを繰り返してフランス一周する」というコンセプトのレースなので、スタートからゴールまでガードレールというものほとんど目にしない日も多いです。

柵は部分的にはある

コース最初から最後まで野放しというわけではなく、スタート地点やゴール地点、ポイント賞のチェックポイント付近、町中のタイトコーナーなど、選手も客も白熱するエリア走行上の危険があるエリアには鉄柵やバリケードが置かれ、安全対策されます

とは言っても、柵のないところで観たい人はたくさんいるわけです。安全対策の手は及んでいないが勝負が白熱しそうなところ、観戦に慣れているファンたちはそういうポイントに集まります

下り坂の広い一本道なんかは選手たちは80km/hくらいでカッ飛んでいくので、集団は秒で通り過ぎてしまます。そんなところで待っていても面白くないですよね。

逆に、峠道の急勾配では走行スピードが20km/h以下まで落ちるし、勝負のかかった叩き合いになっていることが多いのでお客さんが集まります。そういうところではコース上いっぱいにまで観客があふれ(コースぎわじゃないですよ、コース「内」です)、選手の接近とともにモーゼの十戒みたいに群衆が左右に割れていく光景をよく目にします。「ラルプデュエズ オランダコーナー」などで画像検索していただくと雰囲気がわかるかと思います

とにかく選手と客が「近い」競技

距離が近いだけでなく、選手と観客の関係性もほかの競技からするとびっくりするくらい近いのが自転車ロードレースです。

上り坂でへたばりかけている下位の選手を観客が手で押してやったり(審判団は見て見ぬ振りをするのが普通)、転んだ選手を観客が介抱したり転がったマシンを脇にどけたり、沿道の客が差し出す水のボトル選手が受け取ったり(何が入っているかからないので飲んだりはしない・身体にかけて冷却に利用する)。

このように、勝敗に直接関わらないようなかたちで観客がレースある意味「関与」することは当然のように行われてきましたし、その関係性は100年以上かけて育んできたサイクルロードレース文化の一部と言えます

後を絶たない観客との接触事故

件のプラカードガールは訴追されることになりましたが、大会運営がこのように厳しい措置をとるのは珍しいことです。長く観戦していますが、初めてのことかもしれません。

近年、セルフィー撮影するためにコース上に身を乗り出したりカメラ突き出したりして選手接触する事例が目立ち始めて問題視されたりもしていますが、選手と観客が接触するのは(まったく歓迎できない出来事とは言え)TDFでは毎年必ず起こる事故ひとつであり、それを理由に観客を沿道から締め出せとか選手と観客をきっちり隔離しろといった議論にはなっていません。100年かけて育んだレースと観客の関係性にクサビを打ち込むことは選手も望んでいないでしょう。良識ある観戦マナーの周知を徹底する、というのが大会運営基本方針かと思います

しかし多くはない

観客との接触事故は時折起こるものの、落車の原因としてはまれなケースです。大半の落車は普通の原因のアクシデントです。

普通の原因というのは、選手同士の接触です。前輪が前走者の後輪と触れ合って転んだり、ゴールスプリントで絡んだりといったものです。

中でも近年のTDFで増えているのは選手の不注意による落車で、よそ見していてほかの選手とぶつかったり、ほかの選手が投棄したボトルを踏んで転んだりといったものです。ひと昔前はこういったアクシデントは今より少なかったように思いますレースハイレベル化・高速化が進んでリスクが高まっているのかもしれません。

選手たちの抗議行動

第4ステージではスタート後しばらく選手たちがレースをせずにスロー走行デモンストレーションしました。

が、このデモは実はプラカード落車とは関係ありません。選手たちの抗議のメインテーマコース設定の安全性であり、沿道警備の強化ではありませんでした。プラカードの件も少しはあるかもしれませんが比重はかなり小さいと思います

コース設定の安全性というのは、第3ステージではゴール付近コースレイアウトが狭くてカーブが多く、事故を誘発しやすものだったことを指します。ゴール寸前の選手集団制御のきかなくなったオッコトヌシ様のようなもので、そんなものを狭くてくねくねした道に突っ込ませたら何が起こるかわかりません。少なくとも万が一そこで転んでもタイムを失わないような特例を設けよ、というのが彼らの主張です。

大会運営に対して選手たちが一丸となってこのような抗議行動をとることは珍しくなく、私も過去に何度か目にしたことがあります

マフィアに消される? ん?

プラカード女性マフィアからひどい目に遭うのでは、と心配するコメントがいくつもありましたが、いったい誰が言い出したことだろうという感じです。

様々なブックメーカーがTDFを賭けの対象にしているのはきっと事実しょうがマフィアがもしそれに関与しているとしても常識的に考えて胴元の側でしょう。そもそも、3週間にわたって不確定要素が連続し続けるTDFの、それも初日に起きた落車事故で賭けを台無しにされたと腹を立てる人などいるでしょうか? レースは始まったばかりです。これから先にだって何が起こるかわかりません。

そして、ここが大事なところですが、プラカード落車に巻き込まれて転んだうちの一人、ジュリアン・アラフリップはそのステージで優勝しています選手たちがペースを落とし、落車に巻き込まれた人たちを待ったのです。このように、自転車ロードレースでは不測の事故で不平等が起こった時はそれを是正するようにわざと脚を止めてレースを仕切り直すことがよくあります

プラカード落車でリタイヤすることになった選手もいましたが有力選手ではありませんでしたし、後続車に頭を轢かれたトニーマルティンも続くステージを元気に走っています。つまり落車は大規模でしたが、レース全体に及ぼした影響は軽微だったと言えます

というわけで、プラカードガールマフィアに消されるなんて話は噴飯ものの与太話です。

あと、プラカードガール自殺してしまうのではと心配している人がたくさんいることにも驚きました。イマジネーションが豊かなのは結構ですが、そんな微粒子レベル可能性を心配するくらいなら実際に転んで実際の怪我をして実際の痛みを抱えて走ることになった選手たちのほうを思いやってほしいと思います

最後

今年のツール・ド・フランスはまだ2/3ほどの日程を残して開催中です。

アマゾンプライム有料チャンネルやJSPORTSオンデマンドで視聴できます。いずれも登録料は2000円ほどです。

この大会が終わりしだい来日して東京五輪を走る選手もいます

選手には長身痩躯、金髪碧眼の美丈夫も多くいるので女性の方もお楽しみいただけるのではないかと思います

この機会にぜひ。

伝わらないこの思い(追記とも言う)

まり噛み砕いて言えば「伝統」や「文化」だから、どんな危険事態が起ころうと、外野はとやかく言うな、と。甲子園の支持者とかが喜びそうだな。

さっそくこんな頓珍漢なコメントがついてしかもそれに星がつき始めてるのを見ると、自分文章力のなさが本当にイヤになります

沿道をロープ規制しないもっとも単純な理由レース距離にあるとかなり前のほうで書いたのですが、ご理解いただけなかったのはひとえに私の筆力不足です。

私の想像ですが、ロープ程度の規制なら大会運営側もできるだけやりたいと思っているだろうと思います。去年のTDFはコロナ蔓延下での開催だったためそのような措置がとられている区間もありました。が、やはり距離200km、両側の沿道400kmをロープ規制するとなるといささか非現実的です。たとえばモノタロウで売っているトラロープは一巻き50m、約3kgです。400kmの規制をしようとするとこれが8千ロール必要ということです。重さにして24トンです。

文化があるから規制しないのではなく、物理的にそんな規制ができないためにいつしかそういう文化が育まれた、という順番です。

 

ついでなのでもうひとつ疑問にお答えしておきます

スタート直後くらいは規制してもいいんじゃないかな。

問題プラカード落車は198kmのレースの残り45km付近で発生しており、スタート直後ではありません。スタート直後と誤認したコメントをよそでも見ましたが、もしかしたら「ツール・ド・フランス開幕直後」を「スタート直後」と読み間違えているのではないでしょうか。問題出来事は3週間のツアー初日に起きています

なお、スタート地点はたいてい大きな町だしセレモニーなどもあって観客も多いので、バリケード規制があります。が、スタート地点からしばらく集団のんびりとパレード走行をするので、バリケードはあってもなくても基本的にたいした危険はありません。交通整理程度の意味合いです。数キロ走ったあたりで号令がかかり、実際のスタートとなりますフォーメーションラップからローリングスタートみたいなもの、と言えばわかりやすいでしょうか(わかりにくい)。

お礼(7/2 再追記

予想以上に多くの方に読んでもらえたようで光栄です。あたたか感想をたくさんいただき、書いてよかったーと思いました。個人的には徳丸先生Webセキュリティのとても偉い人)から文章をおほめいただいたのが特にうれしかったです。心臓がでんぐり返るかと思った。

私の不徳から批判をいただいた箇所もあり、それらの点については言い訳がましいことは申しません。真摯反省いたします。

中途半端知識でとんでもない勘違い知ったかぶりやらかしていないか心配だったのですが、どうやら今のところそういったツッコミわずかなようで一安心しています

加えて、

抜粋)概ね同意だけど、ちょっと現状追認しすぎじゃない?

抜粋)言いたいことは伝わったけど、じゃぁ今後どうするの?感が拭えないな。

このようなご指摘はごもっともと思います

というか、〈議論スタートラインを揃えるための現状把握〉を目的にまとめた記事なので、そうなるのが当然というか。基本的には、TDFがどんな催しか客観的に知った上で語ってほしい、そのための参考資料ひとつ、という位置付けです。いささか無責任スタンスではありますし、ところどころ私自身の思想漏れ出てしまっているところもありますが……。

そして! 多かったのが! こういう疑問!

抜粋コース半ばでもあんな揃って走ってくることあるんやな…

抜粋)あれだけ団子になってるとスタート直後に思えてしまうんだが

抜粋)てか、150キロほど走ってもあんなに密集してるんだ。

ですよねー不思議ですよねー!(興奮)

マラソンのような個人競技を見慣れていると、200kmも集団がほぐれずに固まったままでいるのは不自然に感じると思います。でも、みんな仲良くサイクリングしているわけではなくて、これにはちゃんとした意味があります。そして、これこそが自転車競技もっとも特徴的なところなんです。

ただ、ここでそれをご説明するには紙幅が足りません。いずれ稿をあらためてサイクルロードレース基本的な仕組みや楽しみどころをご紹介できたらなあと思っています。(誰かが代わりにやってくれてもいいです)

参考

ツール・ド・フランスの楽しさ

https://anond.hatelabo.jp/20210704190113

 
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