2020-09-13

意識の断絶

この増田anond:20200912141626)の批判もっともだと思う一方で、津田氏を少しだけ擁護する。まあ擁護でもないけど。

増田批判は非常に明瞭で、津田氏はこの批判真摯に受け止めるべきだ。だが、いくらその行為が悪意そのものには見えなくても、本人には全く悪意がない(ゆえに悪意あるとの批判に耳を傾けない)可能性は、どんな場合にもあるし今回もまさにそうではないかと思う。本人が耳を傾けないと、批判はその力を大きく削ぐ。批判は正しく届いた方が社会的な益になるし、届かない批判は分断を起こし、それは社会的マイナスだと思うのだ。だから、誰も頼まない調停役を務めようとしている、というのが私の立ち位置である

さて、セクハラという概念がなかった時代上司女性社員の尻を触り放題であった……というと語弊があるが、触ったところで、馘首になるどころか、減給も、厳重注意すらなかった。被害者加害者は同じフロアで同じ立ち位置仕事をし続けた。今では考えられないコンプライアンスであるが、社会的に「そんなのはくだらないこと」という意識が徹底されていれば、それ以上にコストをかける意味がない。もちろん、プライドのある女性社員はこの状況をよしとはしていなかったし、なんなら被害者女性社員に色目を使っている男性社員も、「クソ!部長め!」くらいは思っていただろう。だが、せいぜいそこまでで、その怒りは極めて個人的ものであった。これをレベル1の段階とする。

次に、セクハラと言う概念誕生し広まりかけたころ、変わらず女性社員の尻を触ろうとした部長に対して、若手の係長が「部長、それは『セクハラ』ですよ」とニヤニヤしながら声をかける。部長が「せくはら、かね?」、係長セクシャルハラスメント、略してセクハラです。」、部長「そうかね、なるほど少し控えるか。ワッハッハ」……みたいな時代があったのだ。社会的意識が広まり始めるころ、啓蒙役割を果たす人の仕事というのは、この係長のようなものだった。これをレベル2の段階とする。

そして最後に、完全にセクハラの引き起こす問題(件の女性社員は退社して、意識の高い同業他社転職してバリバリ成果をあげている)が認知された社会、うかつなセクハラを行おうものなら、よくて罰金、降格、左遷、悪ければ馘首まで起こりうる時代。「女性社員の〇〇ちゃんて尻がデカくていいよね」などという発言ですら処分対象になる時代に、あるKKO社員が「〇〇さんいいですよねぇ~」と言ったのに対して、先の係長、今や課長が「●●くん、そんなのを〇〇ちゃんが聞いたら『セクハラです!』って言われるぞ!(ニヤニヤ」と言ったとしよう。その瞬間職場雰囲気が凍りつく。「セクハラ? いや、それほどでは…」「課長それは言い過ぎじゃないっすか」「誰かがいいとかいう程度のことを大騒ぎにするのはちょっと…」これを聞いた課長が焦って「いや、女性のね、容姿を云々したりするのはさあ、仕事には関係ないわけでさあ、だからね、ウン、ぼ、ボクはね、軽~くそれを、し、指摘しようと思っただけでね、いやいやそういう意味じゃなくてね(汗」と釈明する。周囲は呆れたような顔になるが、課長は嘘を吐いているわけではない。彼はただ、以前と同じように振舞ったつもりなのだ。これがレベル3の段階である

何が言いたいか分かっていただけただろうか。現代社会は、増田認識のとおりレベル3の段階である。「この言説はセクハラだ」という指摘は、対象に対して極めて致命的なものにもなりかねない(宇崎ちゃん騒動をはじめそういう事例は枚挙に暇がない)。一方、レベル2の社会係長だった津田氏は、レベル3の段階に意識アップデートできていない(あるいは、普段ならそこまででもないかもしれなくても、レベル2の時代に自ら親しんでいたコンテンツリバイバルという状況の中で、その時代の間隔でつい突っ込みをいれてしまった)だけの課長ポジなのだ津田氏に悪意がなく、かつ、彼の言い訳が嘘ではないとしても、津田氏に問題がないわけではない。だからこれは擁護ではない。ただ、彼の行動が「悪意」に基づくというのは誤認かもしれない。むしろ、そこに「悪意」がある方が問題は単純だ。悪意というのは明るみに出た瞬間に無力化するからだ。それより、本人に100%悪意がなくても、こういうことは起こりうることであり、それだけにこれは解決の難しい問題でもある、ということを指摘しておきたかった。

私の言いたいことはこれくらいである。これは擁護ではない。だが、増田の指摘に対して、異なる視点提示するものである

追記

少しだけ追記しておく。銀英伝そもそも私は見ていないが、そこに現代から見れば『政治的に正しくない』表現が入っていることは、極めてありそうなことである。そして、それをそのまま製作したら『政治的に正しい』を主張する人たちから槍玉に挙げられるという危惧も、決してあり得ない心配ではないだろう。だから私は、津田氏の指摘自体が全くおかしものだったとも思わない。だが、上に挙げたような事情と、また、【ポリコレ棒で人を殴る行為自体問題に疑問の目が向けられつつある現代において、これを身分を明らかにしてTwittrで呟くという行為は、少し不用意であったとは言えるのだろう。もし本当に一ファンとして真摯心配するのなら主催者に直接メールした方がよかったし、なんなら無料匿名を条件に監修を申し出てもよかった。あるいは、もはや銀英伝時代を越え得ない作品なのだ、Not for meなのだ…として黙って立ち去るという手もあった。ただTwitterで呟くというのは悪手だった、ということなのだろう。

あと、「未来を描いた作品なのだから現代価値観で…」云々を言うのは、作者・読者が現代である限り無意味だ。作品は、作者や受け手意識の共有によって成り立つのであり、たとえばいか架空世界舞台にしていたとしても、そこに現れるのは「現代意識」そのものであり、社会問題にする(作品への支援共感プラス)にせよ批判マイナス)にせよ)のはまさにその点だからだ。

  • 「この人痴漢です!」は相手を社会的に抹殺できるんだから… よほど自信がないとやってはダメ。 相手は本当に悪意でオシリを触った? 間違っていたら自分が死ぬ覚悟はある? コッ...

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