まず何も知らない人に簡潔に書くと、『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』(以下適当に略す)とは『アイドルマスター シンデレラガールズ』(以下適略)というゲームのコミカライズ作品の一つである。
コミカライズとしては原作に対して忠実さ・リスペクトのある作品で一定以上の品質もあるのでファンアイテムとしてはそれなりに良いものだ。一方で、原作を知らない人にとっては取るに足らない凡庸な漫画のひとつに過ぎないという、よくあるコミカライズ作品である。
Web漫画としてサイコミで連載されていて今なら最初から全部読めるので興味がある方は読んでみてもいい。
https://cycomi.com/title.php?title_id=46
こういう前置きをしている私は上記に当てはまらない、アイドルマスターシンデレラガールズの既存のファンである。それを前提にして本題に入る。以降の話は関連作品も含めてネタバレを有することを注意しておきたい。
コミカライズとしては及第点以上を取れていると思う。漫画に限ったことではないが、世の中には自己主張控え目な毒キノコのように見る者を誑かし食することで生命を脅かすように読んだ者の精神の健康を害する作品があることを思えばよっぽど良い。そういうものに金を払った経験はいっそ高度な文明的行いのようだった。
さて、それでも私の周りで似たような意見を聞くのでそれを取りまとめておきたい。
作品の問題に対する指摘はいくつかあるが、ここでは一つだけ取り上げる。
それは物語が繰り返しに過ぎないということ。
ただし、この言葉には二つの意味がある。既存のファンでなくても気付く点、既存のファンにだけ感じられる点の二点において、この物語は繰り返しである。前者を単調であるといい、後者を焼き直しと呼ぶ。この二点において少しだけ掘り下げる。
今ならタイトルページに全ての話が並んでいるのでそれを眺めれば、この漫画や原作のことを知らない方でも各話のタイトルにはより小さな物語の主題とその話の順の数字が割り振られていることに気付くし、そのすぐ後には最初を除いた全てがキャラクターの名前であり、各話がそのキャラクターに焦点を合わせた内容であることを理解する。
これは単調な物語という問題が、表出しているのである。この作品はより小さな物語の3話毎の繰り返しであるのだ。
この9人のプレティーンが自己の存在意義をかけて衝突したり複雑な人間模様を描くということはない。主題になっているアイドル以外は添え物で誰でもいい場合が多い。もちろん例外もあるが、せいぜい一対一の関係だ。ここにプロデューサーという『アイドルマスター』シリーズで要となる役目を持つキャラクターを加えても何も変わらないことは一読すればわかるということも付け足しておこう。
このように個人に根差した問題の解決を3話毎に繰り返している。この個人に根差した問題という指摘は後にも関係しているので覚えておいてほしい。
さて、3話というイテレーションが、序破急が、問題提起・確認・解決という流れが、如何なる読者にも理解できるのはある切実な悪影響を産む。読者の誰もが次の話を更新を待たなくてもどうなるのか、結末は果たして何処へ行こうとしているのか容易に想像できるし、その想像を超えてくることは絶対にない。個人に完結する問題でバリエーションに変化を付けるのは難しい。特にこの作品は主要なキャラクターをプレティーンと限定しているのでそれが顕著に表れる。また、解決の手法に目を惹くものがなくむしろただの会話で済んだりするので盛り上がりや起伏、それによる興奮がない。
読者の期待を煽ることは決してなく、要するにただただ単調なのだ。
どのようなWeb漫画サイトも同様に、序文に書かれるあらすじを読めば誰でも物語全体の概要を理解できるだろう。ここで同作品の最後の文を引用する。
しかし、既存ファンにとってこれは新しいシンデレラストーリーでは無かった。
前項で個人に根差した問題という指摘を行った。これがなぜこの作品が既存のファンの心象に退屈さを塩傷口よろしく塗り込まれる現象となる理由は、それは原作のゲームがもう何年も更新され続けているゲームであり、かつアイドルとそのプロデューサーとして一対一の関係を描いているゲームだからである。
直截的に言えば、そのキャラクターの個人の悩みなど従来のファンには既知の事柄であるし、改めて描かれても新鮮味が無いのだ。
また新鮮味という話であれば、最初の橘ありすの「宣材写真の撮影」に纏わる話は、『シンデレラガールズ』のアニメでもやってるし派生元でも別の派生先でもやってる定番である。その中で言えば解決方法も極めて平凡なのもファンの期待に応えているようで一層下回る。
この作品の最大の特長といえばこれまでフォーカスされなかったプレティーンのキャラクターやそれに見合う矮人族のプロデューサーがいることだ。しかし、如何せんどいつもこいつも真面目に波乱起こす気が無く、二度目になるが盛り上がらない。波乱があればいいとは言わない。しかし波乱が起きないということは、キャラクターという個性を持ち得ないのも同じではないか。ただ低身長の皮を被った誰かの物語に置き換えられる。ただ真摯で優等生でソロプレイでしか活躍できないキャラクターであるのなら、彼らは彼らである必要がなく、他の誰だっていいのだ。皮だけ派手にしたところで、平凡な物語は平凡だ。なぜ狂言回しと呼ばれるキャラクターが生まれるのか、我々は反面教師を以て理解してしまう。
物語は単調な起伏を繰り返すだけ。計画し尽くされた行程は作り手にとっては満足するものだが、受け手にとっては必ずしもそうとは限らない。我儘な顧客であることを承知で言えば、我々は見たことがないものが見たいのだ。アニメもゲームも各々アイドルの成長を描く先駆者だったが故に満足した。そうではない点ももちろんあったが、概ね次の展開を予想できないものだった。しかし本作品はその後追いに過ぎなかった。
我々はこの物語を知っている。恐らく作者よりも。
あまり深く内容に触れずともこの作品が読者を退屈にさせてきたことは説明できただろう。
現時点で19話。イテレーションは5回目で4人目の物語の解決の途中である。連載10か月。プレティーンは全員で9人いるのでまだ残り半分残っている事実に戦慄しよう。
私は最新話の作者コメントが第一話と同じだったことに慄いたが、今見たら差し替わっていたので深掘りしない。その第一話のコメントを引用すると、
お待たせしました!いよいよ「U149」始まります!アイドル達の新たな一面をどんどん見せられればなと思ってますので、よろしくお願いいたします!
新たな一面など無かったということはさんざ書いた。
実のところ、我々が期待していたこのハードルを超える作品では無かったと思う。それでもコミカライズという点では良評価を当たられる。新規の読者にとってはこれも新たな一面になるのだから。
最新19話は良かった。賑やかしでも他のアイドルが出てくるのは良いことだ。ここで出てくるのは誰でもいいが上の主張とは誓って矛盾しない。賑やかしだけでもいいじゃん、という主張はよく見るがこうなると容易に首肯する。なけなしの起伏だって要らねえや。冗談だが一考する余地はある。
しかし最後の見開き、見れば見るほど最終回みたい画だ。つづくって文字が誰かの悪い冗談としか思えない。
あーあ、ちょくちょく褒めてるのがダメだ。つまんないものはつまんねだろ煮え切らないな