現在放映中の深夜アニメ、勇気爆発バーンブレイバーンを楽しみに見ている。
ジャンルそのものをメタる系統の作品で、一見「令和の勇者ロボシリーズ」だけど、おそらく最終的には「令和のまどマギ」枠になるのではないだろうかという予感がある。ジャンルについて自己言及的なあたりのメタさは「SSSS.GRIDMAN」にも通じるところがある気もしなくはない。
ジャンルをメタる上で重要になるのが「様式」で、本作の序盤は「スーパーロボット系アニメ」の様式が(相対的に)リアルロボット寄りの世界観に持ち込まれたときのギャップや違和感の描写が話題になりXのトレンドに上っていた。
本作の監督である大張正己その人は、特にロボットアニメ造形や演出において数々の様式を作り上げた人で、特徴的ながらも非常に汎用性が高く効果的な技法は名前を文字って「バリ○○」みたい名前がつけられたりしている。アニメに詳しくない人でも独特のケレン味と「気持ちの良さ」は一度見ただけで確実に印象に残るはずだ。
氏の功績や影響力はめちゃくちゃ大きいのだが、それにしてもロボットアニメというジャンルは全体として演出に様式を重んじる傾向にある印象がある。理由はいくつか考えられるがそれは置いておきます。
演出の様式という視点で注目すると非常に面白いのがオープニング映像だ。ロボアニメのオープニングアニメーションは様式美が強く、翻ってそのアニメ作品がどの程度ジャンルの様式に則っているかを測る一種のリトマス紙にもなる。
冒頭で例に出した「SSSS.GRIDMAN」はアニメーション全体が映像演出の教科書になっていいんじゃないかというレベルで非常に様式を押さえた作りになっている。OP映像も非常にわかりやすい。
https://www.youtube.com/watch?v=ku6Lz0dlTfs
味方は上手(かみて)からのベクトル、最後のラスボスは下手(しもて)画面上側。物語のキーになる人物の配置、顔の向きなどかなり構造として作り込まれてあり完璧だ。余談ながら、この作品は大張演出をオマージュしすぎたあまり、本人から若干苦言を呈される(のち和解)ということもあった。
上手下手は映像演出の基本のキながら一瞬のカットでも効果が抜群なのと、ロボットには人間ほどの露骨な顔の表情がつけられないからか、OP映像では比較的様式に則って素直に使われるようだ。
「バーンブレイバーン」でも見事なくらい上手下手の様式に則っている。
https://www.youtube.com/watch?v=Zkg_03wzNKQ
味方勢力が上手から下手向き。グリッドマンもそうだが、徹底することで非常にヒロイックな印象になる。ここで気になるのが、1分あたりからの鍔迫り合いだ。当初上手にいたブレイバーンが途中で相対する敵(?)と逆の向きになり下手側に移動する。
下手側は「攻撃を向けられている側/劣勢側」にもなるので、この剣戟シーンでブレイバーンが押されている状況なら無くはなさそうだが、キメのカットではほぼシンメトリーで力が拮抗しているもの同士に見える。
他方同じような構図で味方側が下手にくる鍔迫り合いは他にもある。
https://www.youtube.com/watch?v=5gdItTOUpDM
https://www.youtube.com/watch?v=CgqXWXjA8WE
どちらも終盤、主人公機とライバル機が鍔迫り合いをするが、主人公側が下手、ライバル機が上手になる。
これは作中での2人の関係性を理解すれば納得がいくもので、というのもこのライバルキャラは主人公に一方的に執着して付け狙うだけで逆に主人公側にはこのライバルキャラとは特に戦う理由がなく、都度からまれてはあしらうというだけの関係性でしかない。ライバルの強い一方通行の片思いが反映されている演出だろう。
ガンダムといえばそれ自体様式の重力が強い作品だが、中でも演出に様式を重んじていると思われる作品に「ガンダムSEED」がある。シリーズの中でも妙に大張成分を感じさせる作品は、メカデザインも含めて独特なケレン味を帯びた作風になっている。
SEED無印、確か3期くらいのOP。※期間限定公開(おそらく劇場版上映のため)
https://www.youtube.com/watch?v=AHwxpKaufrw
ここでも1分あたりで味方と因縁のある敵との剣戟があるが上手が味方機だ。
ちなみにこのOP、物語が大きく動くタイミングでの新規OPで、演出によってその後の勢力の変動が暗示されるものになっており楽曲の歌詞とも絶妙にリンクしたSEEDシリーズきっての名OPになっている。
鍔迫り合いではないが、上手下手の扱いが非常に巧みなのがガンダムW後期OPだ。
https://www.youtube.com/watch?v=ICOwBtm8L_s
冒頭で上手からまっすぐに抜けていくウイングゼロがとてもヒロイックだ。最後にウイングゼロがライバル機と相対して下手に地球を写したあとの掴み合いで画面が回転してウイングゼロが下手下側にくる。その角度のままライフルを発射する。
牽強付会すれば、初代ガンダム1話でアムロがザクを刺した決めカットと同じ構図で劇的である。そもそもガンダムWという作品自体、味方がとにかく劣勢になりがちでだいたい常に負けている側なので、主人公の見上げるカットとともに逆転の一発、というのはとても熱く効果的だ。
最後に、同じガンダムシリーズのOPでいうと映像演出の面で興味深いと思ったのが直近の「水星の魔女」。ネタバレが含まれるので未視聴の方はご注意。
https://www.youtube.com/watch?v=aU8ruUe7UlE
冒頭で主人公が上手入りの動きをするのに対して、主人公機であるエアリアルはサビ部分の見せ場で、一瞬上手から入ったあとは画面中央奥に飛んでいく。そして最後に逆光シンメトリーという、若干不穏なカットで終わる。特に最後の構図は何か小骨がのどに刺さったような違和感を覚えるものがある。
初期の作品キービジュアルではエアリアルが逆立ちをするように反転していたりと、何かしらエアリアルという機体に異質さを表現しようとした意図がうかがえる。
そして2期OP
https://www.youtube.com/watch?v=0Zmt74GeVpY
45秒あたりでようやくエアリアル改修型が上手入りするが、それを見上げるスレッタの表情は不安気で、新型機登場というOP華のシーンながらどこか不気味なシーンにもなっている。
そして、物語がクライマックスに入り、OPカットが更新される。
https://www.youtube.com/watch?v=bJa4Fwi5X9g
1分あたりからスレッタの本当の後継機になったキャリバーンが満を持して上手から随伴機とともにバーストし、その先から敵対してしまった改修型が下手入りし、剣戟のカットでキメる。