2018-01-18

かつて私たちは地下に暮らしていた

特に何を主張するでもない駄文です。1級暇人の方はどうぞお読みください。



昔々ある人間たちが、誰の目にもとまらないような陽の射さない地下で他人との交流を細々と持っていた。顔も見えず声も聞けないそのコミュニティには、陽の当たるところへは出せないような声が星の数ほど集まって、カオス文化が生まれた。

それは大抵の場合根暗で、ウジウジドロドロして、「何だこんなもの」と地上の人々に馬鹿にされていた。が、確かに光るものがあったこともまた事実で、そんな一期一会フラフラした心地よい集まりを求めて多くの人間が暗がりへとやってきた。

おとぎ話ではない。他者との交流ネットワーク一般に拡がり始めた頃の話である

インターネット私たち生活に深く入り込んできてからの年月はまだ浅い。日本へ今の形の原型となるネットワークが入ってきたのもたった30年ほど前。それ以前からあった今は亡きパソコン通信も、全盛期は2、30年前あたりだ。ましてや冒頭のような光景掲示板などで繰り広げられていたのだって、(今の現役ネット世代若者が考えるとけっこう昔に思えるが)20年やそこらではないか

パソコン通信というクローズドネットワークからインターネットというオープンネットワーク時代が移る中、個人サイトやら電子掲示板やらがぽつぽつと栄え始めた。顔も見えない声も聞こえない文章だけのコミュニティは、この時地上の現実からひとつ階層を落とした地下世界を構築したのだろうと思う。決して表には出せない愚痴嘲笑も争いも裏事情も何もかもを内包したカオス空間だ。

まもなくインターネット上にはその場の思いつきや便所の落書きレベルからなぜ本気を出したと言わんばかりの美文やイラスト企画まで、さまざまなもの漂流し始めた。地下世界スラム街のような様相を呈し、いわゆるオタクを中心に物好きな人間たちを取り込んでブクブクと膨れ上がっていったわけである

その頃の地上世界では「ネットなんて」「掲示板なんて」「オタクなんて」みたいな認識が当たり前だった。相手の顔も見えない世界なのに、現実を見もしないで貴重な時間をムダにして、と。基本的に地下世界の住人も生身は地上に置いているから、そんな後ろめたさを背中に抱えて、それでもただのらくらと面白いものを求める。

漂う気配には地上世界で吐き出せない陰があり、カキコによる争いは絶えずどこかで起こって燃え上がり、でもたまにいいものを見つけて嬉しくなるような、全くもってグチャグチャの空気が流れていた。

当時の地下世界において人々の理性や社会性は普段より3~8割減っていたと見ていいだろう。感情の赴くままに場を荒らしてはゲラゲラ笑い、煽られては顔真っ赤にして怒る、老若男女が子どものように感情を表せる場だったと言える。そこに地上世界倫理を持ち込むのはお門違いなのであった。

嘲笑・叩きはお構いなし。グロ画像やら有名人やら見知らぬ一般人写真までもがジャンジャン流れ、肖像権何それ美味しいの状態である淫夢の語録やクソコラなども、そのあたりの流れによって大きくなったものニコ動などに共有されて爆発したようなものだろう。そういうアングラ文化電子掲示板界隈からニコ動mixiTwitterといった拡散力の強いサイトへ流れこみ、2000年代に大きく盛り上がった。

さて、今は2010年代もそろそろ終盤である。この日記タイトルで、かつて私たちは地下に暮らしていた、と書いたのは、今やインターネットは地下世界ではなくなったのだと個人的に思ったからだ。

インターネットで出されたコンテンツが瞬時に世界中へ回る時代。昔だってそうだったが、今では拡散スピードが違う。LINEFacebookInstagram若者たちコミュニティを作る。「微レ存」が女子高生にまで浸透したりして、一般人といわゆるオタクとの境界線も昔に比べると曖昧になりつつある。

もはや掲示板にもTwitterにもニコ動にも、陽の当たらない場所はほぼない。全てが地上世界に引き上げられ、インターネットはれっきとしたひとつ社会として君臨するものになったのだ。

れっきとした社会として認められるということは、当然利用する人々の意識・行動にも倫理や理性、ルールが付きまとう。今もかつての地下のノリは受け継がれ、クソコラ炎上煽りも健在だが、「そういうのはどうかと思う」というような理性的意見によって自主的規制されることも増えた。

からと言ってそれが悪いと言うつもりは全くない。むしろ当然の結果である人間が一つ所に固まれば、そこに独自ルール生まれる。ルール文化となって拡がり、人が大きく増えればひとつ社会になる。そうなれば法や倫理が、社会における不都合を放っておくはずはないというものだ。

ただ少し寂しいとは思うが。

冒頭で言ったように、私はこれに関してどうこう主張したい訳ではない。ある日何となくネット窮屈だな」と感じ、地下世界文化の流れを思い、ちょろっと考えをまとめてみようか、となっただけの戯れ言である批判意見も大いに結構だし、むしろここまで読んでいただけていたらそれだけで驚きだ。よっぽど暇なのか。

これからインターネットひとつ社会として、ちょっとの闇を内包しつつ地上世界に在り続けるだろう。さらに月日が流れて、今の世の中では想像もつかないような新しいネットワークが出てきたら、また物好きな誰かがそれを使って地下に新しい世界開拓するかもしれない。

また新しいカオスが生まれて膨らんでいく過程を、できればこの目で直に見届けてみたいものだ、と考えているところである

  • これからの世界における「地下」ってどこになるんだろうな ディープウェブの様にインターネット上のどこかであり続けるのか、それとも新たな技術で構築されたネットワーク上にコミ...

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