博士をとってから大学で博士研究員として1年ほど働いたが、先日、民間企業から内定をいただいて大学を去ることになった。転職の活動をする中で思ったことを書き残しておきたい。自分と同じ程度に何も考えず、ちゃらんぽらんに博士課程に進もうとしている人の参考になればよいと思う。
1.スペック
男29 バイオ系 医学研究科所属(non-MD) 特筆すべき業績は無い
いわゆるピペド的な分野だけど、医学系に所属していたことが就職にプラスとなった模様。
1日6時間勤務で時給1670円。つまり日給1万円。額面20万程度なので、手取りは16~17万ほど。残業手当や休日出勤手当についての規定はいろいろ事細かに書いてあるが、残業や休日出勤は存在しないことになっている。生物相手の仕事なので6時間の中で全ての仕事を収めることが不可能である。場合によっては夜中に始めなければいけない実験もある。また、生物には曜日も関係ない。大学院生の頃、研究室に行かない日は年10日ほどだった。卒業前、ポスドクになってもそのペースで仕事ができると思っていたのだが、お金をもらう身分になるとそれができなくなった。給料が発生しないのに研究室に行くことが馬鹿らしくなってしまった。こういうことを言うと、休みがほしいと言ってるようでは研究者に向かない、と言われたりするのだが、そういう問題ではないだろう。だって、こちらは契約書を交わして雇用されている身分なのである。そういう意味では民間企業で働く人と同じだ。上の言い分がまかり通るなら、サービス残業ができないような会社員だって、その会社の仕事に向いてないと言ってよいことになるのではないか。少なくともこれまではてブ等で言われてきた基準から考えれば、即退職すべき職場と言えるはずだ。
これはうちの大学だけの問題ではなく、どこの大学でも聞いてみると似たような人が居る。教授たちはポスドクの生活について特になんとも思っていないし、月20万も出してやれば逃げていかないと思っているらしい。「サイエンスにサティスファイ」していれば飲まず食わずでやっていけると思っているのだろう。
それでも、百歩譲って、自分の好きな研究をしているなら、お金をもらわずに働いてもまだ納得がいく。しかし、雑務に追われて研究ができない大学教員同様、ポスドクも上でオーバーフローした雑用をこなしているだけで時間が過ぎていく。毎週末出張に行かされたり、インターンの学部学生の面倒を見たり、他大学の学生やスタッフに技術指導をしたり、シンポジウムの運営を手伝ったり、種々の書類を書かされたり、というのが日々の業務である。それでいて、世間からは、研究者なんて劇団員とか芸人とかそういう類なのだから待遇が悪くても仕方が無いだろう、お金がもらえるだけいいでは無いか、というようなことを言われるので腹が立つ。
活動期間はトータル4ヶ月。ただそのうち一ヶ月半ほど忙しすぎて何も動けない期間があった。覚えている限り、13社応募した。うち、3社は転職エージェントと音信不通になった。2社は転職エージェントから応募を断られた。残りのうち、4社は書類で落ちて、4社で面接に呼ばれた。最終的に2社から内定をもらった。
専門知識が活かせそうな職であれば、研究職、非研究職に関わらず応募した。そのため、最初は何がやりたいのかもはっきり固まっておらず、書類審査に通りにくかった。後半は、希望の業界や職種が絞れてきたことと、求人票から書類審査に通りそうなものがある程度わかるようになってきたので、思ってたよりもあっさり終わった。
巷では博士まで行くと就職が無い、特にバイオ系は終わっているというような話が多かったので、活動を始める前は心配していたが、別にそんなことはなかった。ただ、研究職に絞っていたらそう早く決まらなかったかもしれない。自分の実験技術はニッチな職人芸で、企業の研究で活かせるかというと微妙だったし、業績も研究職を目指すには寂しいので書類選考がかなり厳しかった。それに、やっぱり分子生物学を直接活かせる分野はまだそんなに無いというのも思った。
博士課程で身につけるべき専門性やスキルは、研究以外にも活かせる道があると思うので、研究以外のことにも興味を持てる人だったら、博士まで出たからといって特に就職で不利になることはないと思う(能力的に博士として平凡な人でも)。
4.博士進学すべきか
私は博士進学したことを全く後悔していない。ポスドク期間は精神的につらかったが、大学院生の間は、研究を通じてエキサイティングな経験ができたと思う。
博士を取るのは、学士や修士に比べたらかなり大変ではあるが、その分、達成感がある。私は基礎研究分野なので、その視点に絞って言うが、博士というのは世界で初めて誰も到達してない場所まで登り、そこから新たな景色を見せることができた人に与えられる称号だと思っている。博士課程で行う研究なんて、そうたいしたものではないけれども、でもどんな小さなことであれ、世界で一番になる経験というのはなかなかできるもんじゃない。だから、もし学部や修士課程で研究を面白いと感じているなら、その先の山まで登ってみることは悪い経験にはならないと思う。
もちろん、リスクやデメリットはいろいろあるし、向いている向いていないもあるけど、条件が合えばリスクは限りなく小さくできる。博士課程に進学しようと思ったらお金が必要であるが、親から全く援助が受けられなくても、プラス収支で博士課程を卒業することは不可能ではない。最近、貧困の原因になっているとも言われている学生支援機構の奨学金だが、大学院で借りた奨学金は3分の1の確率で半額または全額が免除されることはあまり知られていないのではないか。免除されなかったら大きな借金を背負うことになるのでハイリスクな賭けではあるが、単純なギャンブルではないので勝率を上げることはできる。免除される枠は大学ごとに割り当てられているので、学内の相対評価で勝てれば良い。背伸びして良い大学院に入ると大変かもしれないが、小さな大学でアクティビティの高いラボに入れれば免除される可能性はかなり高くなる。私もこのパターンで、日本全体では平凡な大学院生だったと思うが、所属大学では上位に入れた。それから、最近はお金を出してでも学生を囲いたい大学院もあるから、この辺をうまく使えればお金がなくても進学は可能である。卒業後の就職のことに関しては上に書いたとおりである。実感として、そんなに不利だとは思わなかった。研究を続けるか別の道を歩むかの決断はあるかもしれないが、仕事を見つけること自体は難しいことではない。
優秀な人が将来の懸念から、博士過程を避けるようになっているという話をよく聞く。それがどの程度本当なのか私はよく知らないが、本当だとすれば残念なことである。真に優秀な人はおそらく研究者として残っていけるだろうし、別の道を探すことだって難しくはないだろう。重要なのは進学前の情報収集だ。良い指導者(色々な意味で)に出会うことは極めて重要である。
5.学術界に言いたいこと
それはそうと、博士課程を卒業した後、ポスドクの待遇は酷い。なんなら、学生のころよりも生活が苦しくなったりする。私の待遇でも、社会保険と厚生年金に入れるだけ全体としてはマシだと言われるようなレベルである。
博士まで取った人なら、仕事くらい自分で見つけてこられるだろう。だから、別に今いるポスドクをみんな救済しろと言いたいわけではない。ただ、せめてルールくらい守れと言いたいだけだ。大学や予算枠の規定で仕方がないのか知らないが、秘書や実験補助員と同じ枠でポスドクを雇用し、ポスドクにだけ特別な暗黙のルールを適用することはいい加減やめた方がいい(秘書や実験補助員は定時で帰るし、定時で帰れるように配慮される)。本来、研究者を時間給で雇うのが間違いなのだが、全員を正規雇用できないというのもわかる。だから、正規雇用されなくてもいいから、パートタイムで雇うならその規定をきっちりと適用してほしい。そんな中途半端な研究者は要らないと思うなら雇わなければいい。自分だって、ボスからポスドクとして残ってほしいと言われたから残ったのである。必要だと思うなら、必要性に応じてお金を出せばいいし、出せないなら逃げられても文句は言わないでほしい。
6.まとめ
大学院は超エキサイティングだったが、ポスドクの待遇が酷いため研究をやめることにした。
博士進学および研究は人生を賭けた博打であり、勝つためには運が多大に必要である。しかし、単に運だけで決まるわけではない。そこそこ得たいものを得て降りることは可能である。研究の過程を楽しく思えてかつ優秀な人には博士進学を勧める。
オレは今度修了なんで後輩です。 まずね、あんたは致命傷を受ける前に抜けだせた。それだけでも大したもんじゃないか。オレはね、ダメージを受けすぎたんで今年度で研究はサヨナラ...
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横からだが、誰でもアカポスにつけるなら、みんな民間に出たりしねーよ。 アカポスゲット競争はかなり厳しいものなんだよ。
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増田は博士課程進学を薦めているが、おすすめしない。理由は日本では大学という仕組み自体が疲弊しており、社会での役割が年々縮小しているからである。防疫、防災、国防、医療、...
いやもうあんた元増の言うこと何も聞いてないじゃん。 巷間言われるほど就職できなくもないから楽しそうだと思ったなら博士行っちゃいなよYOU!ってだけでしょ。
アカデミックな世界にいたことがないんで増田の言うことはよくわからんけど「博士として平凡」って表現が面白いと思った。 平凡つったってその辺の人適当に捕まえて比較したら全然...