2023-01-16

バイト日記

 出勤したら、男子高校生バイトさんと派遣推し女子さんがいて、楽しそうに仕事をしていたところへ、私と同時に出勤してきたAさんが歓迎されていてより楽しそうな集団となる。この疎外感! かなしい。おばさんは静かにステルスしてるね……。

 推し女子さんが推し女子さんたる所以はそのまんまで、とある男性アイドル収入のほぼ全てを捧げているのだ。推し女子さんは推しを「まだあまり有名じゃない」と思っているらしいが、私でもグループ名を聞いたことがあるくらいなので、そんなに有名じゃなくはないと思われる。

 推し貢ぐため、推し女子さんは当店のシフト派遣枠(早い者勝ち)を可能な限り取って馬車馬のごとくに働いている。店的にはありがたいはずなのだが、オーナー推し女子さんの真面目で正義感の強い所を煙たく感じているらしく、彼女シフトを総取りしてしまうせいで、お気に入り派遣男子達(誰もオーナーに口答えしない)がちっともシフトに入れない事を嘆いている。でも、真面目に働いている派遣の人をオーナーの気分でブラックリスト入りさせるのは契約違反であるらしく、推し女子さんはせっせと働きに来続けている。

 Aさんは推し女子さんからいわゆる「祭壇」を見せてもらったことがある。それはそれは立派なものだそうで、推し女子さんは祭壇を築くために何十万もの課金をしたのだそうだ、とAさんは言った。いいなー、私も祭壇見たい。でも、推し女子さんには年齢を聞かれた時に素直に「40歳」って答えた瞬間から透明で薄くて硬い壁一枚で隔てられてしまったっぽく、そこまで気を赦してもらえないのだ……。

 それにしても、Twitterとかでよく見る「祭壇」っていうのは、お金持ちが有り余る財力でこさえているのかと思ったら、ごく普通フリーターしてる女の子が真面目にコツコツ働いて得たお金でコツコツ築いているものだったのねー。

 推し女子さんがまめに夕勤に入るようになってからお客様から最近夕方店員が無愛想な奴ばかりだ」という苦情がすっかりなくなった。その苦情の意味は「若い女店員を出せ」とほぼイコールだったことがわかる。でも、推し女子さんは特別愛想をふりまくタイプでない上に、完全に素っぴん、頭ぼさぼさで働くような人であり、去年までモデルのような可愛さで夕勤のクオリティを一人で爆上げし支えていた女子フリーターアルバイトさんとは対極のキャラだ。けれども年齢だけは推し女子さんと女子フリーターアルバイトさんとは同い年なので、これは噂の若い女の子特有匂いのパワーなのだろうか。


 1月は毎年暇なんだが、今年は特に暇だ。カフェマシンのパーツを洗いながら、Aさんと雑談。以前、本部人達が手伝いに来てくれた時に、事務所の中で本部人達が「仕事キツイのに給料安くてやってらんねー」「バイトでフルに入ってた時の方がぶっちゃけ手取り良かったです」と会話しているのを聞いてしまった、とAさん。

「本当に本部正社員って薄給なんですかね?」

「さぁ、どうだろ。私の友人の旦那さんは本部社員だけど、年1で海外旅行行くって言ってたし、それなりに余裕あるのでは」

 まだ若い社会人の金ない~っていうのは、他人境遇をよく知らんで言ってる事もあるからなぁ。

 なんて話から、その私の友達がY市(都会)に住んでるって話になり、「Y市と言えば、Cさんの愛人の住んでる所ですよ!」とAさんによるCさん凄すぎ伝説になる。

 Cさんというのは、50代前半か半ばくらいの男性で、三年くらい前まで当店の夜勤で働いていたんだけど、まるで女向けのちょっとエッチ小説登場人物みたいな人たらし・女たらしだったのだ。

 Cさんがめちゃめちゃ女好きだという事は私も知っていたのだが、行く先々に愛人がいて、しか貢ぐ方じゃなくて貢がれる方だというのは、Aさんに聞いて初めてしった。で、そのCさんの愛人の一人がY市に住む裕福で美人女性で、Cさんは車でわざわざ逢いに行くんだそうだ。んで、逢引きの翌日だか翌々日にCさんがAさんに語ったこと。

「Y市ってめちゃめちゃすごいんですよ。道路バーンと広くてさ、しかも高級車しか走ってねぇ! 俺の【(車種)】なんかオモチャに見えらぁ」

 あー、【(車種)】って、買うと高いけど高級車っていうよりかヤン車みたいな認識のされかたしてて、車にちょっと拘りのある庶民背伸びして買う物って感じだよねー。

 車の事はいいとして、Cさんのバイタリティーがマジですごくて、一番近い所だと某市の中心街の影の支配者とか不動産王とか言われている奴の女にも手を出していたりするのだが、その女性と逢い、夜遅くに家に帰って朝まで寝ず、日が出たら頑張って娘さんの運動会のための弁当を作り、奥さんと娘さんを送り出してからちょっと寝てそして運動会を見に行く、とかい無茶苦茶アラフィフなのにやってのけるという。

「すごい、私なんか最近ちょっと睡眠不足しただけで不整脈心臓まりそうなんですけど」

「俺だったら面倒臭くてやってらんないです」

 はぁ、こんなんだから我々は、しがないコンビニ店員として平坦な日常を送るだけなんだなー。

 バイタリティー溢れ過ぎで死ぬほどモテまくるCさんだが、どんな平成スーパーダーリンなのかというと、実態は、昼間のスーパーで買い物してるとたまに遭遇するおばちゃんみたいな人なのである。ほら、よくいるじゃないですか……、こちらが納豆とか手に取って賞味期限を確かめていたりすると、同じように品定めをするふりをしながらスススと近寄ってきてブツブツ独り言を言い出す、なんか気になるおばちゃんが。ちょっと独り言に反応すると堰を切ったようにめちゃめちゃ話しかけてくる……。

 Cさんも人が視界に入るや何かぶつぶつと呟き初めて、人がリアクションするのを待つ、待ち伏せするタイプハンターで、その手口で女どころか老若男女をホイホイ釣ってお友達になってしまうのだ。そのぶつぶつ言ってる様はなんかちょっと気持ち悪いんだけど、釣果が凄すぎるんで何とも言えない。

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