2022-10-24

バイト日記

 人の流れがビフォーコロナっぽくなってきた。どこへ行ってもめちゃ混みだが、そうなると逆にコンビニは暇になる。だから今日は暇かなーと思ったらそんなことはなかった。20時になる少し前に近所のスポーツ実業団が来店したのだ。

 そのちょっとから若干混んでいたのだが、実業団スポーツマンがわらわらとしていると、一般お客様達は恐れをなして逃げるように店を出ていった。残った一般お客様唖然としているか、店の外へ出てガラス越しに店内を見物していた。

 実業団の人たちは三人グループに別れて籠をひとつずつ取ると、それぞれ10分くらいかけて店内をまわり商品を籠に入れていった。そして、あらかじめ制限時間を決めてあったようで一斉に二台のレジのうちの奥の方(私の担当レジ)に一列に並んだ。

 三人組でレジに来ると一人は離脱。残った二人のうちの一人が

「袋は二枚 、お箸は五つ、おしぼりも五つ。次もまだあります

 と言う。私が商品バーコードスキャンしている間に二人はレジ袋を開いてスキャンし終わった商品を「これは誰々の、こっちは誰某の」と選別しながら袋詰めしていく。スキャンが終わると二人組はさっと袋を持って「あざましたー」と退店。

 すると次に並んでいた三人組が前に進み出て来て一人が離脱。残った二人のうちの一人が

「袋は二枚 、お箸は五つ、おしぼりも五つ。次もまだあります

 と言う。私が商品バーコードスキャンしている間に二人はレジ袋を開いてスキャンし終わった商品を「これは誰々の、こっちは誰某の」と選別しながら袋詰めしていく。スキャンが終わると二人組はさっと袋を持って「あざましたー」と退店。

 それが数回繰り返されたが、最後の一つ前のグループだけは慌てて去って行ったのでお箸おしぼりを忘れていった。

 最後スポーツ実業団会計係が一人で、

「袋は二枚、お箸は三つ、おしぼりも三つ。あとスプーンもください。お会計クレカで」

 と言って、私が商品バーコードスキャンしたそばから商品を袋詰めしていき、クレカで総額3万円もの代金を支払った。すご~く長いレシートが出た。

 スポーツ実業団を乗せたバスが去ると、ずっともう一つのレジで手持無沙汰にしていたAさんが、

「かなりのお客さん達が、実業団の連中にビビってなにも買わずに帰りましたよ」

 と言った。

 実業団お客様達にレジを一台塞がれてしまったためにもう一台のレジ担当を外れられなくなってしまったAさん、やっと休憩に。私はその間一人で店番。20時を過ぎてから一人の時は、大抵私がコンビニ仕事の中で最も嫌いな作業をしなければならない。その作業とは、朝刊の返品作業だ。

 なぜ嫌いなのかというと、全部の朝刊の1面を一度に見ると、今にも世界が終了するんじゃないかという気がしてくるから特に去年の11月くらいから深刻に酷いんだよ……世界が……。ちょっと疲れてきた時にこれをやるとズドンテンションが落ちる。

 はぁ……。

 と一人でため息を吐いていた所へ、常連酔っぱらいのお爺さんなお客様が娘さんを連れて本日二度目のご来店。完全に出来上がっていらっしゃって、最近の当店の従業員は愛想がないとか、当店のオーナーはそれに輪をかけて愛想がなく接客業大失格だと私にやいやい言って来た。しかも娘さんが、

「そうね、接客業たるものね、」

 と合いの手を入れるものから酔っぱらいのお爺さんなお客様は益々調子が上がってくる。

 ところが私がすいませんすいませんと謝り倒していたら、酔っぱらいのお爺さんなお客様は急に、

「んなことでおめえさんが謝るこたぁねえんだよ。さて、辛気くさくなってきたから帰ぇるか。じゃあの!」

 と言って帰っていった。

 Aさんが、最近大勢お客様から最近店の雰囲気が悪くなった」「店員の愛想が悪くなった」と苦言を呈されると言った。私もよく言われる。気さくで若くて可愛いDさんと女子フリーターアルバイトさんが相次いで辞めたりくびになったりしてしまたからだ。

 でも、二年前にDさんと女子フリーターアルバイトさんが夕勤に入りだすまでは、当店は愛想の良い店員が私しかいないという状態が常だったので、元の木阿弥に戻ったというか、現状が当店の夕方の真の姿だといえると思う。お客様簡単に異常にクオリティの高い夕方に馴染んでしまったみたいだけど。

 最近の当店の夕勤は人手不足まれりって感じで、毎日コンビニ専門派遣アルバイト人達が必ず一人はシフトに入っているのだが、それがどいつもこいつも死ぬほど愛想が悪い。大抵の派遣アルバイト人達仕事ちゃんと出来るのだけど、揃いも揃って物凄く態度にやる気の欠片もないのだ。ちょっと話してみると、やるきなくダルそうなのは見た目だけだってわかるのだが、お客様からは見た目しか見えない訳で。

 最近の夕勤は愛想がないと言われてもどうしようもない。オーナーがいうにはバイト求人を出しても誰も電話すらかけてこないのだというし。すっかり人手不足極まっている。だから、愛想が悪かろうがなんだろうが派遣バイトに来てもらうしかないのだ。

 僅かな暇な時間に、AさんとアニメSPY×FAMILY』の話をした。当店でも売られている何かのアイスがこれとコラボっているかである。Aさんは『SPY×FAMILY』はひたすら優しい幸せ世界から好きなのだそうが、私はまだ1期の3話目くらいまでしか観ていない。うちの子供達もこのアニメをかなり気に入っていて、もう既に2期の最新話まで観ている。

「ねえ、Aさん。子供達が、『犬! 犬が出たよ!』って言うんですけど何なんですか、その犬って」

「あー、それは超能力を持った犬の事ですね。その犬は未来を見ることの出来る能力者でして、アーニャはその犬の心を読む事で未来余地が出来るも同然になるのです」

「ふーん。」

 人体実験により生まれ超能力者と、やはり実験の結果超能力を持つに至った動物の組み合わせとは。

「Aさん、なんかそれ急に『アルジャーノンに花束を』みが出てきました。Aさんは『アルジャーノンに花束を』を知っていますか?」

 Aさんは知らないというので、私は『アルジャーノンに花束を』のあらすじをざっくりと話した。

「なんか、『SPY×FAMILY』って極度に映画狂いっぽい人の描いた漫画ですよね。そういう人が『アルジャーノンに花束を』を知らない訳がないと思うんですけど、もしかしてその犬ってフラグなのでは? 仮に原作では犬はフラグではなかったとしてですよ。アニメのほうは『HUNTER×HUNTER』で無理矢理独自色を出そうとし、『るろうに剣心』と『どろろ』で原作にはない地獄表現した人が監督してるんですよね。そんな人が監督して、ずっと優しい幸せ世界で終わると思いますか?」

 と私が言ったら、Aさんはこの世の終わりみたいな顔をした。


 なんかふらふらと足どりの覚束無いお客様が来店。レジリキュールショート缶を持ってきて、会計をしに来たのかと思ったら私の目の前に突き出した缶を放そうとせずに、

「これこれ、もう一つ」

 というので、棚に一個しかなかったがもう一つ欲しいということかと思い、

かしこまりました、少々お待ちください」

 と私は言ってウォークイン冷蔵庫の中に入って同じものを探して戻ると、Aさんがそのお客様の前で、

「えっと、どういうことですか?」

 と困惑していた。私が、

「大変お待たせして申し訳ございません。もうひと缶持って参りました」

 頭を深々と下げたところ、お客様は、

「は? 一個でいいんだけど?」

 と、一つだけ買ってさっさと帰っていった。Aさんは、

「いや……困惑の極みなんですけど。客が、会計中に女の店員が急に逃げてったから代わりにレジ打てって言ってきて。俺も増田さんがウォークインに走ってくのは見たんですけど、逃げたって何すか」

 と眉をひそめる。

お客様がもう一つって言うから持って来たんですけど……」

 私の釈明は完全に聞き間違えたことを誤魔化す言い訳だと受け取られてしまった。

 なんかごっそり勤労意欲を削がれた。だからって暗い顔なんぞしているところを客に見られたら、また「この店の店員は愛想がない」って詰られるんだろうなあ。

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