2021-08-29

続・鴻巣友季子の時評は何が問題なのか

 「鴻巣友季子の時評は何が問題なのか」(https://anond.hatelabo.jp/20210826203711)の著者です。

 非本質的な、《誤読か否か》を議論するコメントが依然として多いので、記事を改めて補論を書きます(文中敬称略)。

 元の記事では鴻巣意見から矛盾を示すために使ったまでで、解釈」という言葉を本文で一切用いずとも問題を整理できるし、他にも鴻巣矛盾を指摘できるのでそうします。

論点整理・集約版

 少なくとも桜庭が問うている本質的問題は、

 「作中に描写がないこと」を「作品に書いてあるかのように読める断定で書いた」こと

 である

 そしてこの点について鴻巣スルー、もしくは無理筋意見を出しているのみである

①27日13時39分

②27日16時43分

 桜庭自身鴻巣との対話をやめたが、外野はこの点について把握しておくべきであろう。

 鴻巣意見無理筋なのは以下ツイートから明らかである

③27日1117

 このツイート議論として成立するためには、「描写がある」「明示的な記述はなく」という仮定客観性を持たねばならない。「主張が正しいか」という検討以前の条件である

 よって鴻巣は、桜庭が言う「直接描写されていないこと」は、主観ではなく客観としなければならない

 ところが③の直前の、桜庭に宛てたツイートはこうだ。

④27日11時6分

 お分かりいただけただろうか?

 鴻巣桜庭の言う「直接描写されていないこと」を「なに」という言葉に置き換え、「あるひとりの読者=作者の主観だ」としている。この矛盾について解決しない限り、鴻巣意見無理筋であり、鴻巣桜庭議論する土俵にも立てない。

 なお、鴻巣は主張が成立しないのだから、厳密には「平行線」ですらないだろう。

 論点整理は以上である

 

 以下、元記事にやや補足しておきます

 テクストに「ない」ことを「ある」かのように書いた(ことが検証できる)あらすじなどという珍妙ものを読む機会がないので、そのようなあらすじを目にしたのちにいざ対象テクストを読み始めた者がどう反応するのか、筆者には確たることは言えないが、あらすじに書かれた鴻巣解釈だけを前提とし、桜庭提示した(あるいは以下で私が説得的に示す「真っ当な」)解釈に思い至りもしない、という可能性はあるだろうと考える。

 それは「読み」が閉ざされたことを意味する。なお、「どこかでおかしいとわかるはずなのでそうはならない」と言うのであれば鴻巣の書いたあらすじが頓珍漢だと認めることになる。

 また、鴻巣Evernoteでは「作品紹介のあらすじと解釈を分離するのはむずかしいことです」と述べていたが、「むずかしいこと」ではなく「不可能な」ことにすり替わってしまった。

 こうしたすり替えをわざとやっているのであれば大した度胸だと感心する。同時に、不誠実な書き手だと評価する。

鴻巣解釈検討

 ついでなので、鴻巣の読解が「曲解であることも示します。(「誤読」とは言いません。桜庭が使わないので。)

 不仲だったころもあったよね、と遠慮がちに聞くと、母は「覚えてない」と心から驚いたように見えた。離婚の話が出たことなど具体例を挙げてみるが、「そうだったっけ?」と不審げになる。それから急に目を光らせ、「人の記憶って、その人によって違うね?」と言った。

 瞬間、母とわたしが同じ過去の〝ある時〟……七年前に最後に会った時のことを思いだしているとわかったが、いま対立するのは不毛だと、「ふーん……?」と目をそらした。

 それから

「もしかしたら、病気になる前は、お互いに向きあってたか性格や考え方がちがいすぎてぶつかってたんじゃない? この二十年は病気という敵と一緒に戦っていて、関係が変わったとか」

 と言ってみると、母ははっと息を呑み、「そう、その通りだ」と大きくうなずいた。

桜庭一樹「少女を埋める」https://note.com/sakuraba_kazuki/n/ne3b7aa29cd58

 「不仲だったころ」は病気になる前は、お互いに向きあってたか性格や考え方がちがいすぎてぶつかってた」を指すのではなく介護していた「この二十年」を指すというのが鴻巣の読解です

 この読解を支持できる方は根拠をつけて教えてください。「病気になる前」であるという解釈をあえて却下する理由込みで。

 なお、この点についてのツイート鴻巣はなぜか削除していますが、ツイートこちら(https://twitter.com/maffumi/status/1431506303784943616?s=20)へのリプライの形でした。(スクリーンショットを見たければTwitterに上げても「私は」構いません。)

 さて、(桜庭言及している)「母は「覚えてない」と心から驚いたように見えた」に呼応する、

 いよいよ蓋を閉めるというときになって、母がお棺に顔を寄せ、「お父さん、いっぱい虐めたね。ずいぶんお父さんを虐めたね。ごめんなさい、ごめんなさいね……」と涙声で語りかけ始めた。「お父さん、ほんとにほんとにごめんなさい……」と繰り返す声を、ぼんやり寄りのポーカーフェイスで黙って聞いていた。

 内心、(覚えてたのか……)と思った。

(Ibid.)

 の「内心、(覚えてたのか……)と思った」も、「不仲だったころもあったよね、と遠慮がちに聞」いたのも、「もしかしたら、病気になる前は、お互いに向きあってたか性格や考え方がちがいすぎてぶつかってたんじゃない?」と言ったのも、すべて〈わたし〉なので、「不仲だったころ」をいつとするかによって、母が「お父さんを虐めた」のがいつだったと〈わたし〉が考えているかも決まる(と考えるのが普通だと思いますがどうですか?)。

 当然のことですが念のため言っておけば、実際にいつ「虐めた」かは、作中世界では〈母〉のみが把握し、〈母〉の心中作品視点は入り込めない。よって問題となるのは〈わたし〉がどう考えているかを、〈わたし視点文章解釈することです。

 私は「不仲だったころ」を「病気になる前」としか解釈できません。よって「虐めた」のも「病気になる前」としか解釈できません。

 困りました。私の読解力がないんでしょうか。解釈自由標榜する皆様、お知恵をお貸しください。

 最後に、本から引用します。

 「テクスト解釈可能性は無限である」と言っても、それは「解釈対象、つまりは焦点を当てるべきもの事実テクスト)が存在しない」ということにはなりません。「テクスト解釈可能性は無限である」と言っても、それは「どのような解釈の試みもうまくいく」ということではないのです。

ウンベルト・エーコウンベルト・エーコ小説講座:若き作家告白』、和田忠彦、小久保真理江訳、筑摩書房2017年、48頁)

記事への反応 -
  •  朝日新聞で翻訳家・鴻巣友季子氏が連載する文芸時評に、取り上げられた小説の作者である桜庭一樹氏が抗議の声をあげた(以下敬称略)。  争点となっているのは、「弱弱介護の密...

    •  「鴻巣友季子の時評は何が問題なのか」(https://anond.hatelabo.jp/20210826203711)の著者です。  非本質的な、《誤読か否か》を議論したがるコメントが依然として多いので、記事を改めて補...

      • 作中で主人公は女性ですと明言されていない場合、読者が名前・話し言葉・周囲の人間の対応などから判断して女性と紹介してはいけない みたいなこと言ってるな

      • 作中に描写がなくても読者があったと受け取ったなら別にそう書くのは何の問題もない 増田の倫理観が壊れている

      • ・「作中に描写がないこと」を「作品に書いてあるかのように読める断定で書いた」 ・「描写がある」「明示的な記述はなく」という仮定は客観性を持たねばならない ・「直接描写され...

        • 記事の著者です。ごめんなさい、理解力がないのかもしれませんが、あなたの反論にすべて反論できてしまった気がします。 ・まず「「作中に描写がないこと」を「作品に書いてあるか...

          • 本当に著者なのかあ?よくこんな場末の増田で都合よく日記を見つけられらたもんやな タレコミがあったのけ?

          • 私は「鴻巣の「あらすじ」のとおりだと読む」一人ひとりの経験的読者について、「「読み」が閉ざされた」と述べています 横だけど、一体それの何が問題なんだ? 「鴻巣の読みに影...

            • 記事の著者です。二つの水準で問題です。 一つはおっしゃる通りで、実在の人物である作者の母親についての誤解が生じるという点で問題です。大問題です。 もう一つは、鴻巣の行為と...

              • 一つ目については、小説と現実を混同するバカな読者の責任を批評家に押しつけるな。そしてそれは読みを限定云々とは全く次元の違う話だ。増田の書きぶりから「現実での被害を想定...

                •  記事の著者です。  一つ目については、そもそも私は「現実での被害を想定して」一連の記事を書いていないので、読解できなくて当然です。桜庭自身が「実在の人物への加害」と「...

      •  「続・鴻巣友季子の時評は何が問題なのか」(https://anond.hatelabo.jp/20210829124450)の「鴻巣解釈の検討」の項だが、Twitterで鴻巣自身から、その読み筋についてのツイートは削除したので言...

        • 桜庭一樹さんの「少女を埋める」を今頃読み終えて、いろいろ心を揺さぶられる思いがして、この作者の著作を初めて読んだので、どんな人なんだろうとネット検索をしていて、鴻巣友...

    • 私小説であることの問題とは不可分やろ。 桜庭は「現実に家族が虐待していた/されていた」と誤解されることを危惧しているんやからさ。

    • 逆に桜庭の未熟さを強く感じた一件だったな 現実の人間を題材に小説を書けば、対象に対する暴力になるのは当然なのに、いままでそれに気付いていなかったのか、という

      • 私小説が現実に与える影響について作者が責任を負うのはわかるが、第三者が誤読して、いわばデマを振り撒いていることに対して、どうして作者が責任を取らねばならんのか。

        • 元増田が曲解してるだけで誤読とは言えないレベルだもん

          • >また、鴻巣の解釈がどれだけ妥当であるかについては議論しない。 元増田に「誤読」の文言はありません。

            • 横増にはあるし、議論しないといってるだけで元増は鴻巣の文章を曲解してるよ いや、そもそも読まずに適当言ってる可能性もあるか

    • これはなかなかポイントを射ている文章やね。 国語増田がまた激怒あるいは嘆息しそうな ここぞとばかりに「いったん書かれたものを読者がどう読もうが勝手で、作者が文句をつける...

    • 「解釈である部分についてあらすじとして断定的な書き方をすれば、それは小説の「読み」を閉ざしうるからである。」 ・鴻巣友季子の「あらすじ」を読んで「誤読だ」と言う人々がい...

      • で?って感じ。 ・作品を未読の、鴻巣評が「誤読だ」と言われていることを知らない(「うちの地元の高齢者」のような)朝日新聞読者にとって「読み」が閉ざされうることには変わり...

        • 解釈が増えることは読みを閉ざすことにならない 読みを閉ざすことを批判するならそれこそ作者にも読みを閉ざす権利はない

        • ・小説を「未読」の人間に小説の「読み」などなく、閉じるも開くもない。 ・桜庭が「誤読」の訂正を「お願い」するのは理解するが、「私小説だから」は関係がない。私小説だろうが...

    • noteに公開されてるぶんの「少女を埋める」読んだ。 なるほど、冬子の母の「虐めてごめん」というのは、若い頃からずっと妻(冬子の母)が夫(冬子の父)を引っ張る形で家族を運営し...

    • 「ルックバック」のあらすじを書くのに、「タイムスリップする」「パラレルワールドに飛ぶ」「あり得たかもしれない世界を妄想する」と要約するのも解釈と不可分だと思うのよな。...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん