2020-06-18

行きつけのレストラン店長が友人に似ていたことに気付いた話

私は恋愛経験の無い、成人済の一人間です。

十代前半の頃に、親族の知人から軽度のセクシャルハラスメントを受けたことが軽いトラウマとなり、他者に対する恋愛感情性的欲求がほぼありません。

性同一性障害のきらいもあり、普段の振る舞いや趣味嗜好も自分から見て異性向けのコンテンツに寄っています


から話すのは、少し前の話で、私の体験談です。

自分の中にとどめておくつもりだったのですが、客観的に遺しておいたら何かのネタになるかも知れないと思って文章練習を交えて書くことにしました。

これは私の失恋の話です。



ある日のことでした。

私は仕事の休憩時間に、行きつけのレストラン食事をしていました。


このレストランロケーションも内容も悪くないのに、オープンから程ないせいなのか、

昼時にもほとんど来客がなく、座席の1割も埋まっていないような状態がよく見られました。

内装も好みですしスタッフさんも感じの良い方々だったので、潰れてしまっては勿体ないと思い週に何回か通い詰めるようになりました。

他にも、同僚に紹介したり、新人を連れて行ったり、知人と一緒に赴いたり……。

のしたことがどれほど意味があったかは分かりませんが、数週間後にはオープン直後に比べて人の入りはかなり良くなっていました。


それなりに通っていたこともあってか、私はスタッフさんに顔を覚えていただいており、何度か話を振っていただくこともありました。ありがたいですね。

一方私の方もスタッフさんの顔ぶれをなんとなく把握しており、店長さんの判別もつくようになっていました。

ある時を境に、一人でレストランを訪れた際は(ほぼ)店長さんが席への案内やレジなど応対して下さるようになりました。

なんというか圧倒的常連感。実際ちょっと嬉しいものです。

そんなこともあってか、私は以前と変わらず結構な頻度でレストランに通っていました。


なので。それは別に、なんのきっかけもなんの前触れもなかったのですが。

不意に私は、食後のデザートを持ってきて下さった店長の顔が、大学時代の友人に似ていることに気がついたのでした。


すると、なんということでしょう

先刻まで美味しく食べていたランチの味が、全く分からなくなってしまいました。

その日の仕入れ状況によって変わる、こだわりの素材の味も、おつまみの味も、

食前に出してくれるお茶の味も、炊きたての白米の味も、何も分からなくなってしまいました。

のしないご飯を急いで平らげて、お金を払って、店長の「いつもありがとうございます」「また来て下さいね」を背中に受けながら足早に立ち去りました。

席を立つのがあと何秒か遅れていたら、人前にも関わらず泣いてしまっていたと思います不審者! 


おぼつかない足取りで仕事場に戻りつつ、私は思い出してしまった大学時代の友人のことを考えていました。


仮にその友人をDとします。

Dは私から見て異性でしたが、前述の通り私はそういうスタンスであり、趣味も見事に合致しました。学部なども同じだったため、共に行動することが多かったです。

ただDというやつは、正直言って人間的にはかなり「アレ」な存在だったと……私は思います

予定の遅刻は当たり前、無断ドタキャンもありがち。割と短気で、口を開けば悪態ばかり。

聞けば過去に異性関連でこじれたこともあるとか、そもそも揉め事を起こしてダブリであるとか。挙句喫煙者で酒癖も悪いしギャンブルもやっていました。

しかお金がなくて泣きついてくることもありましたし、家族ともめちゃくちゃ不仲で喧嘩が絶えず……。

趣味が合わなかったら絶対関わらないタイプ人間でした。というかぶっちゃけクズ呼称してもおかしくない類の人間でした。

好きな作品イベントに一緒に赴いた際は、長い間訳の分からない場所を連れ回されました。

予告も無しに、お化け屋敷(私は大の苦手)に無理やり連れて行かれたり、終電間近まで愚痴を聞かされたり、散々な目に遭いました。

二度とDと出掛けるものかと腹を立てたことも幾度もありましたが、結局許してしまうのでした。

ここまで趣味の合う人間はいないため、Dという友人を失うのは惜しいと考えていたからです。


なんでそんなやつのことを思い出してしまったのか。

考えずとも答えは出ていました。


私は、食事が美味しかたから、人が少なかったから、良い場所だと思ったから、あのレストランに通っていたわけではなかったのです。

この作品面白いから色んな人にやってほしいと布教する、ファンの鑑みたいなムーヴをしていたわけではなかったのです。

ただ、最初に店に足を運び、私を出迎えてくれた店長の顔が、Dに本当によく似ていたのです。

まり店長の向こうにいるDに会いに行っていただけでした。

そんなはずはないと思いたかったのですが、それが事実だということは私が一番良く分かっていました。

全部繋がってしまったのです。自分の中で。


そうです。全く関係の無い他人面影を探してしまうほど、私はDのことが好きだったのでした。


もうめちゃくちゃ死にたくなりました。

大学卒業から十年近くなるという今になって。私はDのことが好きだから、様々な所行を許していたのだと気付き。

そしてそのことに気付かないまま、こんな日常最中、わけのわからないシチュエーション好意自覚したのでした。

こんなことあるんだな~、と思いながら、その日の夜は泣きながら寝ました。もしこのことにもっと早く気付いていたら私はどうしていただろう、と考えました。

考えても無駄なので考えるのをやめました。

次の日馬鹿みたいに目がめっちゃ腫れました。


もうDとは連絡が取れません。

大学卒業と共にスマホを変えてしまい、その際うっかりメッセージアプリデータ飛ばし、連絡を取る手段がなくなってしまいました。

どこかで生きてると良いのですが。なんだかんだ器用なやつなので、もう結婚とかしてのうのうと暮らしてる可能性も普通にあると思います

元気ならなんでも良いです。


だけど昔のトラウマや、私の性質ものともしないほどの存在は、おそらくもう現れることはないと思います

Dは、事実を羅列すればどうしようもないやつでしたが、私にとっては奇跡みたいなひとでした。

こうして恋愛経験のない私は、恋愛経験を得ることもなく、すとんと失恋したのでした。



件のレストランには結局あれ以来行けていません。

でも、また行きたいとは思っています。美味しいのは事実なので! 本当に! 店長さんゴメンナサイ。


ここまで読んでいただきありがとうございました。



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