はてなキーワード: おこさまランチとは
実施まで1年を切ったことで、最近にわかに軽減税率のニュースを目にするようになってきました。いま話題になっているような規定はずいぶん前から決まっていたことではありましたが、これまで政府やマスコミからの広報は十分でなく、広く国民が知る機会は少なかったといえるでしょう。
軽減税率制度の内容を突き詰めていくと、みなさんの直感どおり「めんどくさい」。われわれ税理士もこんな制度はめんどくさい、やめてくれと思っています。税務署の職員さんもめんどくさいと思ってます、言わないけど。
この面倒臭さの中身について、書いてみようと思います。
軽減税率は「食品」に適用されます(新聞の話はおいておきましょう)。スーパーに並んでいるものはほとんどが軽減対象ではありますが、紛らわしいものも含まれています。例えば次のようなもの。
食品(8%) | 食品でない(10%) |
---|---|
料理酢 | 料理酒 |
ノンアルコールビール | ビール |
みりん風調味料 | みりん |
オロナミンC | リポビタンD |
龍角散のど飴 | 龍角散 |
食品添加物としてのクエン酸 | 掃除用のクエン酸 |
全く同じ物なのに提供の仕方で軽減か標準か分かれてしまうものがあります。例えば次のようなもの。
軽減8% | 標準10% |
---|---|
「テイクアウト」で会計したハンバーガー | 「イートイン」で会計したハンバーガー |
ファミレスのレジで買う食玩 | おこさまランチについてくる食玩 |
屋台で買って近くの公園で食べるおでん | 屋台のカウンターで食べるおでん |
シネコンで買うコーラやポップコーン | カラオケボックスで注文するコーラやポップコーン |
自動販売機で買う烏龍茶 | 居酒屋で提供される烏龍茶 |
農園のおみやげコーナーの果物 | 果物狩りで狩る果物 |
食品の通販 | カタログギフト |
宅配した商品の「とりわけ」 | 宅配した商品の「もりつけ」 |
中身は全く同じものなのです。なのに「食品の提供というサービス」として購入すると標準税率になってしまうのです。このような区分に納得感があるでしょうか。
カナダのように「ドーナツ5個以下は軽減税率」「ドーナツ6個以上は標準税率」、などとなっていないだけマシでしょうか…?
この制度の危ういところは、軽減税率が適用される分野が今後も追加される可能性があることと、税率が二段階のままであるという保証はどこにもないことです。たとえばいま出版業界が軽減税率適用に手を上げています。他にも生活必需品の範囲に入る業界-電気やガス、交通など-が軽減税率適用を目指さないとも限りません。そして、適用される税率が8%とも限らないのです。これは8%、こっちは9%、標準は10%などと。分野が増えたり税率が多段階になれば、今以上の混乱は必至です。
(ちなみに、非課税の取引-医療費や住宅家賃や利息など-を考えれば、今の段階ですでに二段階税率なのです)
軽減税率適用は、業界と政治家が何らかのバーター取引をするインセンティブになりえます。消費税は広く国民が負担する税金である以上、すべからく簡潔な制度にすべきですが、軽減税率に絡むロビー活動はこの原則をないがしろにする懸念があります。
新聞社が良い例でしょう。自身への軽減税率適用と引き換えに、消費税率引上げや軽減税率導入にダンマリを決め込んだのには呆れた方も多いはずです。施行まで一年を切った今になってようやくぽちぽちと記事になり始めましたが、それも些事にとどまり、事務負担やヨーロッパなどでの失敗例については全く触れられていません。軽減税率とバーターに、マスコミ本来の役割である批判を忘れてしまったようです。
消費者とは直接関わりありませんが、会社内部で経理をする方の事務負担は増えます。会社の「売り」も「買い」も、軽減と標準に区分しなければならないからです。そのために販売管理やPOS、仕入や財務のソフトの入替えをする必要もあるでしょう。
SEとしてご苦労されている方もたくさんいるはずです。ソフトウェアや券売機の改修では混乱が生じているだに耳にします。
我々税理士も負担が増えます。一取引ごとに軽減か否かをチェックせねばなりません。税務署の調査官も同じです。
レジなどの販売の現場も大変です。軽減か否かの区分を理解するのはもちろんですが、それ以上にクレームめいた客も懸念されます。「残した分は持ち帰るから軽減税率にしろ」「軽減が適用できる容器に入れろ」。そんな対応をレジのパートの方にやらせるのでしょうか。
軽減税率の先例であるヨーロッパでは、軽減税率は非常に使い勝手の悪い、その割に効果の薄い制度であると聞きます。それが本当ならば、同じ轍は踏むべきではありません。(これサマータイムでもやりましたよね)
長文になりましたが、いかがでしょうか。軽減税率に皆さんが感じている「めんどくさい」が深掘りされ「ほんとやめてくれ」と思っていただければ幸甚です。
まあ、来年の施行日までには公明党さんと新聞各社さんが、国民の納得がいくような説明をしてくれるのでしょう。それが導入を推進した者と批判しなかった者の責任かと思料します。