介護用のITシステムを作っているのだが、取引先やらと話を聞いていくうちに、システム開発側と介護事業者側との間にある認識の違いに気づいてしまった。
基本的に介護職員さんたちは立ち仕事で忙しく、座ってPCにのんびり入力したりスマホに何かを吹き込んだりする時間はない。
PCの場合、お金がなくて1グループに1台くらいしかPCを用意することができず、業務時間終了後に一気に入力しようとして入力待ちが発生するケースが多い。
さらに、スマホをいじっていると訪問している方に「サボっている」と見られかねないので、スマホを使うことに難色を示す。
そしてITシステム側には、PCかスマホどちらかからオンラインで入力するという方法しか基本用意されていない。(最近は「スマホから入力できる」というのをドヤ顔で宣伝している)
後述する”業務手順の変更への拒否反応”が拍車をかけ、システムを導入したはいいが、機能として用意されているものをほとんど使っていない、使う暇がないという状態になる。
たとえばシステムにシフト管理の仕組みがあるにもかかわらず、それは使わずに独自フォーマットのエクセルで管理して印刷して張り出す、というそれまでのやり方を続ける。(そもそもシフト管理機能がシステム側に用意されていても、これから挙げるその他のもろもろの理由で職員間でうまくリレーできないから、そもそも”使えない”機能なのである)
「新しいシステムの使い方を覚えたくない」「今の自分の仕事のやりかたを絶対に変えたくない」
得てしてそういう考えの方は年齢層が高く、職場内で一定の発言権を持っている場合が多い。そしてITリテラシーは低い。
エンジニアが多いはてなーは「老害○ね」と思うかもしれないが、私はこれはIT会社側がロクなシステムを持ってこないということも原因であり、事業者側の立場とはいえ一概に否定する気になれない。
Webサイトから確定申告をしたことがある方はわかると思うが、「これなら手書きのほうが早い」と考えたことがある方も多いのではないだろうか。
今年から(?)スマホでの確定申告の専用ページも用意されていたのだが、スマホ用ページのUIが褒められたものではなく、さらにPC用ページと行ったり来たりさせられ、スマホでPCページの小さい文字を確認しながらの作業となるので、ひどいストレスだ。
介護職員がそれに似た作業を毎日やると考えてほしい。「うちのクソ会社がクソシステムを作ってすみません」と謝りたくなる気分になる。
...とはいえ、「今使っている(施設で独自にフォーマットを作った)シフト管理のエクセルファイルを職員の自宅から見れるようにしてほしい」という要求を聞くと
「いや今あるシステム使ってくださいよ。もしくはドロップボックスでええやん...」
と暗澹たる気持ちになる。
普通の会社でもよくあることだが、経営者が「良い」と考えるシステムと、現場が「良い」と考えるシステムにズレが生じている。
経営者が好きな言葉は「効率化」「共有化」。これはIT会社が売りに出すときの文句と一致する。
一見「効率化」と方向性が一致しているように見えるが、大体のシステムには設備投資が必要で、大体の経営者は多額の設備投資はしたくないと考える。
そしてIT会社側が提案してくるシステムは、多額の設備投資をしないと「効率化」が達成されないものがほとんどだ。
当然だ。PCやスマホが多数ないと「使えない」「真価を発揮できない」システムばかりなのだから。
設備投資をしない(できない)→ 有効に効率的にシステムを使う仕組みが整わない → 現場では覚えることだけが増えて見かけ作業時間が増える
そもそも介護サービスを提供するにあたって、PCやスマホなどはただの文鎮以外の何物でもない。
足が満足に動かない人間を入浴させている最中にどうやってPCに触るというのか?
スマホを使う場合、職員の私物のスマホを使わせるというのも問題だし、紛失しやすく高価なスマホを稼働人数に合わせて新規に調達するなど論外だ。
システムへの出費を決定するのが経営者である以上、これは避けようのない構造的な問題である。
ということで、システム会社側が旧態依然とした「PCかスマホを使うクライアントサーバ型システム」しか提供していないかぎり、当のシステムが目的としている効率化は達成されない。
個人的には、今スマートホームなどでやっているものをさらに三歩くらい進めて
某所でそれ提案したら現場の人にクソミソに言われたんでもうやりたくない というか、Webサービスやアプリはもうあるしなあ… あと、介護事務所はどこも余裕がないだろうから、金払い...
すごくよくわかってらっしゃる!(←現場の気持ちを) いやワイは小売業の店頭販売員やが、全く同じ事情やぞ、なんかしらんけど「覚えないとイカン」から覚えさせられるだけで・・...