2014-02-24

8bit年代ゾルゲ市蔵 感想

http://www.j-comi.jp/book/comic/45521

何の予備知識もなくただのレトロゲー漫画だと思って読んで深い感銘をうけたので感想を書く。(※ネタバレ含む)

1979年からゲームにまつわる著者の少年時代エピソードを細かい小ネタ解説を交えて

進んでいく前半パートは気楽に楽しく読めた。

かい文字が多く読みにくい部分はあるものの、スペースインベーダーを模したおもちゃの詳細な解説は読み応えがあるし、

近所のゲームコーナーのヒーローおじさんやお金持ちの男の子などしんみりさせるエピソードなどは

自分より一回り上の世代ではあるが共感ノスタルジーを感じた。

旧友が岡山弁丸出しでMZ-700ゲーム内容を語るシーンなどのギャグセンスは秀逸であり一気に登場人物に

感情移入してしまうが、その後急に内輪ノリでお友達ゼビウスについて語りだしてしまうのは突き放された印象でちょっと興ざめ。

レトロゲーム史の記録にこだわらず少年時代ノスタルジー漫画として割り切ったほうが、読ませる筆力がありそうである

そのあたりから徐々に自伝的色合いを増し、第10から話が急展開してゲームからアニメ主人公の興味が移ってしまう。

ここから藤子不二雄Aまんが道」並みの怒涛の展開である

3年間アニメ制作情熱を燃やし尽くした筆者を待っていたのは、「まんが道」における「連続原稿落とし事件」並みの絶望であった。

努力はした、けれども能力が足りなかった。でもみんなで頑張ったんだからよかったじゃないか。

そんな自己欺瞞を「オネアミスの翼」に粉々に打ち砕かれるシーンには胸を打たれる。

「どれだけ熱意があっても、どれだけ精魂を傾けても、クズクズだ。ぼくはこの時はじめてそれを学んだ」

この後、この挫折をバネに著者がゲーム業界成功していれば、ゲーム版まんが道」といってもいい希望に満ちた素晴らしい物語になっただろう。

だがその後モノローグはこう続く

「そして、それは最初であって決して最後ではないことをぼくはこの後何度も思い知らされることになる」

アニメフェスティバル手塚治虫に会って、一生かかっても恩返ししたかったのだというエピソードのあと、

現在の著者近況に戻って物語は終わる。希望はなかった。ただ傍観者としてゲーム業界進歩を眺めているというようなラストだった。

おそらくこれはまだ続きを書くつもりなのだと思う。

気になったので著者のその後について調べてみた。

大学在学中に漫画家デビューしたものの売れずその後セガ入社現在フリーライターとのことである

セガで関わったゲーム

セガガガ2001年セガ) - 原案美術設計プロデュース

ASTRO BOY・鉄腕アトム -アトムハート秘密-(2003年セガ) - ディレクションシナリオ・背景グラフィック

ガンスタースーパーヒーローズ2005年セガ) - ディレクションシナリオ・背景グラフィック

ブラック・ジャック 火の鳥編(2006年セガ) - ディレクションシナリオ

サンダーフォースVI2008年セガ) - 企画原案美術設計プロデュース

セガガガセガファンには有名な内輪ネタゲーであり、この人はやはり内輪ネタ本領を発揮するタイプなのかと思われる。

クソゲーとも言われているようだが情熱だけで独善的に突っ走る著者の性格がまだうまく作用したケースなのではないだろうか。

ASTRO BOY・鉄腕アトム -アトムハート秘密-は、火の鳥アトム編を補完するGBAの名作として手塚ファンに語り継がれている。

この実績を持って手塚治虫への恩返し云々というエピソードにつながってくるのだろう。

どの程度関わったのかはわからないが、これが現在のところ著者のゲーム業界におけるハイライトと言えそうである

そして最新のキャリアがあの伝説クソゲーシリーズファンから存在を抹消されているサンダーフォースVIであったことを知って

とてもフクザツな気分になった。情熱だけで独善的に突っ走った結果手に負えなくなり、誰も喜ばない作品が出来上がって

「仕方なかったのだ、これはこれでよかったのだ」と自己欺瞞するしかなくなるという高校時代エピソードとぴったり重なる。

ちょうどこのゲームリリースしたあとにこのパート執筆していたというのだから著者自身それを痛感していたことだろう。

思うにゾルゲ市蔵氏は才能豊かな人である。絵も上手いし、曲がりなりにも高校生で二十数分というアニメを完成させている。

自伝をこれだけ客観的で読み応えのある物語に仕上げる才能は相当なものである

センスが無いのか、悪趣味なのか、思い込みが激しいのか、高校時代エピソードサンダーフォースⅥに関しては

情熱を発揮する初期の段階で方向性を間違えていたと思えてならない。

そのようなタイプ大勢スタッフを引っ張ってプロデュースしていくゲーム制作仕事が向いていないのでは、とも思える。

もっとも、このマンガ絶版になったうえJコミ無料公開してもそんなに閲覧数が伸びていないので、

漫画家のほうが向いているとも一概にはいえないのであるが、なんとか自分の才能を活かせる表現形態を見つけて欲しい。

サンダーフォースⅥを遊んだユーザーから罵倒メールが届いて「トホホ・・・」で終わっていくのはあまりにも哀しい。

二度の大きな挫折を味わった著者であるが、そのまま終わらせるつもりはないようなので、次なる活動と続編に期待したい。

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