久々にWORLDにログインし直すと、いつも見る言葉が視界に映る。
普段はログインしっぱなしのWORLDだけど、最近調子が悪いのでログインしなおしたのだ。
そして知り合いに会いにいく。
昨日からWORLDはこんな感じで、他の人たちは普通に話してるのに、boardでもroomでも私の会話には気づいてもらえないのが続いている。roomでは姿にすら気づいてもらえていないらしい。
全く見知らぬ人と話すのも同様だ。
この世界、WORLDはVRSNSである。バーチャル空間の中に自分や他人のアバターがいて、コミュニケーションを取ることができるサービスだ。
主にboardとroomというシステムがある。boardは近況などを読み書きするシステムで、フレンドの近況なんかも見ることができる。これはバーチャル空間の中にいるならいつでも参照することができる。
一方roomはチャット専用の場所で、roomに集まったアバター同士でチャットをすることができる。趣味のroomや出会いを求める人のroomもあるが、私はまだ学生なので主にクラスメイトたちが集まるroomに入り浸っている。
これだけなら知り合いにブロックされたのかも知れないし、正直心当たりもある。
だが、全く知らない人に話しかけてもまるで聴こえていないし見えていない対応をされるのだ。WORLDの全員からブロックされたのと同等の状態になっている様に思える。
とりあえず、私はサポートAIを呼び出した。自分が置かれている状況について把握しなければ。
呼び出してから秒もしないうちに現れたサポートAIのアバターはそんなことを言った。
昔、システムのサポートを人間がやっていた頃はサポートにすぐに繋がらないのが普通で、その頃の名残りらしい。
サポートに率直に聞いてみた。
「そのご質問にはお答えできません」
「私の姿や声が他の人に見えないし聞こえないみたいだけど、システムの異常?」
「いいえ、異常ではありません。お客さまのその状態は、あと5日ほど続きます」
AIの答えに私は合点する。
この状態になったのが昨日からだから、だいたい一週間のシャドウバンらしい。
私はその苛立ちをAIにぶつける。
「このWORLDは既にコミュニケーションのインフラと化しているのに、他の人と話せないのがどれだけの不利益か分かってるの?」
「しかしながら、お客さまには利用規約の第5条、他の方とのコミュニケーションについての規約違反が確認されました。ご了承願います」
「その質問にはお答えできません」
AIが苦しげな表情のまま言う。
サポートAIのアバターにこういう表情を変える機能が付いてるのは、その方がクレームが収まりやすいかららしい。
私も腹が立っていたが、このサポートAIに怒り続ける気はだんだんと失せてきた。
「まあ、分かった。行っていいよ」
まぁ、正直規約違反扱いされたことについての心当たりはなくもない。ムカつく話だが。
それに、こういった話は具体的な基準をユーザーに悟らせないために、こうした画一的な対応をするのがセオリーになっている。
このまま話を続けても無駄だろう。
サポートAIが立ち去ったあとに、このサポート内容を評価するように促すウィンドウが表示されたが、適当に星1評価にしておいた。
心当たりはある。
最近、そのクソアマはバーチャルアイドルのナンにハマったらしく、クラスメイトが集まるroomで大声で雑語りをしていたのだが、その内容が間違いばかりで聞くに堪えなかった。
私はナンをデビュー時から追いかけているガチ勢だから、新参が大きな顔をしてナンについて語っているのが許せなかった。
そこでナンについての間違いをいちいち訂正していたら、ウザがられて大げんか、結果総すかんを食らったのだ。
WORLDで知り合いに無視され始めたのもこの件が原因だと思ってあまり気にしてなかったのだが、初対面の人とも話せないシャドウバンになってしまうとまでは思ってなかった。
あのクソアマはきっと私をブロックするだけでは飽き足りず、取り巻きを使って通報までさせたのだろう。
それで1週間のシャドウバンになるのは正直納得がいかない。だが、サポートAIの返答はさっきの通りだ。
とりあえず、あのクソアマがどうしてるのか気になるのでクラスメイトが集まるroomに向かってみた。
そこには、わたしが何に怒ったのか全く理解した様子のないクソアマが、あいも変わらず取り巻きに囲まれて、ナンについての雑語りを続けていた。
他にもクラスメイトはいたが、みんな思い思いに話をしていて、私がいなくなったことに全く気づいていない様子だった。
もちろん、私の姿に気づくそぶりを見せる人もいない。
私がこのroomで見えなくなってからもう二日目のはずだ。
普段話す友達のところで会話に聞き耳を立てても、私のことを心配した様子もない。
シャドウバンにまで至ったからには多分クラスメイトほぼ全員があのクソアマの話を聞いて私を通報したと予想できる。
だが、それを後ろめたくも思っていなさそうな様子で明るく話をしている。
他のクラスメイトも皆そうだった。
それにいざ自分がなってみると、何とも言えない気持ちになった。
自分の存在に気づいてもらえない寂しさと怒りが混ざり合った感情だ。
だから、思い知らせなければと思った。
私がここにいるということを知らしめなければ。
WORLDにはスクリプト機能がある。自分がWORLD上で行うルーチンワークをプログラミングして自動化する機能だ。
私はそれを使ってアバター用のアクセサリーの3Dモデルを指数関数的に複製するスクリプトを書いた。
これでroomの負荷が上がり、このroomは強制的に落とされることになる。
これを実行することは当然規約違反だ。
それよりも、自分がいないものとして扱われている現状が嫌だった。
だから、皆を巻き込んでroomをぶち壊して思い知らせてやりたい。
この爆弾スクリプトを実行すれば、このroom内のユーザーは皆自分のアバターが操作不能になって、強制ログアウトさせられるはずだ。
そうすれば、嫌でも皆思い知るはずだ。ここに見えていなくても私がいたということを。
もちろん私も巻き込まれるが、それでいい。
思った通りに強制ログアウトをさせられて、ゴーグルの中で目を覚ます。
WORLDの利用資格を無くした通知だった。
だが、それでよかった。
今ごろ皆混乱しているはずだ。
殆どのクラスメイトはそのメッセージすら無視したけれど、1人だけ、仲の良かったクラスメイトからメッセージが返ってきた。
それで私は悟った。
おそらくではあるが、シャドウバンさせられた私が訪れたroomは本当のroomじゃなくて、コピーされ隔離されたroomだったのだ。
私が爆弾スクリプトを実行したroomにいたクラスメイトたちは、本当のroomからコピーされて映っていた影法師でしかなかった。
だからあのスクリプトの影響を受けず、ログアウトさせられることもなかった。
私は激しい怒りを覚えた。
私はWORLDでどこまでも透明にさせられた。
誰も私に気づかないし、誰も私を気にしてないし、誰も私が起こした事件にすら気づかなかった。
どうして、寂しい、許せない。
そして、WORLDを永バンにまでなった。私はもうこれ以上WORLDに関われない。透明人間どころではなくなってしまった。
もし、爆弾スクリプトの効果と引き換えだったらそれでも良かった。
でも、WORLDの片隅のroomを壊す爆弾スクリプトすら意味のないものに、透明にさせられていた。これでは全く帳尻が合わない。
全て、この世界のせいだ。
私はこの世界にいないことになっている。
だから、私は私の存在を取り戻すために、もっと確実でもっと大きな何かをやらなければと思った。
誰もが私を無視できなくなるような何かを。
私が透明ではなくなるための何かを。
栄養ドリンク飲んだ直後のおしっこってなんであんなに黄色いの?
吸収できなかったビタミンB2の色
ビタミンCも黄色くね?