久しぶりに、伊藤計劃「ハーモニー」読んだんだけど、少し気がついたことがあるので、
間違っているかもしれないけど、書いてみる。
「ハーモニー」のETMLが文法的におかしいのは、生府の検閲から逃れるため。
「ソースを見る」の状態で未来の人類が読んでいる状況を「ハーモニー」は表している。
それで、実は「ハーモニー」はミァハがトァンをかばうために書いた物語だった。
色んな所で言われてるけど、この小説のファイル形式であるETMLは、文法的におかしい。
例えば、箇条書きでタグで両方から囲まなきゃいけない(HTMLなら<li>~</li>)のに、<i:~>と、タグの中に箇条書きの要素を書いたり、
皮肉っぽくQ&Aをしているところでも、<q:~><a:~>と書いていたりする。
それはもう、至る所で間違えている。
伊藤計劃がXMLとかHTMLの文法に詳しくないってことはないと思う。たぶん、わざと間違えた。
じゃあなぜ間違えたのか?
もし、こういう文法間違いがあると、どうなるか。
もしHTMLなら、表示ソフト(ブラウザ、たとえばGoogle Chrome)であいまいに解釈してくれたりするけど、
本来なら「文法がおかしいので表示できません」とか、真っ白いページになるべき。
だから、ETMLの文法がおかしい「ハーモニー」も、ETML用表示ソフトでは何も表示されないことになる。
そうなったら、普通の人は見るのを止めるよね。でも、何人かに一人は、Google Chromeの機能にあるような「ソースを見る」に似た行動をとる。
そうなると、タグがあって読みにくいけど、きちんと文章が表示されることになる。
その何人かに一人に読んでもらいたいために、文法として間違えたETMLで「ハーモニー」を書いた。
そういう、何人かに一人が読んでいる状況を表すために、伊藤計劃はETMLのタグ付きで「ハーモニー」を書いたんだと思う。
そりゃあ、もちろん、ハーモニクス後の世界で、なぜハーモニクスが起こったのかを記録として残すため、だと思う。
もし、ETMLが正しい「ハーモニー」を書いたら、生府の検閲に引っかかって、消されるかもしれない。
だから、ETML表示ソフトウェアに入力しても、何も表示されないようにした。
何人かに一人に気づいてもらえばそれでいいと思って、書いたんだろう。
でね、「ハーモニー」で文法的におかしい部分を読んでいたら、冒頭部分にこんな文章があるのに気づいた。
いまから語るのは、
<declaration:calculation>
<pls:敗残者の物語>
<pls:脱走者の物語>
</declaration>
ETMLのタグの意味はわからないから推測だけど、「declaration:calculation」で数式を宣言してると思う。
で、「pls」は加算記号+で、「eql」は等号記号=だと思う。
となると、「ハーモニー」を語っているのは、「わたし=敗残者+脱走者」ってことになる。
真っ先に出てくるのはトァンだよな。本人がそう気取ってるし。
社会に馴染めなくて、負けるように、逃げるように辺境の戦地に行って、
でもさ、社会的にはトァンは官僚で、しかも本人が言っているように、高級官僚でありエリートだよな。
社会的には敗残者でも脱走者でもない。
じゃあ他に誰がいる?
一人いる。<次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループ>の争いから敗れ、
チェチェンに逃亡した者が。
そう、ミァハ。
この物語は、ミァハが書いている。
死んだはずのミァハが書いている。
すごく謎に思える。
でも、こう考えたらどうだろう?
ミァハは、トァンをかばいたくて、トァンを主人公に物語を書いた。
実は、チェチェンで意識が芽生えたのがトァンで、ヌァザの実の娘がミァハだとしたら。
トァンが、長老たちにハーモニクスをさせたいがために、全世界同時自殺を実行したとしたら。
最大限つじつまが合うように「ハーモニー」を書いたとしたら。
そう思って読むと、つじつまが合わないところがある。
「ハーモニー」は、全部で5日間の物語だよね。トァンがセラピーを受けるまでの猶予期間である5日間の物語。
そのうち、日本で2日、バクダッドで飛行機移動込みで2日、チェチェンで飛行機もろもろ移動込みで1日。これで5日間。
なのにさ、バクダッドからチェチェンに出発する前に日本に立ち寄ってミァハの名刺を取りに戻った、と書かれてる。
バクダッドと日本を往復するだけでもう1日かかるよね。これでは5日間を越えてセラピーを受けることになっちゃう。
時間的に間に合わない。
となると、トァンは5日間の内に実家に行ったことになる。トァンが誰かの家に行ったのは、ミァハの実家だけだよね。
日本やバクダッドのホテルに名刺があるわけないし、飛行機の中にもあるわけないよね。
つまり、ミァハの実家によった時に、トァンは名刺を手に入れたんだよ。
ミァハの実家なのに、トァンは名刺を手に入れることができた。何故か?
「ミァハの実家が、トァンの実家でもあった」とすると、説明がつく。
ミァハとトァンが義理の姉妹だと考えると、整合性が取れることが多い。
例えば、ミァハが13年前になぜ栄養を取らないようにする錠剤を作れたか、について。
錠剤を作るための技術に近かったのは、むしろトァンじゃん。何しろ父ヌァザがWatchMeを作ったんだし。
その気になれば知識はいくらでも入ったはず。でも錠剤を作ったのは、普通の家庭で養女になっていたミァハ。
ミァハがヌァザの養女になっていたら、納得できる。いくらでも知識を得られるし、錠剤も作れる。
もう一つ、なぜ本というデッドメディアを普通の家庭のミァハが持っていたかについて。
普通の家庭では存在も知らないはず。でも、ヌァザの養女であれば、冴紀ケイタでもわかるように、
本を持っていても不思議ではないし、それだけのお小遣いを持っていても不思議ではない。
そもそも名刺の知識もヌァザから得られる。ヌァザがそういう人々とも交流があっただろうし。
そして、ミァハとトァンが義理の姉妹なら、最初の段階で「もしかしたら必要になるかも」と考えて、
あと一つだけ、なぜトァンではなく、キアンを自殺させたのかについても説明がつく。
どちらを殺すか選択するとき、義理とはいえ姉妹であったトァンではなく、キアンを選択した。
もちろん、後から呼び出すことや、行動力の差で選んだという可能性はあるけど、
一番の理由になるでしょ。
最後に、なんで姉妹であることを隠して、別人であるかのように書かれたのかについて。
これだけの殺人事件の内、もしミァハとトァンが義理の姉妹で、かつトァンをかばうために
ミァハが書いているのだとしたら、まずは全世界同時自殺を自分のせいにする。
問題は、残り2件。義理の姉妹のままだと、ミァハが自分の父親を殺害するのは
書いていて受け入れられたとしても、トァンが義理とはいえ姉妹を殺害することになる。
トァンにとって、あまり聞こえは良くない。
そうすると、トァンは、自分の目的を達成するために全世界同時自殺を実行し、
それに紛れて、こともあろうにかつての友人を自殺させ、
DummyMeを入れているから。WatchMeからハーモニクスの命令を実行したように見せかけることができる。
その上で、ETMLのシステムができたときに、「ハーモニー」を書いたんじゃないかな。
自分の思いを達成するためとはいえ、偽の歴史を後世に残すことになるので、
ETML は XML でないかもだけど、SGML の子孫なんじゃないの?DTD あったら、成り立つのでは?よく知らんけど。