2020-11-24

リーゼント」は後頭部のみを指すのか?

一般に「リーゼント」とは、ポマードなどを使って前髪を盛り上げ、側面の髪を後ろに流して固めた髪型のことを指す。

英語圏では、前髪を盛り上げる髪型をポンパドール、側面の髪を後ろに流す髪型をダックテイルと言う。

そのため三つの解釈流通している。

  1. リーゼント」とは「ポンパドール」のことである
  2. リーゼント」とは「ポンパドールとダックテイル」の組み合わせのことである
  3. リーゼント」とは「ダックテイル」のことである

特に近年では「3」が正当で「1」や「2」は誤用だとされることが多い。

事実は奈辺にあるのだろうか。

疑問を持った我々はインターネット大海に漕ぎ出した。

まず「リーゼント」は戦前から存在したようである

以下のブログ引用されている1964年新聞記事には、理容師増田英吉によるリーゼント誕生秘話が書かれている。

http://mudamuda.hatenablog.com/entry/regent

むかし、リーゼントスタイルというのがあった。戦後一世を風びした、流線型のあれ。これを二十代で考案したのが増田さん。

(中略)

ヨーロッパ人にくらべ、日本人は髪がかたいこと。もう一つは「ひたいから頭のうしろまでの距離が短いこと。まあ顔面角のせいなんでしょうかねえ」。あとの方のハンデを克服しようと考案したのが、リーゼントスタイル。前面をいったんふくらまして、うしろになでれば、髪が落ち着く距離が長くなる――これがそのヒントだった。

リーゼントについて詳しく調査された以下の英語記事でもほぼ同じ説が採用されている。

https://neojaponisme.com/2014/10/09/history-of-the-regent/

1920年代後半、東京モダンな街・銀座には、スタイリッシュ若者たちが集まっていた。モボ(モダンボーイ)はワイドパンツにかっちりとしたスーツを着こなし、モガ(モダンガール)は洋装和装ミックスしたスタイルだった。彼らの髪型として、モボはポマードで髪を後ろに流しており、その見た目からオールバック」と呼ばれていた。

1933年東京モダン理髪店は、現代紳士のための次のスタイルを求めていた。銀座とある気鋭の美容師が、サイドを後頭部に流し、高島田花嫁のように前髪を押し上げるスタイルを考案した。エキサイティング外国語名前を探していた理髪師は、それを「リーゼント」と名付けた。

これらの説明によれば、この時点ですでに「リーゼント」は単なる「ダックテイル」ではなく、「膨らませた前髪」と一体になった髪型を指している。

ただし、ここでの「膨らませた前髪」はポンパドールと言えるほど大きなものではなかっただろう。

ちなみに「オールバック」も和製英語で、英語ではスリックバックなどと言う。

一方、Google Booksで検索すると「ポールグラウス」という人物が浮かび上がってくる。

三省堂アメリカンカルチャー』より

1934 (昭和7 )年ごろ、日本リーゼントが紹介された。正しくはその前年1933年6月のこと。当時発行されていた専門誌『美髪』の口絵写真掲載された。これをもってリーゼント流行は'33年に遡る、とするむきもあるが、それは正しくない。リーゼント型、という名前とその写真がのっただけで、はやったわけではない。いや、はやらそうにも誰もその仕上げ方を知らなかったのだ。再びリーゼントが紹介されるのは1936年3月。同じく『美髪』誌上で、イギリスの理髪師ポールグラウスなる人物技術解説を試みた。

グラウス1932年ごろにイギリスの理容雑誌で「リーゼントスタイル」を発表しているらしい。

まり、このグラウスが「リーゼント」の生みの親であるという。

命名者がイギリス人なら「撫で付けた横髪がリーゼントストリートのようにカーブしているから」という日本人離れした命名センスにつじつまが合う気もする。

このグラウスリーゼントは「前髪を横分けにして、横髪は長く伸ばして後頭部へ撫で付ける」というものだったようだ。

「ダックテイル」に近いが、やはり「前髪」の形とワンセットで説明されている。

いずれの人物が考案したにせよ、二十世紀初頭に世界的に流行したオールバックのバリエーションとして、日本では1930年代に「リーゼント」が登場したということになる。

さらに言えば「ダックテイル」が発明されたのは1940年アメリカだというので、むしろ誕生リーゼントのほうが先である

まあ、元となったオールバック自体シンプル髪型から、当時似たようなアレンジは多かったのだろう。

当時の日本で、リーゼントで有名だった人物としては榎本健一灰田勝彦岡晴夫あたりが挙げられるが、いま見れば「前髪を横分けにしたオールバック」といった感じである

ただ、前髪をぺったりと撫で付けたオールバックと比べると、この「リーゼント」の前髪はボリュームがあると言えるのかもしれない。

https://www.amazon.co.jp/dp/B001BBXG4Y

https://www.amazon.co.jp/dp/B01M5DHEU9

さて、リーゼントポマードを大量に使うので戦時中日本では禁止されて退潮したが、戦後すぐにアメリカ兵のファッションを真似るかたちで復活した。

いわゆる「アプレ族」である

https://danshi-senka.com/archives/191

リーゼントヘアで頭を固め、サングラスアロハシャツ姿で第2次大戦後の街中を闊歩するアンチャンたち。無軌道な行動をとるこのような若者たちを、当時のマスコミフランス語アプレゲール(戦後という意味からこのように呼んだ。(中略)彼らのファッションのお手本となったのは、日本に進駐してきたアメリカ兵隊たちのカジュアル服装で、つまり戦後まもなくのアメリカンスタイルの真似をしたに過ぎない。

リーゼントアロハシャツ岡晴夫の影響だともいうが、要するにアメリカかぶれの不良少年といったところである

どちらかと言えば紳士向けの髪型だった「リーゼント」が、この時期から不良文化と結びつけられるようになったのだと思われる。

ちなみに欧米でも「戦争ポマードが統制され短髪が奨励される」→「髪を伸ばしてポマードを大量に使う俺ってワルだろ?」という流れで、ポンパドールやダックテイルが不良の象徴となったという面はあるらしい。

さら1950年代に入って大きな変化が起きる。

イギリスではテディ・ボーイ、アメリカではエルヴィス・プレスリージェームズ・ディーンと言ったように、欧米流行していた「ポンパドール+ダックテイル」というスタイル日本に輸入されてきたのである

特にエルヴィスの影響力は凄まじく、日本でも1958年デビューした「ロカビリー三人男」などがエルヴィスを真似たスタイルで人気を得た。

このときに「ポマードで固めた前髪と後ろに撫で付けた横髪」という共通点で括られて、エルヴィス的な「ポンパドール+ダックテイル」のことを、日本では「リーゼント」と呼ぶようになったのだろう。

まとめてみよう。

以上からすると、「リーゼントとはダックテイルのことである」とは言えないように思う。

少なくとも「ダックテイル」のみをリーゼントと呼んでいた時期は存在しなかったのではないだろうか。

  • 前回の記事はこちら。 anond:20201124190429 テーマ。 「リーゼントというのは前頭部の髪型(ポンパドール)ではなく後頭部の髪型(ダックテイル)のことだ」って本当なの? だいたい...

    • 日本の不良スタイルのリーゼント、海外の人から見るとプレスリーのコスプレに見えるらしいね。 MVのコメントとかで言われてる。

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