2022-07-25

バイト日記

 私が出勤してから5分後くらいに出勤してきたAさんが事務所に入って来るなり、部屋中に新商品の某炭酸飲料臭いが満ちた。最近Aさんは某炭酸飲料ハマっているそうで、この間のシフト中にこっそり某炭酸飲料をお買い占めしていたほどなんだが、毛穴からフレイバー臭いが出るほど飲むとは。某炭酸飲料がとても美味しいとAさんが言うから、先日私もそれを買って飲んでみたが、強烈な臭気のするゲロ甘い炭酸飲料だった。強炭酸水で三倍稀釈してやっと飲める味になったが、稀釈しても臭いの勢いが衰えないのに辟易した。

 Aさんからチェンソーマン』をごりごりにおすすめされたが、「見ないです。」の一言でぶったぎった。『ルックバック』で藤本タツキは not for me とわかったので要らないです。

 五時間シフトのなかで前半三時間は忙しかった。コロナ感染者数が過去最多なんてニュースも、もはや人流を変えることはできないんだな。でも、マスク使い捨て手袋装備で買い物に来ていた慎重派の常連さんたちは来なくなった。

 Aさんの休憩中に一人で店番をしていたら、ある家族連れの客が店の出入口にしゃがんで大騒ぎ。なんか、虫でも落ちていたのだろうか? 当店には時々クワガタが落ちている。その時もクワガタがいたんならその騒ぎもわからなくもない。母親父親に何か指示を怒鳴り、子供達(小6か中学生くらいでなかなかに体格がよかった←普通店の中で走り回る歳じゃねえだろの婉曲表現)が凄い勢いで駆けつける。ギャーギャー騒ぎながら床に落ちた何かにスマホを向けて写真動画を撮っていた。他に客のいない時だったのでほっといた。

 今日は来客数は多かったが飲み物しか買わない人が多くて、おにぎりサンドイッチ惣菜パンもものすごく沢山売れ残った。なのに辛い味のFF商品カップラーメンはよく売れた。

 とある常連お客様最近ビールと一緒にトマトジュースをよく買って行かれるのを見て、

レッドアイ自分で作るのにハマっているのかなあ」

 と言ったら、Aさんがレッドアイって何ですか? というので、ビールトマトジュースで作るカクテルって答えたら、なんか尊敬の目で見られた。Aさんはお酒を一滴も飲まないので、カクテルの作り方を知ってるというだけで異世界の住人に見えるらしい。なお、私もお酒を飲まないのだが、レッドアイを知っている理由はといえば、トマトジュースは大好きでビールは大嫌いなので、レッドアイを初めて見た時にビールトマトジュースを入れるなんて最初に考えた奴は頭がおかしいと思ったせいで強く印象に残り記憶したってだけである。そうでもなければ、カクテル名前なんか現物を見ても秒で忘れる。

 月曜からシフトが大変なことになっている。というのも、今月一杯でバイトを辞めるDさんが、今週からすでにシフトにほぼ入らないからで、そして女子フリーターアルバイトさんもシフトを半分に減らしたからだ。

 女子フリーターアルバイトさんは本当は辞めようと思っていたらしく、オーナーに辞めますLINEを送ったのだが、オーナーが「死んでしまます」とくそ重い返信をしてきたので踏み止まった……のではなく(オーナーの返信がクソ重かったのは本当)、シフトリーダーに辞めない方がいいとアドバイスされたので考え直したらしい。

 で、女子フリーターアルバイトさんが何でバイトを辞めようと思ったのかというと、ガールズバースカウトされたからだった。大分から女子フリーターアルバイトさんがガールズバーで働きたがっていたのは私も知っていて、シフトリーダーがいいじゃんやっちゃえよと背中を押しまくっていたのも知っていたけれど、まさか本当にやるとは。シフトリーダーは、女子フリーターアルバイトさんに「ガールズバー一本だと車とかのローンを組む時に審査下りいから、コンビニバイトと掛け持ちでバイトしたらいいよ」とアドバイスしたそうだ。そんなこと、オーナーにバレたら女子フリーターアルバイトさんは即クビになるだろう。

 AさんがDさん経由で聞いた話によれば、ガールズバーに「スカウトされた」という経緯がなんかおかしい。正しくは、「親切な人の紹介で(県内一の繁華街にある)ガールズバーで働くことになった」というのだそうだが、どうもそのとても優しいという「親切な人」が夜の繁華街跋扈しているスカウトにしてはなんかおかしいのだ。そもそも、このご時世にガールズバースカウトなんかがそこら辺にいるのかというのも謎だけど。

 ともかく、女子フリーターアルバイトさんは優しい親切な人が紹介してくれたガールズバー体験入店に、嫌がるDさんを伴って行ってきたのだが、駅からその店に行く途中で二人組の男達に声をかけられた。女子フリーターアルバイトさんとDさんは「今出勤するとこなんで」と言って断ると、二人組の男達は女子フリーターアルバイトさんに名前は? とか、勤め先はどこ? とか、個人情報を聞き出そうとしてきて、それに女子フリーターアルバイトさんは全部素直に答えてしまった。

 それからガールズバーに着いて体験入店をした訳だが、体験入店開始すぐに例の二人組が来店して女子フリーターアルバイトさんを指名した。そこから客が途絶えることはなく指名をいくつももらって、沢山の給料をもらった。女子フリーターアルバイトさんは、ただカウンター越しに客とおしゃべりしているだけで指名が取れて、自分の飲み代はぜんぶ客持ちで、基本給の他に指名料ぜんぶ貰えて、しかも待機時間も時給が貰えるというし、世の中にこんなにいい仕事があるのかと大喜びで、もはや完全にその気になっているらしい。

 しかし、ガールズバーの全てが悪い訳ではないだろうけど、その店は本当にいい店なのか? というかそもそも、本当にガールズバーなのだろうか? 実はガールズバーの皮を被ったパパ活斡旋業者実態はただの管理売春)だったりしないか? と、私は大いに疑問に思った。そもそも、優しくて親切な人が本当に優しくて親切だったら、10代の女の子にお水風俗仕事を紹介したりはしない。

 シフトリーダーは昔ガールズバーで働いていたことがあるらしいのだが、シフトリーダーや私の若い時代ある意味平和からよかった。そういう所に来る客は所詮普通の男達ばかりであり、普通の男達は本当に「普通」だった。ところが今はどうだろう。普通の男達の間にも普通ではないやり方が共有されている。例えば、女の子のグラスに薬物を混入させる方法とか。そういうのがまるでよくある事のように広まっていて、被害に遭った女の子達の体験だってネットに書き込まれている。

 私だったら若くても今なら絶対そんな仕事はしたくないから止めるけど、シフトリーダーはなまじ自分がそれで痛い思いをしたことがないので、やればいいじゃんカッコいいじゃんと勧めまくってしまう。ま、モテる事が人生価値だと思っているような人だからなあ。

 女子フリーターアルバイトさんが勤めようとしているガールズバーがまともな店であったとして、そんな所に入っても見た目の可愛くてしかもデキる女の子は掃いて捨てるほどいるというのを思い知るだけなので、見た目への拘りとコンプレックスが強すぎる女子フリーターアルバイトさんは、病むだけだろうなと思うが。まあそういうとこがあるから変なのに狙われるのか。

 という話を帰宅後に夫に話したら、そんなん、堕ちる奴は誰が止めようがわざわざ自分で堕ちる道を一々選んで堕ちて行くんだからほっとけば? と鼻で笑われた。

そもそも、そんな話を直接でなく又聞きしてる時点でお前はもうその子に何か言う資格のある奴じゃないし。彼女に言えるのはシフトリーダーとDさんだけだって彼女自身が選んだんでしょ?」

 結局、私がムキになっているのは嫌いなシフトリーダー若い子に選ばれたからで、もう既に敗北してるんだから、醜く嫉妬拗らせてないで、そんな下らないことはさっさと忘れてしまえっていう。軽率に夜の仕事に片足突っ込んでも負け知らずのシフトリーダーの事が妬ましくて、若い女の子が美貌で大金稼ぐのが憎らしいだけないんでしょ? はいはい、オバサンの嫉妬乙。あー、醜いねぇ。

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