2021-10-17

エキノコックス対策としての駆虫薬効果

エキノコックス報道について②

https://note.com/kuma1206/n/n9a5bf1261462

を読んだので勝手に補足する。

"行政野良犬ネズミ対策必要でしょう。「プラジクアンテル」を混ぜた餌の散布も必要になるかもしれません。"

主にこの部分について。

    

・言いたいこと

キツネイヌに対する駆虫薬の投与ではエキノコックスの根絶(清浄化)はできない。

しかし、ヒトへの感染リスクを下げる対策にはなる。

    

以下本文

    

エキノコックスについて

エキノコックスの幼虫はノネズミ類(北海道では主にエゾヤチネズミ愛知県ではまだ不明であろう)の肝臓で成長し、キツネイヌネズミごと捕食され、キツネイヌの消化管で成虫になる。

成虫は消化管で虫卵を生み、キツネイヌの糞の中に虫卵が混ざる。その虫卵をネズミが食べ、ネズミ体内で幼虫が孵化する。

このようなループ感染環という。

    

キツネ糞便に虫卵、ネズミに幼虫、キツネに成虫。この話を読んでいる間だけでも覚えておいてほしい。

ネズミキツネ、二種類の宿主感染があることがとても大事

    

駆虫薬プラジクアンテルについて

キツネイヌ体内のエキノコックス成虫に対する寄生虫用薬としてプラジクアンテルがあり、これはキツネイヌエキノコックスに対してはほぼ100%の駆虫効果がある。

具体的には、経口投与を行うと、感染している成虫が死に、糞便と一緒に排出される。いわゆる虫下しだ。

しかし、エキノコックス清浄化という観点からは不足があり、

    

1.虫卵に対する効果がない

2.ネズミに投与しても幼虫には効かない

という問題がある。

    

1.虫卵に対する効果がない

については、この薬は虫卵を殺す(感染性を失わせる)ことはできない。

虫卵を十分形成している成虫をプラジクアンテルで駆虫した際にも、成虫ごと虫卵が糞便中に排出され、それは感染性を持つ。

なので、元記事にもあるように、プラジクアンテル投与後には、糞便の適切な処理が必要になる。

    

投与してしばらく(次に感染したネズミを食べ、体内で成虫が育つまで)は、虫卵の排出一定期間抑えられる。

プラジクアンテルは経口投与が可能なため、この効果を期待して、定期的にプラジクアンテルをキツネの嗜好性の高い餌に混ぜて散布する事業(ベイト散布)が北海道の一部地域では行われている(後述)。

    

ちなみに、エキノコックスの虫卵は耐性がそもそもめちゃめちゃに高く、そこらの洗浄剤消毒薬ほとんど効果がない。

実験的にエキノコックスを扱う施設では、消毒に高温水を用いて熱で殺している。

一般家庭であやしい糞を処理する場合は、糞に触らず袋で何重かにつつみ、燃えるゴミだろうか。廃棄物の扱いについては詳しくないのでこれ以上は言及しない。

手についた場合石鹸と水でよく洗い、物理的に流すのが最も効果的だと思われる。アルコールをかけても駄目。

水分が多い環境(川・泥・雪上など)では感染性を数か月失わないという研究もあったはず。

    

2.ネズミに投与しても幼虫には効かない

については、現在のところ、ネズミ体内の幼虫を駆虫する手段存在しない。

少し話がそれるが、エキノコックスのヒトへの感染は、「ネズミの代わりに間違ってヒトに感染する」というルートと考えてよい。

まりキツネの糞の中の虫卵をネズミの代わりに食べることで、ヒトは感染しているのだ。

ネズミと同様、ヒトでも薬による駆虫はあまり成功していない(というか、ヒトに対する治療研究の方が盛んにされている。)

      

1.2.を踏まえて、キツネイヌに対するプラジクアンテルを投与を行うと、どうなるかというと……

・投与した飼いイヌについては、エキノコックスの成虫が駆虫される。定期的な投与によって、その後も虫卵の排出を防げる。

 (そもそもネズミを食べなければ感染しないのだが、散歩中に意外と食べてるみたいな話もあるので……)

・ベイト散布によって投与したキツネについては、エキノコックスの成虫が駆虫される。定期的な投与も人手があれば可能

・虫卵そのものについては、効果がない。(環境に数か月残存)

・ノネズミ感染したエキノコックスの幼虫は、駆虫できない。(ネズミ寿命の1~数年は残存)

    

このようになり、卵と幼虫が残ってしまうのだ。

この卵と幼虫は、もちろんネズミキツネ摂食することで、再び感染環が成立する。

      

また、別の問題として、すべてのキツネプラジクアンテルの投与ができないという問題もある。

キツネ縄張りもつ動物で、同じシーズンに限っては同じ場所に同一個体(同一家族)がいるとみなせ、個体数が確認やすい方ではある。

何十個かのプラカンテル入りのベイト散布を縄張り内で行うことで、狙ったキツネへの投与は可能である

しかし、人里離れた地域キツネの数をすべて把握するのは実際のところ無謀であり、すべてのキツネの駆虫は難しい。

      

しかし、逆に言えば、決まった地域で駆虫を行い、ある地域での虫卵の排出を抑えることはできる。

これを目的として北海道の一部で行われているのが、大学キャンパス公園等のキツネと人が接しやす場所でのベイト散布だ。

嗜好性の高い餌にプラジクアンテルを混ぜた餌を、範囲内に定期的にまくことで、その場所での虫卵からヒトへの感染を防ぐことができる。

別の地域には依然としてエキノコックスは残るし、ベイト散布をやめればネズミキツネの移動によりエキノコックスがまた浸潤することとなるが、対処療法的には実績を残している方法のようである

この手法愛知県でも実施可能であろう。

      

結論

イヌキツネに対するプラジクアンテルの投与を行っても、卵と幼虫がときには年単位で残ってしまい、再び感染環が成立する可能性がある。

また、投与漏れがあれば、そこで感染環が維持される可能性がある。一般的に、投与漏れを防ぐのは難しいのではないか

    

一部地域プラジクアンテル入りのベイトを散布する方法は、エキノコックスの根絶こそはできないものの、

対策としては実績もあり、有効なのではないか

      

(余談)

愛知県はどうすべきか?

愛知確認されているエキノコックスは野犬からのみの検出であるが、同じ地域キツネもいるため、キツネ検査を行うことが望ましい。当然動いてるとは思うが。

ちなみに、エキノコックスネコ、タヌキに感染しても感染性のある虫卵を形成できないことが知られている。(ネコは一例だけ例外があるが、基本は安全とみてよい)

    

また、中間宿主のノネズミの種が不明であるため、ネズミ捕獲調査必要

北海道では、街中にはいないエゾヤチネズミ感染環のメインなので、都市部に住むキツネ比較感染環が成立しづらいという意見を聞いたことがある。

しかし、愛知での状況は不明であるので、確認したい。また、都市部に住むネズミ(ドブネズミ等)もエキノコックス感染例はある。

    

感染範囲が狭いのであれば、もしかするとベイト散布だけで清浄化できる可能性もある。

理論上、すべてのイヌキツネに定期的にプラジクアンテルを投与し続けることで、

成虫を排除し続け、虫卵とネズミ体内の幼虫の絶滅を待つという形はとれるかもしれない。

これは単なる想像で、実績があるわけではない。

    

十分感染が広がってしまっている場合は、現状では清浄化は難しい。

例えば、イヌキツネエキノコックスワクチンの開発等が必要であろう。

    

愛知県民はどうすべきか?

記事にもあるが、エキノコックス北海道中に広がっているのに、年間の感染者は20人程度に過ぎず、発症したものを放っておけば死亡するにもかかわらず、死亡例もほとんどない。

(その前に肝機能障害病院にかかるような気もするが)

これは疫学的にはなかなかすごいことで、wikipediaによるとエキノコックス症の全世界での発生率が10万人あたり1人程度であるにもかかわらず、

北海道での感染率が10万人当たり0.5人以下しかないということになる。なんとエキノコックス症が発生していない地域も含めた全体より低いのである

(発生と感染を同等に扱っているので厳密には違うが、エキノコックス場合はそんなに変わらない数字になるはず)

    

これについての主な理由としては、北海道民のエキノコックスへの理解の高さがあるとされている。

まり、沢水を飲まない、キツネに触らない、山菜などはしっかり洗う、といった啓蒙成功している例である

また、スクリーニング検査自治体によっては無料で受けられ、山に入るような人は検査を受けているようだ。

検査の精度は高く、エキノコックス症のヒトでの経過が非常にゆっくりであることから10年に1回程度検査をすれば問題ない。

    

愛知県民も同様に、正しい知識の取得と啓蒙が現状では最も重要であろう。

手を洗おう。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん