2021-07-16

初恋が終わった話

好きだと気づいたのはクラス替えの後だった。

小学5年生でクラス替えをした時、アヤトくんとクラスが離れ離れになってひどく落ち込んだ。

そこでわたしはアヤトくんのことが好きだったんだと自覚した。

特にかかわりのないまま夏を迎え、校外学習に行く準備が始まった。もう10年以上も前のことなので記憶曖昧だが、なぜかご飯時間に私の班だけがアヤトくんのクラスと合同でグループを組むことになって、たまたまアヤトくんと同じグループになれた。

一緒にカレーを作ってる写真卒アルに載っているので卒業後もたまに見返したりしてた。

放課後に通っていた書道教室が一緒だったので、たまに書道教室で会うことが密かな楽しみだった。

5年生の時はそれくらいしか思い出はなく、ひっそりと思いを抱えたまま6年生になった。

6年生になると、またアヤトくんと同じクラスになれた。毎日楽しくて、勉強なんか身に入らずアヤトくんだけをみていたし、2日間会えなくなるから金曜日が大嫌いだった。

告白も何も出来ないまま時間けが過ぎていった。

そもそも、付き合うことの意味も分かっていなかったわたしは、気持ちをどこに向ければいいのかもよく分かっていなかった。

それでもアヤトくんの優しさに触れる度に好きでどうしようもなくなっていた。

私は漢字ドリル計算ドリルを進めるのが好きだったのでみんなより早く1周して、勝手に2周目を進めていた。そんな時、アヤトくんも同じく2周目に進んでいることが分かって、なんとなく、どっちが先に2周目終わるか勝負ね!なんて言って幼いながらも接点を増やしていった。

ほとんど同じくらいのペースで2周目がおわって、私たちドリル3周目を迎えた。もはやドリルへの執着ではなくアヤトくんへの執着だった。

3周目がおわるころに、担任が私とアヤトくんの異常なスピードに気づいて、クラスメイトの前で褒めてくれた。どっちが先に3週目終わるかな?と先生が言ってくれて、先に終わったら金ピカのシールをくれると言った。金ピカのシールなんて別に興味がなかったけど私とアヤトくんだけの特別勝負が公になって嬉し恥ずかしの気分だった。

もうすぐ3周目がおわるころ、アヤトくんはなぜかスピードを落としてしまった。そして私は先に3周目を終えて金ピカのシールをもらった。

何も言ってなかったけどアヤトくんはわざと負けてくれたんだと思う。その優しさでまた心がぎゅっとなった。

アヤトくんはこんなに優しいから、結構人気な男の子だった。クラスメイトの中には他にもアヤトくんのことを好きな子がいた。

の子は、3年生の時に理科でアヤトくんが作ったモーターカーを間違えて踏んで壊してしまったらしい。小学生にとって、自分作品を壊されたら阿鼻叫喚してもおかしくないが、彼は笑って許してくれたらしい。それで好きになってしまったと話を聞いた時、私もまた好きが大きくなってしまった。

そうこうして卒業の時期を迎えた。中学も同じなので特別寂しさはなかったが、アヤトくんと1番近くで話せたのはこの時期が最後だった。

3月11日卒業式が間近に迫った寒い日だった。

帰る準備をしてる頃、視界が揺れた。

人生で初めて経験した大地震だった。

花瓶も、窓ガラスもわれ、ガタガタと物音が落ちる音とみんなの叫び声が響いてこわくてこわくて仕方なかった。

揺れが落ち着いてグラウンド避難する時、怖くて立ち上がれなかった私に、アヤトくんは手を差し伸べてくれて一緒に歩いてくれた。

この日がアヤトくんの一番近くに居れた日だった。

卒業して、中学生になった。

サッカー少年だったアヤトくんはなぜか帰宅部になっていた。帰宅部の怖そうな友達とつるむようになったアヤトくんをみてなぜか寂しくなった。

ほんとはアヤトくんめちゃくちゃサッカー上手いのに、なんでってずっと思ってたけど聞く勇気はなかった。

クラスも遠くて接点もなかった。しばらくして放課後にアヤトくんのクラスに用があって行ったら、アヤトくんは髪を伸ばしてチャラくなっていた。そしてリュックにはピンクのよく分からないキャラクターキーホルダーを着けていた。その隣に全く同じキーホルダーを着けている女の子がいて心臓がばくばくした。

一瞬で彼女だと悟った。

中学から一緒になった、出会ってそんなに時間もたってない子にいとも簡単に取られてしまうことを初めて学んだ。思いの長さは強さじゃないんだと知ってどん底に落ちた。

この彼女は私とアヤトくんがドリル競争を繰り広げてたことなんてなんも知らないのに、もう彼女になれてるんだ、ってよく分からない嫉妬をした。

結局アヤトくんへの気持ちを諦められないまま中2になった。アヤトくんは彼女と別れたらしい。

それでも自分から告白する勇気はなかった。

ずっと好きだと思いながら何も言えず、冬になった。

バレンタインを渡そうとして渡せなくてゴミ箱に捨てたのも確か中2の冬だった気がする。

同じ頃、修学旅行で隣の部屋で恋バナしてるからおいでと言われてるんるんで向かうと、ギャル女の子がベッドの上で楽しそうに話をしていた。

「それでー、ちゅープリ撮ったの!」

そう言ってギャルは顔を赤くしていた。

キスなんてしたことない私は、ギャル大人に見えて仕方なかった。その後まもなくしてちゅープリを見せてもらうとアヤトくんが映っていた。

その後の記憶はほぼない。帰りのバスは心が虚無だった。もうあの頃のアヤトくんはいないんだとわかって、それなのに自分はあの頃で止まっているのが悲しかった。

中3になると塾が忙しくなって、次第にアヤトくんのことを考える時間はほぼ無くなっていった。

アヤトくんの志望校すらも知らなかった。

でも、6年生の時にあれだけドリル一生懸命やってたんだから勉強は嫌いじゃないだろうしそれなりの高校に行くんだろうなあと思っていた。

卒業間近に、アヤトくんが市内のバカ高に進むと知って、ああそうか、と思った。

もう何もかも変わってしまったんだと思った。

高校に入って、私は別の人を好きになった。

アヤトくんのことはもう頭の片隅にもなかった。

時は経って、

18歳になるころ、アヤトくんはデキ婚した。

大学には行かず、就職して養っていくらしい。

もうずっと別の世界人間になっていた。

アヤトくんがパパか。そう思ったものの羨ましいの感情特になかった。

私は都内大学に通い、それなりに自分生活を楽しんでいた。成人式でアヤトくんに再会すると「俺の事覚えてないよね〜?」と声をかけられた。いや、覚えてるよ!と話して、今私は大学に行ってるよ、と話したら別の世界にいる人を見るような目で「すげ〜な!しっかりしてるんだな」と言われた。

それからまた時が経った。

アヤトくんは離婚したらしい。

ふーんくらいにしか思っていなかったが、意外なところでまた再開する。

出会いがなくマッチングアプリインストールして適当スワイプしていると、アヤトくんがいた。

同い年なはずなのにすっかりおじさんになったアヤトくんの姿があった。

子供もいるし結婚歴もあるのに、結婚歴も子供がいることも隠したプロフィールになっていて心底引いた。

わたしはこんなおじさんが好きだったんだと思うとどうしようも無い気持ちにおいやられた。

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