MMD界隈の人がMMD用に配布している3Dモデルデータ(通常人型をしている)やモーションデータ(通常、3Dモデルをダンスさせるためのデータ)がVRChatのアバター(VRChat内でのプレイヤーの外見)へ流用される問題が起きている。
ググってもらうのが一番早いのだが、MMDというのはMikuMikuDanceの略で動画作成用のフリーソフトの名称である。名前の通り、要は初音ミクが歌って踊る動画をだれでも作れるという代物だ。この「初音ミク」は好きなキャラに置き換えることができる。いわゆる二次創作な3Dキャラ(MMDではモデルという)が歌い踊るところがみられるわけだ。どうせ伝わらないけど、これをVRで観るとほんとすごい。
最近の音楽動画が「作曲者」「演奏者」「歌い手」の分業でなされるように、MMDも「モデル」「モーション」などと分業されている。モデルを作った人は自分が作ったモデルが踊っているところが見たいのでそれを(しばしば条件つきで)公開する。
この「公開されている」データがVRChatに無許可で転用される問題が相次いでいる。VRChatでは「アバターワールド」というものがあり、誰かがそれをアップロードすればすべてのユーザーがそのアバターを使用することができる。つまり「誰か」が無許可アバターを含むアバターワールドをアップロードすれば、無許可アバターはあっという間に大人数のアバターとして使用される。VRChatでは「記念撮影」のようなことが可能で、それをSNSにアップロードしてはだれかがモデル製作者に通報するというイタチごっこが続いている。
なお、この騒動で「二次創作」と「二次的著作物」を混同している向きが非常に多いが全くの別物である。以下でも区別して論じるので留意されたい。
ここで、MMD界隈では多種多様なモデルが公開されている点が肝要である。MMDモデルのほとんどは二次創作だと思っているが、念のためここで
という風にモデルを分類してみる。
①については議論の余地なく濫用する側が悪いだろう(ただし二次的著作物の権利は著作者も有する点は注意が必要である)。おそらく問題になってくるのは②と③の場合。
著作権法は親告罪なので「権利は与えないけど訴えることもしないよ」と表明することができる。②の場合がそれで、モデラーは二次創作物であるところのモデルを頒布することができるが、その権利を主張することはできない※。だからといって私は「二次創作者は文句を言うな」と言いたいわけではない。法的な権利こそなくとも、自分が汗水垂らして拵えたモノ(3Dモデル)を他人が我が物で勝手に使うことが面白いわけがない。私もモノづくり屋の端くれとして心中察するに余る。
特にMMD側の人は「自分の作ったモデルを知らないオッサンが着て女子会をしている」状況に生理的嫌悪感を抱いているようにも見える。想い入れがあるからこそ二次創作をするのだろうから分からなくもない。
なお、二次創作物に対しても著作者は当然に権利を持っているので、モデル製作者の権利を問わず二次創作物の使用は原著作者の権利を冒している可能性が高いことはVRChat界隈においてもっと周知されるべきだろう。逆に「原作者の権利が!」と言いすぎるとMMD界隈は自らの首を絞めることになる。MMDでの著作物の取り扱いにおいて、今までかなりグレーな運用がなされてきたのはもはや公然の事実であろう。
ここで残念なことに一定数のVRChat界隈の人が「法的権利もないのに吠えるな」と開き直ってヘイトを買っているのを見かける。逆に、存在しない法的権利を主張してヘイトを撒き散らしているMMD側の人もあるようで、おそらくこの辺りがこの問題の本質だろう。互いに法的拘束力がないということは、つまりはモラルの問題である。お互いに尊重しあいたいところである。
③が非常に微妙である。ひょっとすると「MMDの中だけだから」ということで特別にお目こぼしをいただいているパターンもあるだろう。だがVRChatではセクハラまがいや疑似性交などもできてしまう。原作者がこのことに気づき、MMD界隈もろとも焼き尽くす可能性がある。②にしても同じである。「いやーそれはちょっとマズいんでやっぱモデル公開とかやめてもらえますかね?」となりかねない。
そしてもう和解の時は逸してしまったかもしれない。詳細は伏せるがMMDのモデルデータ達はすでに世界中にばら撒かれてしまった。日本人オタク同士ですら分かり合えないのに、どこかの知らない外国人に日本の同人文化の機微を察しろという方が無理筋である。大変残念なことにMMD界隈の人がひっそりと営んでいたパーティーは終わりの刻を迎えつつあるかもしれないのだ。
非常に厳しい状況になってはしまったが、諸問題の円満な解決を祈るばかりである。
※二次創作は原作の著作権法上の「複製、翻案、変形、脚色(以下、翻案等とする)」であり、それらの権利は原作者が「占有」すると著作権法に明記されている。つまり翻案等には原作者の許諾が必要であり「原作者が文句言ってこないから、これは俺の著作物」とはならない。