「ネット右翼/ネトウヨ」なる言葉が語られるようになってからかなりの時間が経ちますが、その間にネトウヨに対する揶揄の言葉というものがいくつか生まれ定型化してきました。
この記事で書かれている「そんなに韓国韓国って、本当は韓国が好きなんじゃないの?」「偶然日本人に生まれて、日本人という以外誇れることが何もないんだろ」というのはその代表的なものだと言えるでしょう。
はっきり言ってこういうのはあまり褒められたものではないです。「あなたの言っていることは間違っている」と発言それ自体について反論するなら批判として成立しますが、そうでなく発言の裏にあるものを勝手に決めつけてそれについてあーだこーだ言うというのは単なる揶揄にすぎない。「サヨクは反権力気取ってる自分が好きなだけ」とかそういうのと同じです。
そしてこの手のネトウヨへの揶揄が孕む問題というのは他にもありまして、というかこちらが本題なんですが、こういう揶揄って「ネトウヨ=底辺の負け組」という認識が前提になってるんですよね。まさにさきほど引用した「日本人という以外誇れることが何もないんだろ」なんていうのはその典型。
まあこれも無理ないことで、これまでネトウヨについての分析として「負け組の社会への不満が近隣諸国に向かっている」「持たざる者が日本人であるということにプライドを見出している」というような語りがされることが非常に多かったわけです。
これについてはいくつか理由があると思いますがとりあえずここではおいておきます。
問題は実際のところどうなのか、です。本当にネトウヨは負け組ばかりなのか。これについては批判的に見る必要があるのでは、と思います。
『日本型排外主義―在特会・外国人参政権・東アジア地政学― 』(樋口直人)について
実はここで紹介されてる本は読んでないんですが、興味深かったので少し引用します。
“まず最初の筆者の主張は、「欲求不満を抱え、下方へ転落し、社会の縁辺にある者が担い手になる」というのが誤りであり、さらにそれを社会病理の範疇で捉えるのは間違いであるということ。在特会の構成員も、桜井誠のように高卒で非正規雇用というような人はむしろ少ない。経済的には、どちらかという「中産階級」が多いとのこと。日本の在特会の調査でも、社会階層の共通点ではなくむしろそもそもあった保守的なイデオロギーの共通点が特長的。安田浩一が『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』 で描く「しんどそうな人々」(経済的・精神的においつめられた人)というイメージも無理があるのではないかというところから始まる。”
ネット上でネトウヨ丸出しの発言をしている有名人が何人かいます。「ネトウヨレベル」なんて言われたりしてますが身分を隠して匿名で書きこんだらネトウヨとしか思われないんで「ネトウヨレベル」ではなく「ネトウヨそのもの」です。ではその人は社会の底辺なのかというと、東大を出て大蔵省に入って議員になった人だったり航空自衛隊のトップに上りつめた人だったり、底辺どころかエリートなわけです。つまり、ネトウヨになる理由を不満や生きづらさに求めるのはちょっと無理がある。個人的な実感でも「ネトウヨ=底辺」という印象はなく、これまで実際に出会ったネトウヨ的な言動をする人の中にいかにも生きづらそうな底辺の人というのはまるでいません。
おそらく、ネトウヨ底辺説については誤りであると言ってしまって構わないのではないかと思います。ネトウヨ若者説についても同様で、世代はそこまで重要なファクターではない。
そして更に踏み込んで、社会情勢とネトウヨの台頭を結びつける言説自体がそもそも間違っているのではないか、ということをここでは主張したいと思います。ネトウヨが増えているという社会の変化を他の社会の変化の反映であるとする発想そのものが間違いである、ということです。心の闇というのも関係がない。
アポロの月面着陸はでっち上げであるという説があります。子どもの頃、僕はこの説をテレビで知って、そして信じてました。
でっち上げ論者はいくつもの疑問をアポロの月面着陸につきつけます。そのうちのいくつかを紹介しましょう。
・月面には空気がないはずなのに旗がはためいているのは何故だ?
・写真の中で影の方向や長さがバラバラなのは何故だ? 光源が複数あるのでは?
・宇宙飛行士は月面で宇宙服を着たままカメラを操作したようだがそんなことは可能なのか?
・月に行くまでには大量の放射線を浴びるはずだがそれを防護する技術が当時あったのか?
・アポロ計画以後アメリカが地球軌道の外に人類を飛ばしていないのは何故だ?
これはほんの一部で月面着陸への疑問点は他にもたくさんあります。ここでは文字だけなのでちょっとピンとこないかもしれませんが、これがテレビで画像や映像を参照しながら語られるとかなりの説得力を感じてしまうわけです。そして「月面着陸は冷戦の中アメリカがソ連に対抗するためにでっち上げたものであり月面着陸映像はスタジオで撮影されていた!」という結論に「なるほど!」と納得してしまう。一応筋が通ってますから。
念のため断っておくとこの月面着陸捏造説はトンデモの類です。少し調べるだけで上記の疑問への答えは出てきますし、大真面目に唱えたら馬鹿扱いされるんで気を付けてください。
さて、この月面着陸捏造説ですが、これを信じる人を分析して心の闇だとか社会への不満だとかそういったものが出てくるでしょうか。普通はノーでしょう。これを信じてしまう人は単に騙されただけで、その人が騙されやすいか騙されにくいかというのは関係があるにしても社会がどうのこうのというのは関係がない。騙されやすい人はあらゆる世代、階層にいますから世代や階層もあまり関係がない。ネトウヨもこれと同じなのではないかと思うんです。
つまり、右派プロパガンダ・修正主義デマに騙されたらネトウヨになるという単純な話なのではないか、ということです。
もちろん、月面着陸捏造説との違いはあります。月面着陸捏造説の先に反米感情は用意されていませんが、修正主義デマの先には嫌韓・反中感情が用意されています。これはひとつのパッケージとしてある。実は嫌韓・反中感情があるからネトウヨになるのではなく、ネトウヨになる過程でそういった感情が「注入」されるというのが実際なのではないか、というのもここでの仮説です。
この感情との結びつきの有無の違いは月面着陸捏造説は広がりを見せないのにネトウヨ言説は広がりを見せるという違いを支えているものだと考えています。
まあなんにしろ、「南京で30万人虐殺されたというが当時の南京の人口はそんなにいなかった! だから南京虐殺は捏造だ!」とか言い出すネトウヨのことを僕は「大気がない月面で星条旗がはためいている! だからこれは地球のスタジオで撮影されたものでアポロは月に行っていない!」とか言い出す人と同じ人種として見てますし、「韓国ってこんなにひどいんですよ! ちゃんと勉強してください!」とか言って国民の知らない反日の実態とかアフィブログとかのURL貼る人については「アポロの月面着陸は捏造なんですよ! あなたは騙されてるんです!」とか言って怪しげな個人サイトのURL貼るようなアレなことしてんなあというそういう目で見てますはい。
自分の気に入らないものにとにかく「サヨク」のレッテルをはるところからして お前がネトウヨなだけだと思う
自分の気に入らないものにとにかく「サヨク」のレッテルをはる どの部分?