はてなキーワード: ベイジアンフィルタとは
先日、引越しをした。引越し先の駅前にはバス乗り場があり、そこからシャトルバスに乗ることができる。ヨーカドー行きの無料バスだ。
ヨーカドーは駅前から15分の少し離れた場所にあるが、かえって住宅地に近いといえる好立地だ。ここには衣類、食料品、生活雑貨はもちろんのこと、薬、化粧品、書籍、CDやDVD、美容院、歯科、眼科、クリーニング、靴の修理、マッサージ、旅券の購入など、生活するうえで必要なありとあらゆるものが集積されている。 若者はヨーカドーの中のゲームセンターでプリクラを撮り、ヨーカドーの中のボウリング場でデートを楽しんでいる。家族連れはヨーカドーの中のマクドナルドでハッピーセットを注文している。爺さんはヨーカドーの中の保険屋で50歳から入れる保険の説明を熱心に聞いている。ヨーカドーには生活の全てがある。
昔は個人商店や中堅の商店も近所にあったと聞くが、ヨーカドーの出現が全てを変えてしまったようだ。ヨーカドーの裏手にまわると、かつてスーパーマーケットであった廃墟や、かつて薬局だった跡地が残されている。
駅前から少し歩くと中堅のスーパーマーケットもある。実際、仕事帰りの買い物はこちらの方が便利だ。しかし、スーパーで買い物をすると、買い忘れをすることがままある。帰り道にはセブンイレブンがある。少し割高だが、スーパーに買い直しにいくよりはるかに便利だ。スーパーから自宅までの経路はいくつかあるが、その経路上には必ずセブンイレブンが出現する。どうも周到に出店計画が練られている気配がある。駅前徒歩0分の位置にもセブンイレブンがある。駅から帰ると、セブンイレブンの前を必ず1回は通過する。
ヨーカドーとセブンイレブンにライフラインを握られている。生活をしていると、たいていこのうちのどちらかに世話になる。どちらもセブン&アイHDの子会社だ。
とても厄介なことになっているのではないか、と思う。
店舗にはカメラがある。防犯カメラだ。防犯カメラの映像は普通、ハードディスクに記録されている。要するに、コンピュータに接続されたカメラが店舗の至る所に配置されている。俺らは犯罪者ではないが、否応なしに記録される。それが安全を担保していると俺らは知っている。だから受け入れている。
今、映像をチェックしているのは警備員。コンピュータではなく、人が見ている。
ところで、あらゆる経費の中で最も高いのはなんだろう。人件費だ。
だから、映像を監視するのはまもなく人ではなくコンピュータになるだろう。そんなことが可能だろうか? と思うだろうか。可能だ。
迷惑メールの検出に使われている、ベイジアンフィルタというアルゴリズムがある。ベイジアンフィルタはメールに何が書かれているのか、ということを理解することはできない。日本語は理解しないし、英語も理解しない。だが日本語や英語で書かれたスパムを検出することができる。ベイジアンフィルタがやっていることは単純だ。単語にスコアを割り当て、スコアが一定の値を超えると「どうやらスパムっぽい」と判定しているに過ぎない。とても単純だが、効果は抜群だ。
同じことを映像にも適用できる。犯罪者はたいてい現場を下見する。滞在時間、店内での移動距離、買った物の種類、など、精緻に見れば必ず異なるパターンが現れるはずだ。今時、コンパクトデジカメですらリアルタイムに顔認識するくらいの芸当はできる。SONYのは笑顔すら判定できる。企業で持っているサーバではもっと精密な分析ができてもちっともおかしくない。今ある技術の組み合わせだけで、「犯罪予見システム」を作ることはそう難しくはないはずだ。
もちろんアルゴリズムはミスをする。スパムフィルタも俺の母ちゃんからのメールを迷惑フォルダにぶち込む。だが、ほとんどの場合、誤検知は問題にならないはずだ。少しばかり余計にセコムさんを呼び出してしまっても、ほんとうの強盗が現れたときにセコムさんがいてくれたほうがいいはずだ。案外、おにぎりやお弁当を買ってくれてチャラになるかもしれない。
「万引きGメン」も不要なコストだ。そのための人を雇うくらいなら、カメラを増やして不法行為の現場を撮影し、アルゴリズムでアラートを上げたほうがよい。絶対に人件費より安くつくはずだ。証拠の写真さえ押さえることができれば、たとえとり逃しても、犯罪者は二度とセブン&アイHD傘下の店の敷居を跨げない。入店した途端に、犯罪者データベースと顔認識の結果のマッチングを行えばよいだけだからだ。
このように、俺たちの生活をコンピュータに接続されたカメラが取り囲む世の中が出現するのは規程路線だ。俺は10年ほど前に「エネミー・オブ・アメリカ」って映画を見て、「アメリカやばいはww」って笑ってた。今この映画を見ると、もはや単なる現実に過ぎないから、「何がすごいの?」ってなるだけだと思う。でも、この映画ですら、生活のシーンの大半を撮影するカメラを私企業が握るとは予見していない。
俺たちは、ヨーカドーとセブンイレブン、セブン&アイHDにライフラインを依存している。セブン&アイHDはカメラを持っている。サーバも持っている。
おそらく、短期的には、とても便利なサービスが次々と出現するのではないかと思う。
さきほど、顔認識について触れた。カメラは映像から人間の特徴を識別できる。これは今では簡単なことだ。もう少しソフトウェアが進歩すれば、「この人は何を見ているか」、「この人は誰を見ているか」くらいは判定できるだろう。ひょっとすると、とっくの昔にできているかもしれない。人が誰を見ているか、何を見ているか。それがわかる。
セブン&アイHDはそれをリアルタイムに握る。人間関係をそれとなく掌握できるということだ。「何を見ているか」もわかるはずだから、趣味の傾向などもわかるだろう。
ところで、「犯罪予見システム」の可能性について触れたが、ソーシャルグラフを使ってこの技術を適用するとどうなるだろう。
「過去のソーシャルグラフの傾向と照らし合わせると、そろそろこのカップルは結婚しそうだ」
「この人たちは住んでいる場所も違うし、今まで出会ったことは一度もないが、食べ物の趣向や映画など趣味の傾向が近いから、結婚すると70%の確率でよい家庭になりそうだ」
未だかつてない高精度で相性のマッチングを行うことができる。ほかにも、それこそTwitterやFacebookなどと連携してもっとデータを預ければ、もっと素晴らしいサービスが実現できるだろう。
とても便利。だからきっと俺らはこれを受け入れるだろう。防犯カメラを受け入れたように。
もう少し、掘り下げてこのシステムの応用を考えるとどうなるだろうか。「過去の事例」が蓄積していくと、アルゴリズムもどんどん賢くなり、予見できる物事の対象が広がっていくはずだ。ヨーカドーがもっと儲かれば、就職、レジャー、冠婚葬祭、ありとあらゆる局面で「予見」や「マッチング」が可能になるだろう。それがもたらすサービスが便利なら、俺たちは最終的にはそれを受け入れてしまうだろう。
俺にはそれのもたらす行く末がどうなるのか、見当がつかない。
これって健全?