今日も両親は酒に溺れて夢の中にいる。現実と妄想と夢の中でフワフワと漂い、喧しくわめきたてたり、泣いてみたり、歌ってみたり、交わってみたり。元気なことだ。
前の父親は酒を基本的には飲まなかったし、夜に営むときはホテルに行っていたらしい。そちらの方が静かでよかったなと思う。
別に前の父親が好きだったわけではない。離婚したことに不満などあるはずもないが、今となっては最早、そこにどんな感情が介在していたかも曖昧で、目を凝らしてもその残滓すら見えてこない。彼に対しての感情は「無」に近い。だがしかし、前の父親だった彼は、あの人は、ひょっとしたら今までの4人の親の中では一番、まともな人間だったのではないか。時折そう思うことがある。ただ1つの欠点は、義理の娘に手を出し、高校に入るまでそれを続けてしまったことだ。
その人が好きだった、泣いていたら笑いを持ってきてくれた男の歌を聞いてみたが、母親にバレてイヤホンを千切られた。友達に誕生日プレゼントとしてもらったイヤホンだったのだが。
母親をみているとよくもあんなに怒っていられるものだと感心する。怒りの原因が身近にいたら仕方がないのだろうか。……単純に、自分の感情と境遇に酔っているだけな気もする。酒もよく飲む。酔うのが好きな人だ。
酒に酔うと、母親はよく私に謝罪をしてくる。しかし、私にしているわけではない。ただひたすら自分の気を済ませたいから「娘の形をしたもの」に謝っている。怒っているときは「あんたのせいで私がどれだけ我慢してるか」「私はもうやりたいこともやれないんだ」とわめき散らす。何が本音だろうがどうでもいい。非常に煩く、煩わしくはあるが、特に興味はない。なんでもとりあえず聞いて受け入れて謝っておけばよい。
多分彼女は、私の写真を貼り付けたぬいぐるみでも、泣きながら謝罪をしたり怒鳴ったりするのだろう。
父親が弾くギターの音が聞こえる、夜中の3時。毎日毎日毎日毎日酒を呷っているからか、一般的な常識も忘れてしまったようだった。田舎にある家で、近所迷惑にならないからいいだろう。そう宣う彼は、きっと私が明日学校に行かなければならないなんてことは忘れているに違いない。「家族なんだから」と頻繁に言う彼は、娘になった人間がどんなことが苦手なのかを分かろうとしない。私はハグも、頭を撫でられるのも、急に大声を出されるのも苦手だ。それでも彼はそれをやめない。「家族なのにスキンシップをして何が悪い」と癇癪を起こして、今日も寝室に引きこもった。「家族なんだから」と母親が私に謝罪を促す。私は未だに、謝罪の理由を見つけられたことがない。
男性は確かに苦手だが、私はあなたが苦手なのだ。あの人からやられたことでそうなった訳じゃない。私があなたを嫌うのは、誰でもないあなたの責任だ。──伝えられた試しはない。
朝、父親が飲んだビールの缶を潰す。きちんと洗って乾かしてからでないといけない。家から離れたところにあるゴミ収集所では、ルールに則らないゴミはそのまま回収されず、置いていかれる。父親も、どこかに置いていかれればいいと思う。
昼、学校に行く。ドがつく田舎の超が付く底辺校で、今日もヒソヒソ声と嘲笑を受ける。私があなたたちに何をしたというのか。全く分からない。実際問題、喋ったこともない。おこづかいが勿体ないので、お昼は適当なグミみたいなもので終わらせて、機嫌が悪い友人の代わりに委員会の仕事をこなす。先生には仲直りしなさいね、と言われた。彼女は私のせいで機嫌が悪いわけではなく、単純にテストの点が悪かっただけなのだが。
夜、家に帰る。夕飯は両親の気分によってあったりなかったりと読めない。訊ねると怒られるので訊ねるのもやめた。食材を勝手に使うと1ヶ月はグチグチと煩くなる。部屋にこっそり隠してあるお菓子をかじって、ゲームをして眠ると、大体夜中に大きな声で起こされる。家の中で呼ばれたら、どんなときでもきちんと返事をしてすぐに親の元へ行かなければならない。私は子供だから当たり前なのだそうだ。
前の父親は、確かに仕事がちょくちょく変わっていたし、よくサボっていた。今現在、母親は彼のことを酷く嫌っている。だが、母親が彼に首ったけだったことを私は覚えている。彼女が書いていた手紙には、あの人への気持ち悪いほどの愛が溢れていたし、仕事をしなくてもいいよ、と声をかけていたのを覚えている。
しかし、離婚し、私が受けていた被害を告げた途端に彼女は変貌した。結婚は私があの人に懐いたから仕方がなく、ということになったし、本当はかなり前から別れを考えていたが、私が一人立ちするまでは、と我慢していたことになった。私が読んだあれはなんだったのだろう。
あんなことをするようなやつ、と現父親も彼を酷く嫌っている。だが、あの人は夜中の3時に大声で歌いも、ギターを弾きもしなかったし、飲酒運転で捕まることもなかった。言っていることが矛盾することも、ないに等しかった。
あの行為自体は、嫌だった。痛みや罪悪感が行為の間中延々自分のなかを駆け巡っていたのを覚えている。現在進行形で恋愛が出来る気はしない。性行為が怖いからである。男性に自分がどう見られているか、怖くて仕方がない。恐らくこれは、あの人のせいだろう。元々そんな性格だった気もするが。
しかし、最初に書いた通り、あの人に対する感情はほぼ無いのだ。罪を償ってほしいとも正直思わない。再犯の可能性なんて捕まろうと捕まるまいと存在する。だから、ただひたすら関わらないでお互い幸せにやっていければそれでいい。彼の不幸を私は望まないし、ましてや彼を呪うことはない。彼の家族がどうにかなってしまえば……と思うこともない。
だが、両親や周りの人間はそれが気に食わないのだ。だから誘っただなんだと詰問されることになる。何故なのか。私には分からない。 恨まなければならないのだろうか。呪わなければならないのだろうか。それが人間だとでも言うのだろうか。
私は今までの人生で人を恨んだことも呪ったこともない。それを言うと「幸せな人生だね」と皮肉っぽく言われる。私は幸せな人生を送っているのだろうか。満足に風呂にも入れず食べ物も食べれず、洗濯機を使うことも許されてはいない。おまけに義理の父親に性的な虐待を受け、母親からは精神的な虐待を受け、ついでにいじめも経験した。それでも人を恨まないのは、そんなにおかしいことだろうか。
正直、本当に勘弁してほしい。私は「人を恨むな」とか「呪うな」とか言うつもりはないし、私の考えを押し付けないから、どうか私に何も押し付けないでほしい。
普通に考えたら、恨んでる時間がもったいないので、さっさと忘れて楽しいことした方が 人生は充実するもんね
自覚してないだけで、思いっきり恨んでるじゃん