『けものフレンズ2』9話のダメな点＆俺ならどういう話にするか

はてな匿名ダイアリー

2019-03-16

■『けものフレンズ2』9話のダメな点＆俺ならどういう話にするか

『けもフレ』も『けもフレ2』も5分で切った俺だが、2の9話がまた物議を醸してると聞いて興味が湧き、今回はじめてちゃんと見てみた。あーこりゃダメだなと思った。イエイヌが不憫すぎる、ボロボロになるまで守ってくれた彼女を放っておいてサーバルと談笑に興じるキュルカスまじキュルカスなど既報どおりの印象を持ったが、単純にクオリティが低いとも思った。

イエイヌに対して無関心なのが単純に物語としてダメ

イエイヌに対して登場人物みんなが本当に無関心だ。なぜキュルルをさらったのか、その後どうしたかったのか、どうしてボロボロになってまでキュルルを守ろうとしたのか聞きもしない。その無関心っぷりはイエイヌと別れた後、存在そのものを秒で忘れるんじゃねーのと思うほどだ。

その象徴が「おうちへおかえり」という言葉を望んだイエイヌに対し、首を傾げながら表情をまったく変えずにオウム返しするキュルルである。

キュルルは間違いなくイエイヌがそう望んだ理由を理解していない。それどころか「なぜそんなこと言わせようとするんだろう」とすら考えない。本当に、一ミリも、イエイヌに興味を持たずに終わる（その証拠に、イエイヌの目的や事情は彼女が一方的に説明するだけでキュルルから尋ねることはついぞなかった）。

これはキュルルがカスだとかbotだとかの以前の問題で、ここまで感情のやり取りがないと物語が成り立たないレベルで致命傷だ。だから必然的に視聴者として感じ入ることができない。これは例えばたった一言、ボロボロになってもキュルルを守ろうと立ち上がるイエイヌに対し「どうしてそこまで……」と声をかけるだけで話が違ってくる。それがあれば例えば「だってそれがイエイヌですから！」と信念を示すこともできる。いや、画面ではまさにそういう意味合いを持ってイエイヌは戦っているわけだが、それに対するキュルルの興味・理解・共感がないからただただ虚しいシーンに成り下がっている。意味ある物語を作ろうとするなら相手への無関心・無理解は絶対に避けなければならない。

イベントとその結果がつながってない

ついでに言うなら「ビーストに襲われる」ことと「イエイヌが別れを選んだ理由」が直接つながってないのも出来が悪い。イエイヌがキュルルとの別れを選んだ理由は「キュルルさんを引き離すような真似をしてすみません。仲間を失う気持ちはよく知っていたはずななのに」にあらわれているが、これはビーストと戦ったことやボコられたことと直接関係ない。ビーストにボコられたところからつなげたいなら、「私ではキュルルさんを守れませんから」を理由にすべきだし、キュルルとサーバル＆カラカルの絆を理由にしたいならキュルルと仲違いしたカラカル（＆サーバル）が戻ってくる理由をスケッチブックの返却ではなくビーストの唸り声を聞いたからにすべき。ケンカしたのにキュルルに危機が迫ると知るや取って返すふたり、キュルルを守るために傷つきながらも強敵を撃退する、という流れにすればあの3人の絆をイエイヌが理解でき「引き離すような～」というセリフにつなげることができる（その布石としてキュルルを悪く言うカラカルにイエイヌが不満を持つ、外は危険だからと言うイエイヌに「ふたりが危険なのに家でじっとなんてしてられないよ」とキュルルが言うなどあれば尚良い）。

実のところ似たようなことはどれもやってるのだが、必要なセリフや演出をことごとく欠いているためそれっぽいけど全く違う醜悪ななにかに成り果てている。

俺ならどうするか

創作者のはしくれとして俺ならどうするかについても述べておく。

まずイエイヌのやっていることは代償行為である。キュルルはヒトだが本当の主人ではない。彼女には帰りを待つべき主人が別にいる。しかし主人が帰ってこないため、キュルルに偽の安らぎを求めており、そんな「弱さ」を彼女は抱えている。1人＆2匹との出会いによってイエイヌは主人の帰還を信じる「強さ」を手に入れ、キュルルたちとの別れを選択する――という点を軸にする。1人＆2匹との出会いがイエイヌの心の問題を解決するのがポイントだ。

具体的には以下のような流れ（※筆者はガチでこの9話しか見てないのでキャラに違いとかあるかも）。

キュルルがさらわれ、イエイヌの家で遊んでるところにカラカルたちがやってくるところまでは同じ
キュルルとカラカルがケンカ。（主人とケンカした）カラカルに対し「キュルルさんをいじめないでください」「いじめてなんか……」「ともかく今までありがとうございました。これからは私がキュルルさんをお守りします」と言ってキュルルの後を追うイエイヌ
家でお茶を淹れてあげながら「ひどい子ですね。キュルルさんにあんなことを言って……」「ぼくを心配してくれてたからだと思う。さっきはついあんなこと言っちゃったけどカラカルは大事な友だちだから」「友だち……」咆哮が聞こえ、ビーストがここにも出ることを知るキュルル。「ふたりが危ない。教えてあげないと」「外は危険です！」「ふたりが危険なのに家でじっとなんてしてられないよ！」と外へ出るキュルル、後を追うイエイヌ
カラカルとサーバルがキュルルのところへ向かいながら「あの声。ビーストがここにもいるのね」「キュルルちゃんのことはもう知らないんじゃなかったの？」「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ！　サーバルはキュルルのことが心配じゃないの!?」「もちろん心配だよー」（スケッチブックはこのとき持ってればいいレベル）
キュルルに追いつくイエイヌ。「ふたりにはわたしが伝えますから家に戻りましょう」「でも」ビーストが現れる。キュルルを守るように前へと立ち「大丈夫です。あなたはわたしが守ります」だけど歯が立たずボロボロになるイエイヌ。倒れ込むイエイヌをよそにビーストはキュルルを襲おうとする。大ピンチ。そこに颯爽とあられる2匹。「危機一髪ね」「間に合ってよかったよー」
激戦の末、ビーストを撃退する3匹。傷ついたイエイヌをキュルルが手当て。サーバルとカラカルを見て「助けにきてくれてありがとう」「た、助けになんか来てないわよ！　こ、これ渡しにきただけよ」とスケッチブックを差し出すカラカル。「へんなカラカルー。さっきはあんなにキュルルちゃんのこと心配してたのにー」「サーバル！」笑い合う1人と2匹
その様子に本当の主人とそれに可愛がられるかつての自分を重ねるイエイヌ。そんなイエイヌに対し「ぼく、やっぱり行くよ」とキュルル。続けて「よかったらイエイヌさんも一緒に、」「キュルルさん。カラカルさんに、サーバルさんも。ありがとうございました。みなさんを見ていて大切なことを思い出しました。……わたしはおうちに帰ります」「でも、きっと……君のご主人様はもう……。あのふたりもパーク中さがしたけどいなかったって……」「そんなことありません。きっとみんな帰ってきてくれます。それまであのおうちを守るのがわたしの使命ですから。……それで、その、最後にお願いしてもいいですか？　あ、頭を……」頭を差し出してるイエイヌ。やさしくなでてあげるキュルル。笑顔→真面目な顔→そしてまた笑顔になって「おうちにおかえり」とささやく。こくりとうなずき走り去るイエイヌ
「行かせて良かったの？」「キュルルもいっしょに行きたかったりして」「ううん」と笑顔で首を振るキュルル。「あの子の主人がぼくじゃないように、ぼくの家もあそこじゃない。だからこれでいいんだよ」「やれやれ。まだ旅は続くってわけね」「カラカルうれしそー」「サーバル！」

ところでこれはまったくの余談

『けもフレ』5分切りを豪語する俺がひとつだけちゃんと見た『けもフレ』コンテンツがある。それはJRAとのコラボ動画『けいばじょう』。

内容は他愛のないもので、「おおきなたてもの」のそばを通りすがった一行は、その中でサラブレットのフレンズと出会い、「おおきなたてもの」であるところの「けいばじょう」を案内してもらいつつ最後はかけっこ勝負をする。時間にして3分半ほどと短いが、俺はこの動画が好きである。

その理由の大部分を占めるのが3:10 から流れるたった5秒の映像だ。

サーバルのかけっこ相手であるあおかげは、その直前、客席（スタンド）に視線を向け、耳を澄ませる。聞こえてくるのはかつてこの競馬場を埋め尽くした大歓声だ。今は失われてしまった、華やかで賑やかだった頃の残響。感傷に耽るあおかげの後ろ姿に胸が締めつけられる。彼女は何も語らないし表情すら画面に映らないが、この場所が或るいはかけっこが彼女にとっていかに大事か、そのワンシーンで伝わってくる。