2017-02-03

クオリアちゃんとやりがい搾取

感想発見

先のエントリ引用した感想を見つけた。

http://anond.hatelabo.jp/20170202144732

http://hishamaru.hatenablog.com/entry/2017/02/09/003000

作品最後に描かれるんだけど、読者を喜ばせることよりも、クライアント評価されることの方が価値ある報酬として機能してるのね。シナリオへの対価がアップすることがわかりやす目的なっちゃってる。いいよね数値化される評価って。彼らたぶん、ユーザーにどのようなゲーム体験シナリオが届くかとかにはあまり興味なくて、重要なのはソシャゲ製作ってルールの中でどれだけ有用な駒になるかってことで、それ以外の価値観は重視されてなくて、作品単体の面白さとか基本問題にならないの。びっくりするくらいどうでもいいの。

本来は、クライアント評価されることと、作品単体の面白さ、ユーザーにどのようなゲーム体験シナリオが届くかは全て大切であって、どれかを取るようなものではないと思う。良いシナリオを書いて、ユーザーが喜び、ユーザーが喜ぶようなシナリオクライアント評価するというのが、理想的な流れだろう。

ただ、ゲームプレイもせず、クライアント評価だけに喜ぶのは、プロとしてもダメ姿勢だ。

例えば、主人公ヒロインに啖呵を切って「自分一人でシナリオを完成させる!」って誓った最後の山場で、でも結局締切に間に合いそうにないときに、ヒロインに頼っちゃうのね。アレだけ必死に願掛けしたのに、あっさりそれを翻しちゃう。それがなんでかというと、この作品世界では「締切を守ること」が絶対条件なの。曲がんないの。「クライアントに泣きついて、締切を延ばしてもらって、それでも作品クオリティを上げる」とかは想像力範疇を超えるの。そこまでして良い作品を追求することはありえないの。時間を戻すなんて超常現象を持ち込んでも、守らなければならないの。不可侵なの、締切。

良い作品を作るために、自分だけで何とかするのではなく、他人に頼ること、〆切を守ろうとすること自体は、お仕事ものとして正しいと思う。

それはそれとして、超能力時間遡るのは「プロとして〆切を守る覚悟」とは致命的に相性が悪いのは確かである

いやさ、こんな仕事するくらいだったら、主人公は真面目に勉強して公務員なってクオリアちゃんを食わせてあげなよ、マジで

これは心から賛成する。ヒロインは、金の大切さというものを全く理解していない。

お金の大切さ

https://www.amazon.co.jp/dp/B01N334XBG/

ソシャゲライタークオリアちゃんを、お仕事ものとして見た場合、先輩であるヒロインが、主人公業界のことを教えていくという形をとっている。

一方で、このヒロインお仕事ものとして、主人公を導くには、あまりにも問題ありすぎる。具体的に言うと、お金の大切さがわかってない。

月収五万

ソシャゲライターとして主人公を導く立場にあるヒロインの月収は、五万円であるソシャゲ専業なので、他に収入はなく「全部で五万円」。いつ来るかわからないソシャゲ発注対応するために、他の仕事を全く入れてないのだ。当然、生活は成り立っておらず実家寄生している。

よくある話だが「お金のために仕事をしてない」という人は、お金を儲けることを罪悪視するようになる。このヒロインも「書き手としては、売り上げや継続率について考えるのは心苦しいとこもあるが」と言い、「あまりお金に余裕がない生活をしている為「プレイヤーお金を使わせること」に繋がる考えは受け入れがたいところがあるのだろう」と言われている。

だが客がお金を払って初めて利益が発生し、そこからギャラが出るのだ。そうなるように良いシナリオを書くのが仕事であって、そこに心苦しさを感じるのは、プロとして間違っている。

そもそもヒロインは、専業にこだわった結果、スマホも買えず、自分シナリオを書いているゲームすらプレイできない。誠実な仕事の態度とは言えない。

金にならなくても、好きなことに、犠牲を払って打ち込むというのは、美談ではあるが、逆に見れば、やりがい搾取精神である

恋愛搾取

主人公は、ヒロインに正面から告白するが、ゲームセリフ勘違いされて、シナリオ書きの手伝いにスカウトされる。そして、ヒロインの窮乏を知って、手伝おうとする。彼自身スマホは買える立場であり、安すぎるギャラのためでなく、ヒロイン収入を少しでも増やすために、手伝うわけである

好意からヒロインを手伝う一方で、ヒロインは、天然であるという理由で、彼の正面から告白を、何度もスルーし続ける。これはこれで恋愛搾取である

何でこうなったのか

ヒロインがポンコツなのは無駄に多い異能力者と同じく、よくあるラノベテンプレ意識したのだろう。「助けたくなるポンコツヒロイン」というのは定番だが、お仕事ものにするなら、「ポンコツだが仕事には真摯」とすべきで、嫌儲ヒロインは、どうかと。

あるいは作者としては、ヒロイン達の態度には良いところも悪いところもある、という意図なのかもしれないが、「ヒロインラブ」な主人公目線物語は進むので、作品の印象としては「やりがい搾取万歳」になっている。

その上で、ラストにちらりと出てくるライバルキャラを見る限り、お金問題は二巻以降に扱うのかもしれない。そのへんは期待したいところである

アドバイス

ヒロインが、そうまでしてソシャゲ専業にこだわる理由は、実績を作って、よりよいソシャゲ仕事を手に入れるためだが、そうした実績は専業でなくても積める。むしろクソ安い、クレジットにも出ないシナリオ仕事を幾つかやっても、あまり実績にならないことも多い。色々なライター仕事を受けて、見聞を広げ、信用を積み上げていったほうが、ソシャゲ仕事も良いものが回ってきやすくなる、とアドバイスしたい。

あとヒロイン時間の使い方が下手過ぎ。〆切ギリギリまで悩んだ挙げ句に、無許可の新設定を送りつける前に、「こういう理由で悩んでるんですが、ここはどうしましょうか?」と早めに先方に相談しよう。

誰が月収五万を作ったのか

ラノベである以上、100%現実に即する必要は無い。だが本作の場合、ただのお話しではなく、「現役ソシャゲライター業界リアルを伝える」系の実践的な参考書として売られている。作者のあとがきや、著名ライター応援からはそう取れる。

その内容が「月収五万の嫌儲ヒロインなのは、どうかと思うのだ。

しか下村氏も、下村氏の部下も、まさか月収五万なわけではないだろう。どちらかというと、彼らは、下請けライターであるヒロイン仕事発注する立場だ。

そう考えると、かなりつらい話である

記事への反応 -
  • ソシャゲは好きですか? ぼくは好きです 『ソシャゲライター クオリアちゃん ―恋とシナリオと報酬を―』というラノベが出た。現役ソシャゲライターの下村氏による、ソシャゲ業界...

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    • ちょっとメタっぽくラノベの方を読まずに言うのもあれなんだけど、基本ゲームシステムに対する課金やプレイヤー同士のプライドをどうくすぐるかが課金に関わってるんであって、シ...

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