2011-04-03

脱法ハーブドラッグ)で家族を失いかけた

脱法ハーブというものに手を出してしまった。

後悔にまみれたその記憶自分の手で書き表すことで、私は二度とこうしたものに手を出さないことを自分自身で確認しようと思う。

独身の頃からそういうものに興味はあり、海外日本では禁じられている薬物に手を出したこともあった。

ただ、同行者はそれを吸ってとても楽しそうにしていたが、私には一向に効き目がなく、その体験はただ、

私に「あちらの世界」への憧れをかきたてるだけのものだった。

それには依存性はほとんどなく、何年もの間、それを欲しいと思ったこともなかったし、

一生必要ないと思っていた。ただ、「あちらの世界」への好奇心だけは私の心に根深く残ったままだった。

7年後。現在。2年ほど前に結婚して1歳の子どもがいる。

私はたまたま合法ハーブという語をインターネットで見つけ、好奇心からそれを調べた。

現在日本では禁じられていない成分のみを用い、幻覚作用覚醒作用をもたらすものということだった。

建前としてはお香としての使用を前提にしており、その煙を吸引することは推奨していない。

もちろん、それはただの建前であり、それらのサイトや関連Wikiにはその吸引体験が

多く綴られていた。

私は甘く見ていたのだ。

過去にそれに類するものを服用してまったく効果があらわれなかったこと。

1時間ほどで効果のピークを終えるという情報

そして、アルコール程度の影響で終わるのではという根拠のない自信。

夜22時30分。私は近くの街にあるその店の門を開いた。

暗い照明。ガラスケースに収まり怪しい光をはなつ「合法ドラッグ」のパッケージ

パイプやボング、紙巻き器などの喫煙具。

「なんにしますか」カウンターの奥にいたのは、Tシャツキャップをかぶった

小太りの男だった。小悪いB系といったいでたちだった。

私は「あまり強くないものを」と頼み、Wikiである程度名前が知られていて評判のよいもの

選び、それを買った。喫煙具と合わせて5700円。高いけれど、もちろん無理な価格ではない。

店の奥にはソファとテーブルがあり、その場で吸えるようにもなっている。

どうしてその場で吸おうと思ったかは分からない。家よりも安全だと思ったのだろう。

大きな間違いだった。

慣れない手つきで買ったばかりのふわふわした葉(かすみ草の花のようなものもふくまれていた)を

紙に巻き、火をつけた。要領は海外でやったときに知っていた。深く煙を吸い込み、

30秒ほど息を止めてゆっくりと吐き出す。

普通だ。まったく普通だ。味も悪くない。

もう一度同じように吸った。何度も、何度も。ジョイント一本分、草が燃え尽きるまで全て吸った。

好奇心がわき、それからの身体的な変化を記録しようと思い、iPhoneを取り出した。

文字をフリックで打つが、まず指にしびれを感じだし、すぐに視覚おかしくなってきた。

指を動かすが、目に映る像がワンテンポ遅れている。徐々に体中にジーンという

しびれが広がり、耳に聞こえる音が暴力的なまでに大きくなってきた。

Evernoteにその記録が残っている。

10:35

電気がくるかんじ。

パルスが短くなっていく。

rgb

ビーン

という音

電気風呂みたいになってきた

目がよわくなっていく。

スローモーション世界


電気のビーンという音が

してると思ったら。

ここの照明の響く音でした。

耳が良くなるって本当だったんだね。

音がすごい立体感を帯びてきた。

時計を見ると22時45分くらいだったか

家には24時に帰ると約束している。

十分すぎる時間はあったが、私は怖くなった。

このままでは帰れなくなるほどに、自分の状態は

悪くなるのではないだろうか。

後悔。後悔。

私は光のあふれかえる街に飛び出した。

うそこは別世界のようで、なにもかもが

うるさい音を発しながら私の横を通り過ぎていく。

見知った道はまるで違う道のようで、私は駅に行くために

交差点にたちどまり、何度も風景を確認しながら

駅へと急いだ。

足が思うように動かず、気づくと外界からシャットアウトされるほどの

思考の大波が私を襲う。今ものをなくしても分からないぞ、やばいな、と

私は頭の片隅で思った。

ごまかせるかな、ごまかせないだろうな。

今の私を外から見ると、とてもまともには見えないだろう。

妻にだってわかるに違いない。

電車に乗った。

電車の中は混んでいて、においがとてもひどかった。

ドアの脇に立っていたが、どうにも足がふらついてカクカクする。

そして、すぐに思考の大波。

最寄りの駅はすぐそこだ。しかし降りられないのではないか

乗り過ごしたら万が一にも帰ることはできないだろう。

わたしはまたiPhoneを取り出して記録を始めた。

自分の体が電気の粒に分解されて、寄りかかっている壁に吸い込まれるような感覚

心細い、あまりにも心細い。何も支えるものがない。

もう涙があふれ出そうだった。

なんてことをしたんだろう。愚かだ。あまりにも愚かだ。

警察保護されるようなことになったら妻はなんて顔をするだろう。

ずっとずっと妻のことだけを考え、かろうじて残った正常な感覚

かきあつめるようにして、私は電車に揺られていた。

時間感覚が遅い。ずっとずっと考え事をしていたように思ったが、

駅にはなかなかつかない。時間が5倍伸びているようだ。

着かない。着かない。私は焦った。

電車が減速する。私は急に堪え難い嘔吐感に襲われ、

鞄の中に吐いた。周囲の目が突き刺さるのを感じたが、

その時扉が開き、私は転げるように電車を出た。

帰らなければ。妻と子どものいる家に帰らなくては。

あと10分、私の足よ動いてくれ。私の脳よ導いてくれ。

わたしはドラッグ喫煙具を鞄の底からやっとの思いで

引き出し、ゴミ箱に捨てた。こんなもの、二度とやるものか。

一歩、一歩、改札を出るのもやっとこさ、私は家への道を

ふらふらしながら歩いた。

家の手前でまた嘔吐感に襲われ、また吐いた。

そして。

妻は私を出迎えてくれた。ほっとした顔を覚えている。

私は謝った。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

妻の顔が凍りついた。

それから、私は何時間も家のトイレに張り付き、

空っぽになった胃を上下させながら、

妻に事情を少しずつ説明した。

妻は驚き、悲しみ、倒れている僕の横でワンワン泣いた。

「そんなに私と別れたかったのか」そういって泣いた。

なにも妻は悪くなかった。日常に不満もなかった。

ただ、好奇心だけでわたしはしてはいけないことをしてしまったのだ。

私は自分ゴキブリ以下の生物に成り下がったのを

感じた。涙が出た。止まらなかった。

吐き気はなんとかおさまり、私はソファに横になった。

そのまま気を失うように眠った。

翌朝、私の思考は元に戻っていた。

少し頭が重いが、普通の状態だ。

寝室では妻と子どもが眠っていた。

私はこっそりと二人の横に身を横たえ、もう一度眠った。

それから、妻は長らく口をきかず、私はただただ、謝りつづけた。

ずっと妻といたいこと、子どもをともに育てたいこと、

もう二度とこのような愚かなことをしないこと、何度も何度も謝った。

夜明けても、自分はみじめなゴキブリであった。

「もう一度やったら、離婚します」

妻は言った。「しかしこのことを許したわけではありません。絶対に許しません」

妻はつづけた。

違法か、合法か、そんなことは関係ないの。こういうものは、あなたの何もかも、今まで積みあげてきたいろんなことを、

あなたが善良な人であったことさえも、一度に奪ってしまうかもしれないの。」

子どもが起き、私たちは三人で外に出た。

子どもがその日、はじめて私のことを「パパ」と口に出して呼んでくれた。

また涙が出そうになった。

その日。子どもが寝た夜。私はまた妻に謝った。

妻はずっと泣きつづけ、泣きつづけて、

その間私は彼女がしなければと言っていた

家事をやった。戻ってきた私に妻はひとこと

「ありがとう」と言った。

「こちらこそ、ありがとう。ごめんなさい」私は返した。

私たちは寝息を立てている息子の横に、

いつもしているように枕を並べて寝そべった。

妻に許可を取り、そっと体を抱き寄せて眠った。

幸福だった。これがなによりの幸福なのだ

薬物が体を駆け巡り、蝕みだしてからずっと、私は自分が手にした幸せを全て手放してしまうことを恐れた。

そして事実、それは極めてリアリティのある話になってしまった。

あの薬を口に含んだそのときからだ。

身体的な依存は極めて少ないとのことであるが、

実際のところは分からない。しかし私は絶対にもう手を出さない。

妻と子どもと暮らすこと。今の仕事。そして数十年後の、妻とのささやかな夢が、

何よりも大切なのだ。それが、一瞬にして水泡に帰す。そんなものには

二度と手を出さない。私は強く心に決めた。

これまでよりも、よい夫で、よい父でありたい。

家族生活を何よりも何よりも、大切にしたい。

混濁した意識の中で、ただただ妻子の顔だけを思いながら

家に帰れた。その記憶けが、あの数時間の中でただひとつ

私の誇れることだった。

戒めのために、わたしはこの記録を残す。

電車の中で吐き気と、思考の洪水に飲まれながら私が打ったEvernoteへの記録を結びに。

だ。これは

毒だ。

捨てる。

捨てる。駅についたら。



追記(4/4に少々改変)

私は合法ハーブをやっている人たちを否定しません。

現在の法に照らし合わせて問題はないはずだし、自分が快適に生きられる範囲でやればいいと思います

私が不慣れで、しかもこういうことをやるのに適した環境にない、それだけのことです。

いくつかご意見をいただきました。セッティング環境を作れてないのがよろしくない、と。

家では数時間自分一人の時間をつくることなどできません。

思えばそうした状況から一時的に逃避したかったのかもしれません。

から外にしました。もちろん、それがド素人の甘い選択であったことはいうまでもありません。

トんでいる状態で徒歩計20分、電車に乗って10分という帰宅への道のりを辿らなければならない、

その焦り、帰れないのでは・ばれるのでは・様子がおかしくなって警察を呼ばれるのでは、という

ネガティブな思考が悪い方向に私をもっていたことは十分にありえることです。

そもそもバッドトリップだったのかもわかりません。ただ、私は自分の身体の変化がおそろしくなった。

やってくるものに抗い、平静を保とうとした。それが嘔吐感をもたらしたのかもしれません。

それに身を任せていたら楽しかったのかもしれませんね。

要するに、私はやってはいけない立場人間だったのです。

妻がそういう考えで、その妻を大切にしたい私にはできないものなのだ

そういう気持ちでいます

なお、私が使用したのは「ジプシー」。ジョイントで1本まるまる吸いました。

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