なんだけど彼女を作るという意欲があまり湧かず、気がつけば魔法を使えるようになると噂の年齢を数年過ぎてしまった。
さすがにまずいんじゃないだろうかと思いスマホにデートアプリ入れてみた。
あまり触らないうちにメッセージがきてマッチングが成立して有頂天になったのも束の間、課金したとたんにメッセージが返ってこなくなった。
有料会員にさせるためのサクラだったと気づいたのはその数日後。
だが見た目も平凡だしお金もないし性格はコミュ障だし週末ヒキコモリボッチで自分には女性にアピールする点なんてまるでないことを再確認させられて心折れてもうアプリは開かなくなった。
それから数か月後、寝床に入った後いつもの寝る前のネット巡回を終えて何気なくアプリを立ち上げた。
年会費払ってしまっていたからもったいなくてアプリ自体は残していたのだ。
彼氏を探している人たちがこんなにもいる。
同じように彼女たちの画面には男たちが並び、自分の冴えない顔写真も片隅にあるはずだ。
なんだか不思議な気分だった。
こんなにも人が人を求めあっているというのに、自分には恋の波風のひとつも立たないのだ。
それがツラいというよりも完全な傍観者に自分がなってしまったというような感覚で、灼けつくような異性への渇望といったものがそもそも自分には欠けているのではないだろうか、などとぐるぐる考えているうちに寝てしまっていた。
目覚めたとき、スマホを体の下敷きにして寝てしまっていたことに気づいた。
画面割れてたりしないだろうかとあわてて取り上げて画面ロックを解除した。
その時見慣れぬ通知に気がついた。
寝る前に確かにアプリで女性のプロフィールなどを見ていた記憶はある。
状況から考えるとどうやら寝落ち直前にNさんのプロフィールを開いていて、その後なんらかの無意識の操作が行われてNさんにマッチングリクエストを行ってしまった可能性が高い。
しかしそれよりもなによりも驚くべきことはNさんが自分の無意識のリクエストを承認してしまったことだ。
意識のある自分がさまざまな女性に送ったリクエストはことごとくネットの海の向こうに音もなく消え去ったというのに。
頭の中でいろいろな考えがせめぎあって結局
「マッチングした」
という事実を捨て去ることができなかった。
しかしメッセージ交換でわかったのはスポーツバーに通うのが趣味というNさんはかなり積極的な性格ということだった。
完全に陽キャで完全な陰キャの自分とは違いすぎる、という不安感を初めてのおつきあいへの期待が上回りついに初デートを行う運びとなった。
実際に会ったNさんは小柄でやっぱり地味な見た目だったけどプロフィール写真よりもちょっとだけかわいく見えた。
予約してたレストランで昼食を食べ、二人で比較的有名なデートスポットを巡り、これまたネットで予約してたレストランで夕食を一緒に食べ、とてもとても平凡なデートであったとは思うけど、この年齢までおつきあいの経験自体が無い自分にとっての精一杯だった。
Nさんとはその日いろんな話をした。
男性と張り合うような職環境にいること。同じ成果を出しても女性には不安定な職位しか与えられないこと。
自分とは全然違うタイプだったけど、人はそれぞれ悩みを抱えながらやりくりしてるものなんだな、と思った記憶がある。
お酒も少し入り今日はここで散会かと思われたその時、Nさんがもう少し飲みたいと言い出した。
Nさんはお酒に強いらしい。自分は酒に弱くデートを台無しにしたくないのであまり飲まずにいたのだが、若干それが気に入らないという様子に見えた。
想定してない状況で混乱する中、Nさんは
「君の部屋で飲む」
と言い出した。
この日、地方在住の自分はデート後自分自身が一泊するつもりでビジネスホテルに部屋を確保していた。
その部屋で今から飲むというのだ。
マジで?これってそういうこと??
全くそういう期待がなかったわけではない。
魔法使いの資格を持つ身であるにもかかわらずまるで中学生のように緊張している姿はたから見るとかなり怪しげだったと思う。
コンビニでビールなど買いこみホテルのフロントを難なくパスし部屋に入った。
そういう可能性を頭に浮かべつつ、セミダブルサイズのベッドに並んで座る。
Nさんは
「ここなら君が酔いつぶれても大丈夫」
だという。
そうなんだろうか?
缶をあけ、ビールをあおる。
このときのNさんとの会話はとりとめもなくたわいもないものだったと記憶している。
ビールをあおる。
酔いがまわり始め体温が上がってくる。
ビールをあおる。
手は出ない。手を出せない。
ビールをあおる。
程よく酔ってしまった頃、Nさんが
と立ち上がった。
どうすんの?いくの?いかないの?
頭の中でぐるぐる思いが回り始める。
人生最大の勇気を振り絞って立ち上がりNさんの手をとり抱き寄せた。
紅潮した頬でNさんが見つめてくる。
「そんなつもりじゃなかったんだけど…」
えええええええええええええええええええええええええ?
違ったの?
やっちまったの?
「下着もかわいくないし…」
やっちまった。やっちまった。
お前はいつもそうだ。
「ちょっと待ってて」
どういうこと?
なに待ちなのこれ?
待つ間なんとなくルームライトを落としフットライトだけにした。
やがてNさんは素肌の上にナイトガウンだけを羽織った姿で現れた。
夜目にもくっきりと彼女の胸の赤い徴が見えた。
いいねえ
くっそぉ (読ませるじゃねぇか・・・)
無免許魔法使い罪