さて、今回は私の英語学習法の核心、「英単語の暗記をしない」ということについて語ってみたい。
http://anond.hatelabo.jp/20170524213622
ここで前回リスニングについて語った内容には、凄まじい反響があった。私は1500というブクマ数にoverwhelmされてしまった。
いきなり何を言ってるのか、と思われるだろうが、私の感覚の中では、1500ブクマという気分を一番表せるのは、日本語の「圧倒された」ではなく、英語の"overwhelm"だ。
この単語はただ「圧倒された」だけでなく、「圧倒的な力に晒されて、疲弊してしまった」という感覚がある。もしこれが増田でなく普通のブログだったら、プレッシャーで何も書けなくなっていたかもしれない。
他にも、前回の「英語をあるがままに受け入れなければならない」という結論の部分は、最初は「英語をあるがままにembraceしなければならない」と書いてあったのだが、伝わらなさそうなので書き直した。embraceは「抱擁するように受け入れる」というような感覚だが、日本語で書くと何のことやらわからない。
英単語を覚えるということは、こういった単語に伴う感覚を一つ一つ身につけていくことだ。そうすれば英単語が自分のものなり、ライティングやスピーキングでも自然に単語が湧いてきて、自由に使うことができるようになる。
英単語それぞれに固有であるこの感覚をどう身につけるのか、というのがここで語りたい話題である。
英語学習の世界で良く出て来るスローガンに「英語は英語のままに理解しなさい」「日本語に訳して理解してはいけません」というのがある。
しかし「英語は英語のままで理解しろ」と言われても、初心者には何のことか分からず、何か魔術的な、自分には絶対にできない思考法によってしか、英語は理解できないのではないか、という気にさせられてしまう。私も高校生の頃に、このスローガンを聞いて、そんな絶望感に襲われたことがある。
日本語しかできない日本人にとって、言語で思考する際に使える唯一のツールは日本語だ。英単語の意味を知りたいなら、日本語の訳語なり、日本語で書かれた説明によって理解するしかない。
日本語の訳語を当てはめ、文法ルールに従って語順を並び替えて、並び替えた日本語から文意をつかむ。ノンネイティブである学習者はそこからスタートするしかない。そして大学受験レベルになっても、難関校を受験するのでなければ、その方法論で通用するだろう。
そのレベルの英語力が欲しいならば、訳語を覚えることは有効だ。
ただ、「英単語を覚えるぞ!」と単語帳を開き、そこに記された訳語や例文を見たり、書いたり、発音したりしてみても、それで記憶できるのは記憶力がいい人だけで、普通は無理だ。
そしてそのレベルの、日本語の訳語を並べ替えるような英語力では、現実世界にあるほとんどの英文は読めず、あまり役に立たない。日本語と英語はあまりにも違いすぎるので、逐語訳、直訳はほとんど通用せず、日本語の訳語をそのまま適用しても英文を理解することは出来ない。
なので、受験と関係ない大人にとって、日本語の訳語による英語の理解は、目指すべき目標にはなりえない。
「『英語は英語のままに理解しなさい』か。ならば英英辞典を使って英語で意味を覚えよう!」と考えるのは自然な発想だ。しかし、これもうまくいかない。
日本語を介して英語を理解する段階を超えるには、英単語の持つ固有の感覚を覚える必要がある。
英単語から日本語の訳語が想起されるようではいけない。それと同様に、英英辞典に書いてある語の定義が想起されるのも、その隣に書いてある同意語が想起されるのもアウトだ。そういった余計なものが出て来るようでは、リスニングはできるはずもないし、リーディングにも苦労を伴うことになる。
日本人にとっては、日本語の単語が持っている感覚を想起するのは容易い。一方、英語から感覚を想起するのは難しい。英単語と感覚を結びつけるという意味では、日本語の訳語を介したほうが早い。
しかし、日本語の訳語と英単語では、意味に違いがある。日本語の訳語を介して英単語を理解しても、不正確な理解にしかならない。しかしそれは、英英辞典に書いてある定義にしても、同意語にしても同じことだ。同意語といっても、単語が違う以上はニュアンスの違いがあり、辞典の短い説明でそれを完全に言い表すことは出来ない。
なので、単語を覚えるために英英辞典を使うべきではない。(*1)
英和辞典や英英辞典では、英単語が持っている本当の感覚を掴むことはできない。
英単語の本当の意味は、その単語が実際に使われたシチュエーションの中にあり、その中にしかない。その単語を発した人の感情であったり、伝えたいメッセージがその単語の中に込められる。それを感じ取ることが出来れば、その単語の本当に意味するところが伝わってくる。
もちろん人によって、単語に込める意味には多少の違いがあるし、一度や二度その単語に出会っただけで、その感覚を本当に自分のものに出来るかはわからない。その単語に何度も出会い、修正を重ねながら、感覚を確かなものにしていく必要がある。
いずれにしても、実際にその単語が使われている生の英語を、深く理解し、言葉を発した人物の気持ちやシチュエーションをしっかりと読み取ることで、そこに出てきた単語の本当の意味を掴むことが出来る。辞書の定義や、ぶつ切りにされた例文からでは分からない。
小説や映画のシチュエーションを深く感じ取って理解し、記憶の中に蓄積していくことで、そこで出てきた英単語やイディオムといった英語表現の意味を、実感を伴って理解することが出来る。やがてその英語表現は自分の身体の中に染み込んで、感覚的に使いこなすことができるようになる。
http://anond.hatelabo.jp/20170522214348
私が以前ここに書いた学習法では、「辞書を引きながら小説を読む、映画の英語字幕を一時停止しながら解釈する」といった事が勧められている。それは小説や映画が、人物の心情があり、シチュエーションがある生の英語の塊だからだ。そして「自分が楽しめるものを見る」ことを勧めているのは、そうでないと登場人物の心情に寄り添ったり、シチュエーションにハラハラすることが難しくなり、英語を感覚的に深く読み取ることができないために、著しく学習効果が落ちてしまうからだ。
ここで使う辞書はもちろん英和で構わない。ただし辞書の記述はヒント程度にとどめ、単語の本当の意味は作品の中から感じ取ることが重要だ。辞書からは単語の感覚を理解することは出来ず、実際に使用されたシチュエーションを蓄積することでしか、単語を自分のものとすることは出来ない。
単語やイディオム等、全ての英語表現は、小説や映画や実体験などから、記憶の中にその表現が使用されたシチュエーションが蓄積されることで、その表現に固有の感覚が醸成されていく。
そのシチュエーションが印象深いほどに、感覚はより明確になり、記憶への定着率も上がる。そしてシチュエーションの数が増えるほどに、感覚はより正確に、記憶はより強固になっていく。
シチュエーション自体は時とともに忘れてしまう場合が多い。しかしその表現に染み付いた感覚は、シチュエーションを忘れた後も残っている。
そして英語表現からその感覚が直接想起されるようになれば、日本語を介さず「英語を英語のまま理解する」状態に至ることができる。その状態に至れば、その英語表現を感覚的に理解し、適切な時に適切な形でアウトプットすることも出来るようになる。
そうはいっても、「私の英語力では小説も映画もとても歯が立たない。それは語彙力が足りないからだ。まず単語を覚えなければ」と考える人は多い。
そして単語学習のあまりのつまらなさ、記憶の定着しなさに絶望して諦めてしまうというという人が後を絶たない。しかしそれは根本が間違っている。
辞書というものがある以上、英語を解釈するのに語彙力は必須ではない。テスト問題を解くためには、辞書なしで英語を読み解く力が必要かも知れないが、小説や映画を味わうために必須なものではない。
「単語を調べるためにいちいち辞書を引いていたら、話が先に進まず、読書体験がぶつ切りになるので楽しめない」という考え方もあるだろう。しかし私は「辞書を引きながら頑張って読んだからこそ、心に深く残る読書体験になる」と考えている。
通常の母国語の読書では、立ち止まり、辞書を引き、文法構造を考え、熟考しながら読み解くというような作業はまず行わない。学習者が文章を理解するために行うそれらの作業は、文章を深く読むことにも役立っている。
最初に読んだ一冊、私の場合は"There's a Boy in the Girls' Bathroom"という児童書だったが、当時の私には非常に難しく、何度も立ち止まり、辞書を引き、検索し、英文法に立ち返り、悪戦苦闘した。ただ、これは本当に素晴らしい本で、読む価値があると思えたから頑張ることができた。登場人物の心情に寄り添い、シチュエーションにハラハラしながら、苦しいながらも素晴らしい読書体験をすることが出来た。
一冊目を終えれば二冊目はずっと簡単に読めた。三冊、四冊と進むに連れて英語力がぐんぐんと増していき、読書から苦が減り喜びが増していった。やがて「ゲームの達人」のような大人向けにも手が出せるようになり、刑事ハリー・ボッシュシリーズにハマる頃には映画を英語字幕で存分に楽しめるようになっていた。
そして今はKindleがある。単語を長押しすれば辞書が引ける、検索も直ぐに出来る、洋書はなんでも安くダウンロードでき、スマホに入れて持ち運べる。これは英語学習のために存在するような素晴らしいツールだ。
Kindleがあれば語彙力は読書の障害にはなりえない。ただし、児童書レベルでも英文を読むためには、ある程度の文法力が必要だ。そのためには受験参考書を活用してほしい。日本の受験英語界には素晴らしい文法解説がたくさんある。
日本語を介してしまうと英語を深く感じ取れないため、基本的に日本語訳は使うべきではないと考えている。
ただ、どうしても理解できない英文に出会うことはある。いくら時間を費やしても理解できない、そういう時には、日本語訳を見る。日本語字幕であったり、訳書であったりだ。プロフェッショナルの訳からは、独習では得難いものが得られることも多い。
世の本屋には「基本単語1000」とか「TOEIC必須単語3000」といったような、頻出単語とその意味を並べた参考書が大量に並んでいる。
「英文に登場する単語の90%は1000語に含まれる、だからこの基本語をまず暗記して、それから英文を読むのが効率的だ」などと言う人もいる。しかしこれはほとんどデタラメである。
英文に登場する単語の大半が基本語なのは確かだ。しかし500ページそこそこの参考書に1000個も意味が書けるほど、基本語の内容は浅くない。私は今でも日常的に、基本語を辞書で引いている。そしてその単語のさまざまな使い方を見て、基本語の奥深さを噛み締めている。
英語は読むにしても、書くにしても、聞くにしても、話すにしても、基本語は身体の一部になるぐらいまで深く理解する必要がある。実際の英語の中で気が遠くなるほど何度も遭遇し、使用シチュエーションを蓄積し、自分でも使ってみる、そういった積み重ねの中でしか、その本当に意味するところは分からない。参考書レベルで基本語を分かった気になっても、少し派生的な意味で登場しただけで分からなくなるのがオチだろう。
そして英語の語彙の中で特に難しいのは、基本語の組み合わせによって発生する熟語、イディオムである。イディオムの意味は単語が意味するものから大きくかけ離れていることが多く、故にイディオムと呼ばれるわけだが、この知識も参考書ではほとんど得られない。このように、90%とされる基本語の中にも、参考書に含まれていないものが大量にある。
「それでも、頻出単語の基本的な意味だけでも抑えておくのは重要ではないか。小説などでランダムに出て来るのに任せたら、時間がどれだけかかるかわからない」そう思う人もいるだろう。
しかし、頻出語は頻出するから頻出語と言われる。基本単語1000ぐらいなら、小説を1冊読む頃には否応なく頭に染み付いているはずだ。それも単語の参考書で得たものとは違って、単語から想起される感覚を伴った、生きた英単語として身についている。
TOEIC3000語も、何の本でも数冊読めばほぼ頭に入っているはずだ。3000語を感覚的に理解できるようになれば、その3000語で構成された文は、日本語を介さず感覚的に理解できるようになり、「英語を英語のままで」理解できるようになる。そうなれば読書がスムーズに進むようになり、インプットのスピードが上がり、それが英語の上達を加速させる好循環に入ることができる。成長の実感は英語学習のモチベーションを高め、それがさらに成長を加速させる。3000語を感覚で理解できる頃には、英語学習にドハマリして抜け出せなくなっているはずだ。
高難度の単語は出現頻度が低くなるので、そういった単語を網羅的に学習するのは、小説や映画ばかりを偏って見ているノンネイティブには難しいかもしれない。英語上達完全マップによると、多読などの自然な方法に任せると二万五千~七千程度で語彙力は伸びなくなるという。
現在私の語彙は2万5千~7千と思われますが、多読などの自然なボキャビルにまかせると、この当たりで語彙の伸びは止まるようで、ここ10年くらい同じレベルにとどまっています。 http://mutuno.o.oo7.jp/05_training/05_training06.html
それ以上の高難度の単語を網羅的に学習したい場合は、単語の参考書を使うのは有効だろう。高難度の単語なら基本語のように意味が派生したりイディオムになったりということは少なく、参考書レベルの理解でもなんとかなるかもしれない。
ただ、参考書による単語学習はやっても覚えられないので、私はやらない。無数にある見たことのない単語の予習に励むより、知らない単語が出てきても、話を追い続ける力を磨いたほうが現実的だと考えている。
何の学習法でも言えることだが、自分が今やるべきでない学習法、自分に合ってない学習法は、やってみると身体が本能的に拒否する。そういう学習法は、無理にやっても身が入らないのでやらないほうが良い(もちろん私の勧めている学習法も含めて)。
気持ちよくて、クタクタに疲れられる学習法と出会ったら、それをやるべきだ。疲れているということは脳が働いているということで、気持ち良ければずっと続けられる。
そのうちに慣れると疲れなくなってくる。トレーニングしても疲れていない場合、上達は見込めない。そうなったら学習法をアレンジし、負荷を上げて、気持ちよく疲れられるところまで調節する。誰かに教わった学習法でも、こうして自分の今のレベルに合った形にアレンジすることで、効果を高めることが出来る。
追記:
*1 しかし英英辞典自体は、それを使いこなせる英語力が身についた後ならば、英語学習の強力な武器になる。 私は普段はオックスフォード英英辞典を使っている。グーグルの使用言語を英語にして単語をググると、一番上にオックスフォードの記述が出てくるので、まずこれを見る(出てこない場合は検索語にdefinitionを加える)。Kindleに無料でついてくる英英辞典もオックスフォードだ。 オックスフォードでは、英単語をより難しい英単語で説明している。その単語も辞書で引くことで、際限なく難しい単語に出会えるため、いくらでも語彙を増やすことが出来る。単語の定義も難解で味わい深く、その文章に触れること自体が英語力を向上させてくれる。
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