2022-08-31

唐突子どもの頃のクラスメイトを思い出す

子どもの頃に読んだサバイバル術の本で「火の起こし方」を詳しく解説したページがあった

当時の私はとにかく好奇心旺盛で、「こんな方法で本当に火が起こせるのか」と試したくなり、かといえ勝手に試して火事にでもなったら父親に殺されかねないと思い、一番身近だった大人である小学校担任先生に「この実験をやってみたい」と、とても熱くプレゼンをした

林間学校を翌月に控えていたことと、すでに着火している私の好奇心に引き寄せられた数名のクラスメイトから懇願もあり、「やる方向で検討するから、どんなもの必要なのかまとめて欲しい」と言ってくれた

当時の小学校では担任裁量自由な使い方をしてもいい「学活」という時間があり、そこでは主にドッヂボール大会お楽しみ会などのイベントが開催されており、私が提案した「火起こし」もその学活の時間で行われることになった

とはいえ、人数分の木の板と手頃な棒を調達するには調整がなかなか大変だったようで、最終的には工務店を営むクラスメイト伊藤くんのお父さんが火起こしのセットと大量のおが屑を提供してくれ準備は整った

ちなみにその後から2ヶ月ほどは伊藤くんはクラスヒーローになった

火起こし当日、発起人である私と数名の友達で大量の木材とおが屑を校庭に運び、消火用に水を張ったバケツと用務員のおじさんから借りた園芸ホースを準備し、いよいよ火起こしの時間が来た

まずは板と棒を配り、先生が火起こしの方法をまとめたプリントを配布した

先生プリントを見ながら「いろいろな火の起こし方があるが、今日は一番シンプルな「きりもみ式」でやってみよう」と説明し、「じゃあまず先生がやってみるからやす位置に広がって」「じゃあ行くよー!」と棒を両手で回し始めた

すぐにでも大きく炎が上がると思ってみていたものの、出るのは先生の汗と「おっかしいなぁ」という呟きだけで、炎どころか煙すら出てこない

ふうふうと明らかに疲労を隠せない先生を見てすでに飽き始めたクラスメイトが出始めた頃、万が一の事態に備えて待機していた校長先生が代役を買って出た

流れるように所作担任と変わり、老練の手つきで棒を回し始めあっという間に煙が出……ることはなく、ものの数分で校長先生の方が燃え尽きる結果となった

大人男性でも煙すら出ないとは……と、長い戦いを覚悟した子どもたちは静々と自分たちのスペースに戻った

誰も無駄口をたたかず、ただ「ふん」だの「よいしょ」だのという自らへのエールと木が擦れる音のみが漏れ聞こえる中、よく見ると富山くんだけがこの挑戦に挑んでいなかった

富山くんは周囲を見ては恥ずかしそうに顔を伏せ、また周りを見回しては赤面しモジモジしていた

座りながらズボンポケットに手を入れなにかゴソゴソしては、棒を手に取って少し回しては「へへへっ」と生ぬるい笑みをこぼしていた

先生は相変わらず汗だくで自分の棒を回し、校長先生は両手をぶらぶらさせながら、細い腕にすこしだけ残った筋肉から疲労物質を押し流そうとしていた

富山くんの異変に気づいたのは私だけだったのだ

そうなると、無責任にも目の前の火がつかない火起こしより富山くんに俄然興味が湧いてきた

中腰でこっそりと富山くんに近づき、背後から「なんでやらないの?」と声をかけると、富山くんは「うへゃぁ!」と驚きの声を上げながら後ろを振り返った

その時、富山くんが持っていた棒が落ち、木の板をコーンと鳴らした

そこで私は気づいてしまった

私を見ようと体を反らせるような体勢になった富山くんは驚くほど勃起していたのだった

「え?なんでぼっ」と言いかけたが、ここでそれを指摘してしまっては富山くんはきっと数年は「ボッキマン」という人権無視したニックネームで呼ばれることになる

私は慌てて残りの言葉を飲み込み、富山くんの耳元で「なんでそんなになってんの?だから火起こしやってないの?」と聞いた

なんと言おうか悩み顔の富山くんは少し考えたあと、私に「だってこれエッチくない?」と耳打ちし返した

何がエッチなんだろう?火を起こすことのどこにエロに感じるのだろうと不思議に思うと、富山くんは「だってさ、これシコるやつじゃん」と続けた

好奇心旺盛ではあったが性的なことには疎い私に比べ、中学生の兄を持つ富山くんは今思えば当時すでに自慰行為をしていたのだろう

しかものちに知ることになるが、シコる方法オーソドックス上下に動かすピストンタイプではなく、火起こしをする時のきりもみ式だったようで、富山くんにとって好きな女子がきりもみ式で顔を上気させるシチュエーションは全力勃起案件だった

その時の私は申し訳ないが意味がわからず、それでも無責任放棄しかけた火起こしチャレンジ発起人としての立場から富山くんにも参加して欲しく「でもさ、ちょっとやってみてよ」とお願いした

富山くんは股間の棒が落ち着くのを待ち、先ほどを落とした棒を拾い「無理だと思うけどなぁ」と独り言をぶつぶつと言いながら棒を回し始めた

回し始めて回数にして6回転目くらいに異変が起こった

富山くんがにやけ始めるとほぼ同時に細く薄い煙が立ち上り始めたのだ

私は「先生先生富山くん出てる!」と叫びクラス中の視線富山くんに集中した

煙を見た先生はおが屑を一掴みし、富山くんの元へ駆け寄ってきた

その間も富山くんは「ぐっふ、ぐふふ!」と気持ち悪い笑みを浮かべ手を動かし続けた

富山くんの元にたどり着いた先生が「富山すごいぞ!」ちょっと棒貸してみろ!」と興奮気味に棒を取り上げると、棒の先端は黒ずんでいて、板には小さな火種が起こっていた

そこに先生がおが屑を少し乗せ慎重に息を吹き込み、おが屑に燃え移った瞬間に板から大きくなった火種を落とした

残りのおが屑に火が移り、数分前まで全員が絶望していた火起こしが完遂された

火が大きくなると歓声と拍手も次第に大きくなり「え?誰がやったの?」「富山すげー!」「富山くんやったじゃん!」と富山くんを讃える大歓声になった

富山くんはさっきまでの完全な異常者のような気持ち悪い笑顔から、やり遂げたまる賢者のような清々しい表情で、降り注ぐ賞賛を一身に浴びていた

その後「富山くん!私のもやって!」「その次は俺のやってよ!」とひっきりなしに呼ばれては火を起こし、また新しい棒を受け取ってはあっという間に火種を起こしていった

少し前には「ボッキマン」というひどいあだ名にになりそうだった富山くんは、この偉業からチャッカマン」と呼ばれクラス中の尊敬を集めることになった

実はこれは約15年前の話だ

なぜ唐突に思い出したかというと、私のTwitterタイムラインに「女装男性富山スタイル自慰行為をしている動画」が流れてきたからだ

その動画は口元までしか映っていなかったが、富山くんがあの時の見せた気味の悪い笑顔の口元を彷彿させていた

きっと彼は今日もどこかで自分ペニスで火起こしをしているに違いない

富山くん、もしこれを読んだらFacebookで連絡ください

いきなり訴訟とかは勘弁してください

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